慢性膵炎とはどんな病気か

 継続的なアルコールの多飲などによって、膵臓に持続性の炎症が起こり、膵臓の細胞が破壊されて、実質の脱落と線維化(膵臓の細胞がこわれ、線維が増えて硬くなる状態)が引き起こされる病気です。このような変化の多くは元にもどりません。
 2002年に医療機関を受診した患者さんの数は4万5200人で、人口10万人で35・5人の罹患率と推定されます。慢性膵炎は以前、男性に非常に多い病気でしたが、近年は女性の患者さんの増加が目立ち、男女比は現在2対1とされています。発症年齢では男性50代、女性60代にピークがみられます。

原因は何か

 急性膵炎と同様にアルコール多飲による原因(アルコール性)が68%と最も多く、次に原因不明の特発性20・6%、胆石(たんせき)性3・1%と続きます。男女別の原因では、男性でアルコール性が76・6%に対し、女性では特発性が50%と最も多く、男女の違いが明らかです。
 最近、自己免疫異常による膵炎(自己免疫性膵炎(じこめんえきせいすいえん))が注目されており、従来は特発性とされていましたが、現在は、膵管狭細(すいかんきょうさい)型慢性膵炎という特殊型に分類されています。

症状の現れ方

 典型的な症状として上腹部痛、腰背部痛があげられます。疼痛はがんこで持続性ですが、間欠的に生じるものもあり、また程度も軽度なものから高度のものまで人によりさまざまです。そのほかの症状としては吐き気・嘔吐、食欲不振、腹部膨満感(ぼうまんかん)などがあります。
 診察時には、上腹部を中心に圧痛(押すと痛む)がみられます。また、背中の中央あたりをこぶしでぽんぽんと叩かれると、背部から腹部にかけて広がるような痛みを感じることもあります(叩打痛(こうだつう))。
 疼痛は食後(油分の多い食事)や、飲酒後に比較的起こりやすい傾向がみられますが、とくに誘因がなく突然起こることもあります。また、まれに、まったく痛みのない慢性膵炎も存在します。
 これらの症状は、膵臓の機能が比較的保たれている早期(代償期)にみられますが、膵組織が破壊され膵機能が著しく低下した後期(非代償期)には、かえって現れなくなります。


 しかし、慢性膵炎の後期には、膵臓の外分泌機能不全(がいぶんぴつきのうふぜん)による消化吸収障害としての脂肪性下痢や体重減少、あるいは内分泌機能不全(ないぶんぴつきのうふぜん)(インスリン分泌低下)による糖代謝障害(膵性糖尿病(すいせいとうにょうびょう))が認められるようになってきます(図23)。

検査と診断

 日本膵臓学会による慢性膵炎臨床診断基準が作成されています。基準によると慢性膵炎は診断の確かさの程度により、確診例、準確診例、疑診(ぎしん)例の3つに分類されています。


 確診例とは、(1)画像診断(超音波、CT)によって膵石(すいせき)(図24)、(2)内視鏡的膵胆管造影(すいたんかんぞうえい)(ERCP)によって膵管の不整拡張や狭窄(きょうさく)(図25)、(3)膵組織所見で膵実質の減少と線維化、のいずれかが証明されたものとされています。
 準確診例は、これらの検査所見の程度が確診例ほどではないものの、かなりの異常がみられるものであり、超音波やCT検査、磁気共鳴膵胆管造影(MRCP)、ERCPなどの画像診断を用いて、膵の形態や膵管の評価を行います。
 疑診例はさらに程度が軽く、主として各症状と膵酵素異常などが認められ、慢性膵炎確診、準確診に該当しないものをいいます。
 前述の臨床診断基準では、疼痛などの症状や血液、尿などの臨床検査所見は、慢性膵炎の診断のきっかけとはなりますが、診断基準には入れられていません。これは慢性膵炎の症状がさまざまで個人差も大きく、また、アミラーゼなど膵酵素の変動も症状と必ずしも一致せず、一定しないためです。
 慢性膵炎の早期には膵臓の形(形態)や膵臓の機能に異常が少ないので、臨床診断基準の確診、準確診に当てはまる症例が少なくなっています。このため、早期の慢性膵炎の診断は困難で、臨床診断基準では、ある程度進行したものしか診断できないという問題があります。

治療の方法

 経過中に急激に悪化して(急性増悪(ぞうあく))強い症状が現れた場合は、急性膵炎と同じ状態と考えられるので、同様の治療が必要になります。
 急性増悪まではいかないまでも、軽度から中程度の症状の場合は、原因あるいは誘因を極力避けることが必要です。すなわち、食事やストレスなどの生活習慣の改善が重要です。
 具体的には節酒・禁酒を守る、脂肪の多い食事を避け(脂肪量を1日40g以下にする)、蛋白質も0・5〜0・8gkg体重に制限します。また、過食を避ける、コーヒーを飲みすぎない、香辛料の使用を制限する、心身の安静を保つ、なども重要となります。
 急性増悪を繰り返す場合は、1回の食事量を少なくし、食事回数を4〜5回にして、分けて摂取するように指導します。
 腹痛が持続する場合は、鎮痛薬や鎮痙薬(ちんけいやく)などを使用します。また、消化酵素薬や膵酵素阻害薬(すいこうそそがいやく)の経口投与も軽症の患者さんには有効です。
 膵機能の低下による消化吸収障害に対しては、消化酵素薬の大量投与が必要になります。また、胃酸分泌抑制薬も併用します。膵性糖尿病は、通常の糖尿病で使用される経口糖尿病薬ではコントロールが困難な場合が多く、一般にインスリン注射が必要になります。
 慢性膵炎での特殊治療としては、膵石に対する対外衝撃波結石破砕療法(たいがいしょうげきはけっせきはさいりょうほう)(ESWL)や内視鏡治療、膵管狭窄や膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)に対するドレナージ治療(管を挿入して内容物を吸引する)などがあります。
 これらの治療法の発達で、慢性膵炎に対する外科的治療は以前に比べて少なくなりました。しかし、がんこな疼痛がどうしても改善しない場合や、重篤な感染を合併した時は、手術を行うことがあります。

慢性膵炎に気づいたらどうする

 腹痛や血清アミラーゼの軽度の上昇のみで、安易に慢性膵炎と診断され、漫然と投薬されている患者さんがよくみられます。まず消化器専門医の診察を受け、確実に慢性膵炎なのか、疑いが濃いのか、あるいは消化管などほかの疾患が考えられるのか、きちんとした診断を受けることが重要です。
 早期の慢性膵炎の診断は困難ですが、症状の原因となるようなほかの疾患が検査によって否定された場合には、早期の慢性膵炎の可能性を考えて、生活習慣の改善を中心とした治療を受けることも必要です。
 確実に慢性膵炎と診断された場合は、膵炎の進行阻止と合併症の予防が重要となってきます。ここでも治療の基本は生活習慣の改善であり、ほかは補助的な治療法であることをよく認識してください。
 慢性膵炎は、直接死に至る病気ではありませんが、仕事や家庭での生活の質(QOL)を著しく低下させることもあるので、決してあなどることはできません。また、慢性膵炎の長期的な経過をみると、悪性腫瘍による死亡が最も多いとされているので、定期的に検査を受けることが必要です。