急性膵炎とはどんな病気か

 膵臓は、蛋白分解酵素をはじめとして、食べ物を消化・分解するいろいろな酵素を産生し、分泌しています。急性膵炎は、いろいろな原因で活性化された膵酵素(すいこうそ)によって自分の膵臓が消化されてしまい、膵臓やその他の主要な臓器に炎症と障害が引き起こされる病気です。
 短期間で軽快する軽症から、多臓器不全(たぞうきふぜん)で死に至る重症(重症急性膵炎)まで、さまざまなケースがあります。年間の発症患者数は約3万5000人、そのうち重症膵炎は約5000人と推定されています。発症頻度は男性が女性の2倍で、男性は50代、女性は70代にピークがみられます。
 2003年急性膵炎の診療ガイドラインが普及されて以降、重症急性膵炎の死亡率は低下傾向にあるが、いまだ約9%に及ぶことから、早期の適切な診断と治療が必要な病気です。

原因は何か

 急性膵炎の原因として最も多いのはアルコール(37%)で、次に胆石(たんせき)(24%)と原因不明の特発性(23%)が続きます。内視鏡的膵胆管造影(ないしきょうてきすいたんかんぞうえい)(ERCP)や手術後、あるいは特殊な薬剤や、血液中の中性脂肪が高い脂質異常症によって引き起こされることもあります。それ以外の原因は極めてまれです。

症状の現れ方

 急性膵炎で最も多い症状は上腹部痛です。痛みの場所はみぞおちから左上腹部で、しばしば背部にも広がります。痛みの程度は軽い鈍痛から、じっとしていられないほどの激痛までさまざまです。
 何の前触れもなく痛みが起こることもありますが、食事後、とくに油分の多い食事をしたあとや、アルコールを多く飲んだあとに起こることも少なくありません。痛みは、膝を曲げて腹ばいになると和らぐことがあります(胸膝位(きょうしつい))。
 そのほかの症状としては吐き気、嘔吐、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、食欲不振、発熱などがあります。
 症状は、何日かかけて徐々に出てくることもあれば、突然現れることもあります。また、知らないうちに痛みがなくなってしまう場合もあります。また、次第に症状が悪化して、意識障害やショック状態(蒼白、血圧低下など)を起こすこともあります(重症化)。
 腹部所見としては、疼痛のみられる場所を中心として、押されると痛みが強く(圧痛)、また押されておなかが硬くなること(筋性防御(きんせいぼうぎょ))もあります。

検査と診断

 急性膵炎で現れる症状は、ほかの腹部疾患(胃・十二指腸の疾患や胆石症など)でもみられることが多いので、これらを見分けることが必要です。そこで、急性膵炎の臨床診断基準が作成され利用されています(表15)。
 ここで重要なことは、腹部症状・所見に加えて、血液や尿中の膵酵素の上昇、あるいは画像診断で急性膵炎の異常所見がみられることを確認することです。
 膵酵素としては一般にアミラーゼが有名で、ほとんどの場合、血清アミラーゼが検査されています。しかし、アミラーゼは膵炎で上昇しても、血液中で高値が続く期間が短いので、症状が出て何日かたってから受診すると、正常化していることがあるので注意が必要です。
 また、アミラーゼは膵炎以外の原因でも上昇することがあるので、膵炎と即断することはできません。そのため、膵炎での特異性が高い膵型(p型)アミラーゼや、血中リパーゼの測定が有用とされています。
 画像診断では、一般に腹部超音波検査(US)が行われ、膵臓のはれや膵周囲の炎症性変化(液体貯留など)が特徴的な所見として認められます。ただし、USは消化管にガスが多いと画像が不鮮明になるので、その時はX線CT検査やMRI検査を行います(図22)。
 急性膵炎は、重症度によって予後が異なります。また、重症度に基づいて治療法を選択する必要があるので、診断時に重症度判定をしっかり行うことが重要です(表16)。重症度の判定は、臨床所見と血液・尿生化学検査、および画像診断(造影CT検査)によって総合的に行い、軽症か重症かを判断します。

治療の方法

 治療の基本は、絶飲絶食による膵臓の安静と、初期の十分な輸液の投与です。食事や飲水は、間接的に膵臓を刺激して膵酵素の分泌を促し、膵炎を悪化させるので、急性期には厳密な絶飲絶食が必要です。また、膵炎では炎症のために大量の水分が失われているので、多量の輸液が必要になります。
 腹痛などの痛みに対しては、鎮痛薬を適宜使用します。さらに、膵酵素の活性を抑えるはたらきのある蛋白分解酵素阻害薬もよく使われます。軽症と中等症の多くは、このような基本治療で軽快します。
 重症膵炎では、さまざまな合併症に対する治療を行わなければならず、集中治療室(ICU)での全身管理が必要になることも少なくありません。また、血液浄化療法や蛋白分解酵素阻害薬の動脈注射療法などの、特殊な治療も検討されています。
 胆石性膵炎(たんせきせいすいえん)では、内視鏡を用いた胆管結石の除去や胆管ドレナージ(管を挿入して、たまった液を吸引する)が必要になることがあり、専門的な施設での診断・治療が要求されます。
 液体貯留の多い場合や重症膵炎では、急性期を過ぎた時期にしばしば仮性嚢胞(かせいのうほう)(滲出液(しんしゅつえき)などの液体が入った袋状の貯留物が、膵周囲あるいは腹腔内に認められる)が形成されることがあります。仮性嚢胞はそのまま自然に消えることもありますが、大きいものや感染を伴う場合、また出血の危険があるものは治療が必要です。治療には、嚢胞内に管を挿入して内容物を吸引するドレナージが主に行われます。

急性膵炎に気づいたらどうする

 急性膵炎は、日常しばしばみられる一般的な病気です。しかし、初期や軽症例では診断が困難なことが少なくありません。胃などの消化管の病気と間違われることや、逆にほかの疾患を急性膵炎と誤診することもあります。
 診断が遅れると、重症膵炎ではとくに生命に関わることがあるので、上腹部から左側にかけて強い腹痛や背部痛が突然起こった時には、消化器科を受診することをすすめます。また、重症の場合は高度の専門的な治療が必要になるので、集中治療室のある総合病院への転院も考慮します。
 症状が軽快して退院したあとにも、アルコールが原因の場合は、節酒あるいは禁酒をしっかり行うことが重要です。飲酒の再開によって膵炎が再発したり、慢性膵炎(まんせいすいえん)へ進展する危険性があります。
 また、胆石が原因の場合は、再発防止に胆嚢摘出術などの治療を考慮する必要もあるので、担当医とよく相談してください。
 急性膵炎の原因として、膵臓の腫瘍(とくに膵がん)によって起こる場合がまれにあります。アルコールや胆石などの、はっきりした原因がなく突然発症した、とくに中年以降の患者さんに対しては腫瘍の存在を念頭に置き、急性膵炎が治ったあとに腫瘍の検査を行う必要があります。