ヘモクロマトーシスとはどんな病気か

 先天的または後天的な原因によって、体内貯蔵鉄(健康な人の体内鉄含量は1〜3g)が異常に増加し、肝臓、膵臓、心臓、皮膚、関節、下垂体(かすいたい)、精巣などの諸臓器の実質細胞に過剰に沈着し(鉄蓄積症(てつちくせきしょう))、その結果それぞれの臓器の実質細胞障害をもたらす病気です。


 その成因の違いから、原発性(特発性)と続発性(大量輸血、鉄剤・食事鉄の過剰摂取、無効造血、アルコール多飲、肝硬変など)とに分けられます(表13)。
 なお、鉄が主として網内系(もうないけい)組織に蓄積し、実質細胞への蓄積が少ないために臓器障害や機能障害を伴わない状態を、ヘモジデローシスといいます。

原因は何か

 原発性ヘモクロマトーシスは、常染色体劣性遺伝(じょうせんしょくたいれっせいいでん)によって、先天的な消化管の鉄吸収の亢進や鉄処理の異常により、鉄の過剰蓄積がもたらされると考えられています。病因遺伝子として、HFE遺伝子の変異が知られています。
 日本では、原発性ヘモクロマトーシスは欧米の3分の1以下(2000人に約1人)です。
 続発性ヘモクロマトーシスは、後天性にさまざまな病気や生活習慣などにより、鉄剤の過剰投与、鉄の過剰摂取などが原因となって引き起こされます。
 鉄は、血液中では鉄移送蛋白のトランスフェリンと結合していますが、その多くは貯蔵鉄であるフェリチン、ヘモジデリンとして肝臓、膵臓、心筋、皮膚をはじめ諸臓器の細胞内に存在しています。
 HFE遺伝子は、トランスフェリンレセプター(受容体)との間に相互作用があり、トランスフェリンとの親和性を阻害していますが、HFE遺伝子の突然変異があるとその相互作用がなくなり、鉄の過剰状態が起こるとされています。
 細胞内の鉄過剰が起こると、蛋白質に結合していない遊離の鉄が増加し、この遊離鉄がヒドロキシラジカル、アルコキシラジカル、パーオキシラジカル等の反応性の高い活性酸素分子種の形成を促進します。これらの活性酸素分子種が細胞内小器官の膜脂質の過酸化をもたらし、その機能を障害すると考えられています。

症状の現れ方



 原発性ヘモクロマトーシスの自然経過と検査所見、病態の推移を図8に示します。原発性ヘモクロマトーシスは、月経や妊娠・出産などで鉄が失われやすい女性には少なく、男性が5〜10倍多いのが特徴です。組織学的に鉄の沈着が認められても、症状が現れるまでには20〜40年を要するため、40〜60歳での発症が多くみられます。このころになると、体内の貯蔵鉄は20〜40gに達しています。
 臨床的には、肝硬変糖尿病、皮膚色素沈着の3主徴、さらに心不全を加えた4主徴のほかに、種々の内分泌障害(甲状腺・副甲状腺・下垂体の機能低下、性機能低下など)から性欲減退、陰毛や体毛の脱落、無月経、睾丸萎縮(こうがんいしゅく)などが、また関節症状(対称性のはれと疼痛)なども高頻度に認められるのが特徴です。

検査と診断

 肝硬変糖尿病、皮膚の色素沈着などの臨床症状から鉄過剰症の存在を疑い、鉄過剰のスクリーニングをしたあとに血清鉄濃度、トランスフェリン飽和度、フェリチン濃度などの著しい増加、デフェロキサン(デスフェラール)試験陽性など、貯蔵鉄の指標となる検査所見の異常を証明することで診断します。また、尿中の脱落上皮に鉄顆粒(かりゅう)を証明します。
 確定診断は、腹腔鏡による肝生検組織の検査、胃もしくは直腸の生検組織検査、肝生検組織の鉄染色、肝生検組織の鉄含有量の測定などによって行われます。
 肝臓の画像診断では、腹部単純CTとMRIが行われます。

治療の方法

 ヘモクロマトーシスの治療は、臓器に沈着した鉄を除去する治療と、鉄沈着により生じた臓器障害に対する対症療法とに分けられますが、前者が基本です。早期に診断し鉄を除去すれば予後は良好ですが、続発性のヘモクロマトーシスに対しては、原因となっている病気の治療が原則です。
 鉄の除去法には、瀉血(しゃけつ)(血液を大量に抜く方法)と鉄キレート薬(鉄排泄促進薬)投与の2つがあります。
 瀉血は最も効果的で、かつ安価です。瀉血による血液喪失によって軽度の貧血状態になることにより、造血が亢進するために臓器に沈着している鉄が血中に動員されるので、臓器中の鉄の減少が期待できます。
 通常、週1〜2回、300〜500mlずつ瀉血します。ヘモグロビンが11gdl、ヘマトクリットが30%、フェリチン濃度とトランスフェリン飽和度の正常化を瀉血治療の目標として、瀉血の量と頻度を調節します。
 しかし、瀉血によって鉄の吸収過剰の異常が改善されるわけではないので、フェリチンとトランスフェリン飽和度が正常になったあとも、その維持を目標にして数カ月に一度の瀉血が必要です。
 鉄キレート療法は、鉄の排泄促進薬であるデスフェラールを1日750〜2000mg、皮下注射または静脈注射で投与して、鉄の尿中への排泄の促進を図るものですが、効果は瀉血よりも劣ります。
 瀉血では貧血と血漿(けっしょう)成分の低下が問題となるので、低蛋白血症、貧血、重症心不全などが高度な患者さんには、瀉血の代わりに鉄キレート療法が適応となります。肝硬変に対しては、肝移植の適応となります。

予後について

 原発性ヘモクロマトーシスの予後は、瀉血療法の普及とともに改善されてきています。しかし、完成された肝硬変が合併すると、5年後、10年後の生存率はそれぞれ90%と70%であり、糖尿病が合併すると5年、10年後の生存率はそれぞれ90%、63%という報告があります。肝硬変のない場合には、瀉血療法を行うと生存率は健康な人と同等になります。
 また、この病気の瀉血群と非瀉血群の診断後5年および10年の生存率は、前者で66%と32%、後者では18%と6%という報告があります。
 原発性ヘモクロマトーシスの死因は、肝がんが全死因の30%と最も高頻度で、次いで肝硬変が19%、心不全が6%という報告があります。