肥満症<代謝異常で起こる病気>の症状の現れ方

 肥満の自覚症状として頻度の高いものは呼吸障害です。睡眠時に、いびきや10秒以上の無呼吸が頻繁に認められ(睡眠時無呼吸(すいみんじむこきゅう)症候群)、日中の注意力障害、居眠りを起こしたりします。さらに重症になると、チアノーゼ(皮膚などが紫色になる)、多血症(たけつしょう)、右室肥大(うしつひだい)、右心不全(うしんふぜん)などを起こすこともあります(ピックウィック症候群)。
 また、過度の体重負担により、下肢の関節(股(こ)関節、膝(しつ)関節)、腰椎(ようつい)が障害され、腰痛、下肢痛などを起こします。
 さらに、肥満によりさまざまな健康障害を起こしやすくなります。2型糖尿病高血圧脂質異常症(ししついじょうしょう)、高尿酸血症(こうにょうさんけつしょう)・痛風(つうふう)、動脈硬化症(心血管障害、脳血管障害)、脂肪肝は肥満により2〜5倍合併しやすくなります。これらの合併症は、皮下脂肪型肥満よりも内臓脂肪型肥満のほうに起こりやすいことがわかっています。
 内臓脂肪蓄積に基づいて複数の病気が集積した病態は、最近は「内臓脂肪症候群」あるいは「メタボリックシンドローム」と呼ばれており、動脈硬化から心筋梗塞(しんきんこうそく)などを起こしやすいものとして注目されています。こうしたことから、内臓脂肪型肥満はハイリスク肥満とも呼ばれています。日本でもメタボリックシンドロームは激増しており、警鐘が鳴らされています。
 そのほかに、肥満に合併しやすいものとして、胆石、生理の異常(無月経、月経不順)などがあり、最近は悪性腫瘍(大腸がん胆嚢(たんのう)がん乳がん、子宮がん、前立腺(ぜんりつせん)がんなど)が合併しやすいといわれています。
 極度の肥満の場合は、上腕部、腹部、大腿部に皮下脂肪の断裂による皮膚線条が現れることもあります。また、うなじや腋窩(えきか)などに黒い色素沈着が現れることもあります(黒色表皮腫)。

肥満症<代謝異常で起こる病気>の診断と治療の方法

 二次性肥満に対しては、原因となっている病気の治療が中心になります。通常の肥満の治療の基本は、食事療法と運動療法です。薬物療法、外科療法は日本ではほとんど行われていませんが、補助的な手段として使われることがあります。
 食事療法と運動療法は、いっしょに行うことが重要です。食事療法だけでは、途中から減量効果がなくなる「適応」と呼ばれる現象が現れやすく、挫折することが多いのです。この現象は生体防御機構のひとつと考えられており、減量に伴って基礎代謝で使うエネルギーが低下することが原因です。また、食事療法だけでは、脂肪ではなく大切な体のなかの構成成分が減ってしまうことにもなりかねません。
 肥満の治療は長い期間にわたります。一時的に体重が減ることはあっても、その後の体重増加(リバウンドと呼ばれる)を起こすことが多く、理想的な体重を維持できる割合は非常に少ないのです。減量した体重を維持するためには、肥満の原因になった食習慣などの生活習慣を改善することが重要です。
 具体的には、1日の食事の時間、内容、摂取状況などをくわしく記録して、肥満の原因となる食行動や習慣を明らかにします。同時に体重を1日に数回測定してグラフにして記入しておくと、問題となる食行動がわかりやすくなります。こうした方法は行動療法と呼ばれ、最近注目されています。
 さらに、減量を行うにあたっては、無理のない治療目標を立てる必要があります。体脂肪を1kg減らすためには、約7000kcalのエネルギーを減らすことが必要です。食事療法だけでは、1日にごはんを3杯減らしたとしても、2週間くらいかかる計算になります。よく減量できたように思っても、水分が抜けているだけの場合も多いのです。1カ月に1〜2kg程度の減量が無理のないところです。

食事療法
 肥満症の治療では、食事療法がその中心的役割を占めます。ただし、摂取する食事内容だけではなく、食習慣にも注意を払う必要があります。また、運動療法と並行して行うことが必要であることは、前に述べたとおりです。
 食事療法を行ううえで考えなければならないのは、健康に障害を与えないで体脂肪を減らすことです。無理な食事療法は体脂肪だけでなく、体のなかの蛋白質、骨量などを減らすことになります。そのために重要な事項は、(1)摂取エネルギーの設定、(2)栄養素の配分、(3)食習慣の改善です。

(1)摂取エネルギーの設定
 体脂肪を減らすためには、摂取エネルギーを消費エネルギーより低く設定する必要があります。しかし、健康な日常生活を送るうえで必要なエネルギー摂取量があります。
 糖尿病の食事療法のところでも述べましたが、1日の必要エネルギー量は、標準体重に身体活動強度に基づく必要エネルギー量をかけることで求められます。通常の仕事の人では、標準体重に25〜30kcalをかけたあたりが必要エネルギーとなり、それからさらに低く設定することで減量効果が得られることになります。
 外来で行う、通常の日常生活での食事療法では、こうした減食療法として1200〜1800kcalの範囲で摂取エネルギーの設定を行うのが普通です。減量のために入院した場合には、医師の管理下で、さらに低いエネルギーでの食事療法を行うこともあります。
 とくに肥満の程度が強い場合は、超低エネルギー食療法(VLCD)と呼ばれる、1日に200〜600kcalしか摂取しない半飢餓(はんきが)療法を行うこともあります。

(2)栄養素の配分
 摂取エネルギーを抑えるためには、3大栄養素である糖質(炭水化物)、蛋白質、脂肪、およびビタミン、ミネラルについての適切な配分が必要です。
 糖質は制限しすぎると、体の蛋白質や脂肪からエネルギーが急激に動員されるため、体蛋白質の減少やケトン体が血液中に増えることがあります。そこで、糖質は1日に100g以上とるようにします。ごはんなら軽く1膳くらいです。
 逆に、糖質を過剰にとると、体のなかで脂肪になるので注意しましょう。過剰の糖質の約3割が脂肪として蓄積します。
蛋白質は、内臓、筋肉などの蛋白質でできている活性組織の萎縮を防ぐために、標準体重1kgあたり1・0〜1・2gの摂取が必要です。
 脂肪については、ビタミンA・D・E・Kなどの脂溶性ビタミンは脂肪といっしょに吸収されるので、1日に20gくらいの摂取が必要です。しかし、蛋白質食品を必要量とっていれば脂肪も十分に含まれているので、高脂肪食品をとる必要はありません。
 ビタミン、ミネラルの不足は体の機能異常、疲労感を起こすので、必要量をとらなければなりません。そのためには、緑黄色野菜、豆類、乳製品を十分に摂取するとよいでしょう。
 ダイエット中は、水溶性ビタミンの補給のために総合ビタミン剤を併用するのもひとつの方法です。また、便通を整えるために食物繊維を十分に摂取します。

(3)食習慣の改善
 食事の量・内容だけではなく、食習慣を正しく改善する必要があります。1日3食の規則的な食事、かため食い・早食いの是正、1日の摂取量の半分以上を夜にとる夜食症候群の改善などです。

運動療法

(1)運動療法の目的と効果
 肥満の治療として運動療法を行うことのねらいの第1は、体脂肪を減少させることです。運動を行うと、脂肪組織に蓄積されていた中性脂肪が分解し、そこで生じた遊離脂肪酸が筋肉で効率よく利用され、体脂肪が減少することになります。
 さらに、合併症を起こしやすい内臓脂肪型肥満にとって、運動はとりわけ効果があります。内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、運動によって燃焼しやすいからです。
 運動療法の第2の目的は、太りにくい体質をつくることです。運動によって、生命活動に最低限必要なエネルギーである安静時の基礎代謝が上昇します。
 また、運動によりインスリンのはたらきがよくなり、糖尿病になりにくくなります。インスリンのはたらきがよくなることで、インスリンの分泌量が下がるので、インスリンによる体脂肪蓄積作用を軽くすることができます。さらに運動は、脂肪合成酵素のはたらきを抑えることで脂肪をたまりにくくします。
 運動には、そのほかにも次のような効果があります。
・心肺機能の増強と筋力の増強により、体力と運動能力を向上します。
・骨のカルシウムを保持し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を予防します。
脂質異常症高血圧を改善し、動脈硬化を予防します。
・運動による爽快感とストレス解消が得られ、ストレスによる過食を防ぎます。
 なお、狭心症(きょうしんしょう)や下肢の関節障害などがある場合は、運動を制限あるいは禁止したほうがよい場合もあります。疑わしい場合は、運動療法を始めるにあたってメディカルチェックを行って、主治医と相談することが必要です。

(2)運動療法の実際
 運動療法によるエネルギーの消費自体は、それほど大きなものではありません。適度な運動は食欲を増進するため、食事療法を同時に行わないとかえって体重増加を招いてしまうことも少なくありません。
 いろいろな運動の消費エネルギーは、糖尿病の運動療法のところ(表14)に示しましたが、体脂肪を減らすためには運動による消費エネルギーを、1日200〜300kcal程度とするのがよいでしょう。歩行(ウォーキング)では1時間くらいです。
 先ほど述べた運動による体質改善作用は3日以内に低下するため、運動は週に3回以上、1日合計30〜60分行うのが望ましいと考えられます。
 運動の強さは、最大限に体力を使った時の50%前後の強さがよいとされています。脈拍数でいうと1分あたり110〜130になるくらいの運動で、早足での歩行などがこれに相当します。しかし、運動習慣がない場合に、いきなり長時間早足で歩いたりすると、膝(ひざ)や足などを傷めることが多いので、徐々に運動を強くしていき、時間を延ばすようにします。
 運動の時間がうまくとれない場合は、通勤で歩いたり、なるべく階段を使うなどの工夫で運動量を増やすようにします。歩数計をつけて1日に7000歩以上を目標にするのもよい方法です。
 運動の種類には、歩行、ジョギング、自転車、水泳など全身を使う有酸素運動と、筋力トレーニングなどの無酸素運動がありますが、有酸素運動は脂肪を燃焼させる効果があり、体脂肪減少のためには無酸素運動より適しています。有酸素運動のなかでも、自転車、水泳、水中歩行などは、膝と足への負担が少なく肥満者に適しています。
 運動をする時間はいつでもよく、空腹時のほうが体脂肪が分解しやすい利点があります。しかし、糖尿病の人でインスリンや糖尿病ののみ薬を服用している場合は、低血糖の用心のため、運動はなるべく食後1〜2時間に行うようにします。