糖尿病網膜症<代謝異常で起こる病気>の症状の現れ方

 糖尿病網膜症は急激に進行するわけではなく、数年から10年以上かけて徐々に進んでいきます。網膜の中心部である黄斑部(おうはんぶ)に浮腫(むくみ)が発生すれば(黄斑症)、視野中心部のゆがみや視力低下を自覚してきます。軟性白斑や網膜出血が黄斑部に多発するようになると部分的な視野異常を自覚することもあります。
 軽度の硝子体出血では“かすみ”や飛蚊(ひぶん)症(視野に蚊が飛んでいるように見える)、高度の硝子体出血では視力低下を自覚します。網膜剥離が進行すると、網膜剥離に相当する部位の視野欠損が自覚されるようになります。
 いずれにしても自覚症状が認められるのはほとんどが増殖網膜症の時期になってからで、その時点ではすでに手遅れの状態になっていることが、この病気の特徴であり恐ろしいところです。

糖尿病網膜症<代謝異常で起こる病気>の診断と治療の方法

 糖尿病網膜症の発症・進行には、血糖コントロールの良否と罹病(りびょう)期間が強く影響しており、その進行を防ぐためには血糖値を下げることが必要です。しかし、やみくもに血糖値を下げることがよいのかどうかというと、答えはノーです。
 罹病期間が長く、進行した網膜症で、長期間無治療またはコントロール不良の症例において血糖値を急激に下げると、網膜症が短期間のうちに悪化してしまうケースがしばしばあります。現在では血糖コントロールの基準としてヘモグロビンA1C(HbA1C)6・5%未満を目標としますが、前増殖網膜症もしくは増殖網膜症のある症例のコントロール改善速度として、1カ月にHbA1Cを0・5%程度のペースで下げていくことが妥当と考えられています。
 また血圧が網膜症などの糖尿病合併症に影響することが証明されています。したがって高血圧の治療も網膜症にとって重要になります。
 厳格な血糖コントロールが網膜症の進行予防に必要なことはすでに述べたとおりですが、実際の臨床では個々の症例をすべて良好に管理することは不可能です。合併症としての網膜症を目標にした薬物治療が望まれますが、現時点で臨床的に網膜症に有効な薬剤はありません。
 糖尿病網膜症に対する眼科的治療は、網膜レーザー光凝固(ひかりぎょうこ)と硝子体手術があります。網膜レーザー光凝固は網膜に凝固斑をつくるために視野障害、色覚異常、視力低下などが発生することがあり、単純網膜症の時期からやみくもに行ってよいというものではありません。網膜レーザー光凝固が適しているのは、すでに血管新生が発生している増殖糖尿病網膜症の病期はもちろんですが、血管新生の発症を予防する意味で、前増殖糖尿病網膜症の病期に行うのが最もよいと考えられます。
 しかし、硝子体出血のある症例では網膜レーザー光凝固自体が不可能になります。さらに網膜レーザー光凝固に反応しない黄斑症(おうはんしょう)も大きな失明の原因になっています。このようなケースでは、ステロイド薬の眼球周囲もしくは眼内への注射がある程度の効果が認められる場合があります。網膜レーザー光凝固やステロイドの注射が効かないケースでは硝子体手術が最後の砦になります。硝子体手術では硝子体出血を除去するとともに、硝子体出血や牽引性(けんいんせい)網膜剥離の原因になっている血管増殖膜を取り除き、網膜を元の位置にもどすことが目的で、失明例は十数年前に比べると激減しました。