溶血性貧血とはどんな病気か

 ヒトの赤血球には約120日の寿命があります。この寿命が異常に短縮した状態を、溶血と呼びます。赤血球の寿命が短くなっても、ヒトの骨髄(こつずい)では普通の状態の6〜8倍、赤血球を作る能力があるため、その程度が軽い場合には貧血は起こりません。赤血球の寿命が15〜20日より短くなって、初めて貧血が起こります。
 溶血性貧血は、先天性のものと後天性のものとに分けられます。先天性では、赤血球そのものの異常が溶血の原因ですが、後天性の溶血性貧血は、発作性夜間血色素尿症(ほっさせいやかんけっしきそにょうしょう)などの一部を除いて、赤血球に対する抗体や、血管壁の異常などの赤血球以外の異常によって起こります。


 表3は溶血性貧血の分類を示しています。先天性では遺伝性球状赤血球症が、後天性では自己免疫性(じこめんえきせい)溶血性貧血が、それぞれの過半数を占めています。溶血が起こる場所には、血管のなかと、脾臓(ひぞう)をはじめとする網内系(もうないけい)組織との2種類があります。

原因は何か

 最も頻度の高い自己免疫性溶血性貧血では、赤血球を壊す自己抗体が体のなかにつくられてしまうことが原因です。ウイルス感染や、薬剤の使用に引き続いて起こることもありますが、ほとんどの例で誘因は不明です。全身性エリテマトーデスのような膠原病(こうげんびょう)や悪性リンパ腫を合併している例もあります。
 また、血管壁の病的な変化や、外部からの物理的な力によって赤血球が壊されて起こるタイプの溶血性貧血(赤血球破砕(せっけっきゅうはさい)症候群)もあります。
 先天性の溶血性貧血では、遺伝子の異常のために赤血球の膜をつくっている蛋白や酵素に異常があるため、赤血球が壊れやすくなっています。

症状の現れ方

 溶血性貧血では、動悸(どうき)・息切れ・疲れやすさなどの通常の貧血症状に加えて、黄疸(おうだん)がみられることが特徴です。これは、壊れた赤血球内のヘモグロビンが体内で大量に処理された結果、間接ビリルビンという黄色の色素が体内で増えるためです。同時にこのビリルビンは尿中にも排泄されるため、尿の色が濃くなったり、血管内溶血の場合には赤色やコーラ色の尿が出たりすることもあります。溶血が慢性化すると、このビリルビンが胆嚢(たんのう)にたまるため、結石ができやすくなります。
 伝染性紅斑(でんせんせいこうはん)(りんご病)の原因ウイルスであるパルボウイルスB19が溶血性貧血の患者さんに感染すると、急速に貧血が進行することがあります。
 溶血性尿毒素(ようけつせいにょうどくそ)症候群や血栓性血小板減少性紫斑病(けっせんせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう)などの赤血球破砕症候群では、貧血症状に加えて発熱、腎障害、意識障害などがみられます。

検査と診断

 血液の検査が最も重要です。これによって、貧血とともに、間接ビリルビンや乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇が示されれば、溶血が強く疑われます。
 軽度の溶血を検出する最も鋭敏な検査所見は、血清ハプトグロビンの低下と網赤血球の増加です。赤血球に対する自己抗体を検出する検査がクームス試験です。これが陽性であれば自己免疫性溶血性貧血と診断できます。前述した赤血球破砕症候群が疑われる場合に最も重要な検査は、赤血球の形態の観察です。遺伝性溶血性貧血を診断するためには、遺伝子や蛋白の異常を生化学的に証明する必要があります。

治療の方法

 自己免疫性溶血性貧血では、副腎皮質ステロイド薬(プレドニン)が第一選択薬です。これによって約9割の患者さんが改善します。これが無効の場合には、シクロホスファミド(エンドキサン)やアザチオプリン(イムラン)などの免疫抑制薬が使われます。最近では、抗体をつくっているBリンパ球に対するモノクローナル抗体製剤(リツキサン)が難治性の自己免疫性溶血性貧血に有効であることが示されています。
 遺伝性球状赤血球症やピルビン酸キナーゼ欠乏症などの遺伝性溶血性貧血では、脾臓を摘出することによって貧血が改善することがあります。

溶血性貧血に気づいたらどうする

 家系内に溶血性貧血の患者さんがいる場合には、その患者さんの治療方針に準じます。家系内に同様の症状の患者さんがいない場合には、血液内科を受診して、溶血の原因をまず明らかにする必要があります。慢性溶血性貧血では、パルボウイルスB19感染による急速な貧血の進行と胆石に注意が必要です。