慢性骨髄性白血病とはどんな病気か



 造血幹細胞(ぞうけっかんさいぼう)(すべての血液細胞のもとになる細胞)が腫瘍化して発生する血液腫瘍(けつえきしゅよう)で、白血球が著しく増加する病気です。しかし、いわゆる遺伝性のものではなく、子孫への影響はありません。通常、病気の進展に伴い、慢性期、移行期、急性期に分けられます(図8)。
 最近は、健康診断などにより、白血球の増加を指摘されて発見される場合が多くなってきています。治療は、イマチニブ(グリベック)という薬が主として用いられますが、最近、ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)といった新薬が登場して、イマチニブの効果が不十分な場合などに使われるようになってきています。

原因は何か

 すべての遺伝子は、細胞のなかにある46本の染色体(ひも状のもので、1番から22番まで2本ずつある常染色体(じょうせんしょくたい)と、2本の性染色体(せいせんしょくたい)からなる)に存在しています。慢性骨髄性白血病では、ほとんどの場合で9番染色体と22番染色体が途中で切断され、それぞれ相手方の染色体と結合する異常が認められます。


 この異常な染色体をフィラデルフィア染色体と呼んでいます(図9)。この結果、新たにBCRABLと呼ばれる異常な遺伝子が形成されます。この遺伝子からBCRABL蛋白質が産生され、これが慢性骨髄性白血病の発生原因と考えられます。しかし、どのような原因によってフィラデルフィア染色体が形成されるのかはわかっていません。

症状の現れ方

 慢性期では、全身のだるさ、体重減少、皮膚のかゆみなどのほかに、肝臓あるいは脾臓(ひぞう)の腫大による腹部膨満感(ぼうまんかん)を自覚することがあります。そのほか、胃潰瘍を合併することもあります。しかし、自覚症状がない段階で、健康診断などにより白血球増加を指摘されて発見されることもしばしばあります。
 急性期(急性転化)では、動悸(どうき)・息切れ・全身のだるさなどの貧血症状、皮下出血・鼻血・歯肉出血などの出血症状、発熱などの感染症状のほか、関節痛、骨痛などが現れる場合があります。

検査と診断


(1)慢性期

 血液検査で、白血球数の増加が認められます。健常人では成熟した白血球のみが血液中に認められますが、この病気では原則として幼若な細胞から成熟した細胞まで、すべての段階の白血球が出現するのが特徴です。また、白血球の一種である好塩基球(こうえんききゅう)の増加をしばしば認めます。
 そのほか、触診あるいは腹部超音波検査などによる脾臓の腫大、血液検査による好中球(こうちゅうきゅう)アルカリフォスファターゼ活性の低下なども参考になります。
 確定診断のためには骨髄検査を行い、骨髄の形態、フィラデルフィア染色体の有無およびBCRABL遺伝子の有無を調べる必要があります。しかし、ごく一部に、BCRABL遺伝子のみが証明されて、フィラデルフィア染色体を認めない例もあります。
(2)急性期
 血液検査では、慢性期と異なり幼若な白血球の増加が顕著になります。また、貧血や血小板数の低下の進行を認めます。好中球アルカリフォスファターゼ活性は上昇に転じます。
 骨髄検査では、幼若な白血球の増加とともに、フィラデルフィア染色体以外の新たな別の染色体異常が加わる場合が多く認められます。
(3)鑑別診断
 白血球が増加するほかの病気としては、感染症、心筋梗塞(しんきんこうそく)、甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)などの内分泌疾患、悪性腫瘍、熱傷(ねっしょう)、手術後などがあります。また、一部の薬物や妊娠、寒冷な環境によって白血球が増加することがあります。
 この病気の慢性期と同様に、幼若なものから成熟したものまで、すべての段階の白血球が増加する病気としては、骨髄線維症(こつずいせんいしょう)をはじめとするほかの慢性骨髄増殖性疾患があげられます。しかし、ほかの慢性骨髄増殖性疾患では、フィラデルフィア染色体およびBCRABL遺伝子を認めません。
 急性期の場合は、幼若な段階の白血球が著しく増加するという点で、急性骨髄性および急性リンパ性白血病と極めて似た病像を示します。フィラデルフィア染色体の有無、あるいは慢性期が存在していたか否かなどが鑑別材料となりますが、急性期で初めて診断された場合には鑑別が困難な場合があります。

治療の方法


(1)慢性期
・イマチニブ(グリベック)



 BCRABL蛋白のはたらきを抑える薬です。慢性期の症例に対して極めて優れた効果があり、服用を続けた場合には、図10に示したように、血液学的改善およびフィラデルフィア染色体陽性細胞数が減少する確率が非常に高いのが特徴です。


 高価であるなどの問題がありますが、その優れた治療成績により、最初に選択される薬になっています。しかし、十分な効果を得ることができなかったり、副作用(表12)により服用を中止せざるをえない例が約20%にみられます。
 また、この薬のみで完治することは難しいと考えられていることから、効果がある場合でも、長期間にわたり服用を続けることが必要とされています。
・ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)
 イマチニブと同様にBCRABL蛋白のはたらきを抑える新しい薬です。高価であり、また胸水や心電図異常などの副作用が現れる場合もありますが、イマチニブが効かない場合や、副作用によりイマチニブを続けることができない例などで効果が期待されています。
・インターフェロン
 イマチニブと比較すると効果が得られる確率は劣りますが、インターフェロン療法によりフィラデルフィア染色体陽性の細胞数が減少した症例では、生存期間の延長が報告されています。


 問題点としては、注射薬であることから長期間にわたり自己注射が必要であること、副作用(表13)により継続が困難になる例が約20%あることなどがあげられます。
・経口抗がん薬
 経口抗がん薬であるブスルファン(マブリン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)が白血球数および脾腫のコントロールを目的として使用されることがあります。しかし、この治療法により最終的に病気の進展を防ぐことは困難と考えられています。
・造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)移植
 現在のところ、治癒をもたらしうることがわかっている唯一の治療法です。この治療法を選択するためには、年齢の制限(通常は50〜55歳以下)のほか、白血球の型が一致したドナー(骨髄血(こつずいけつ)を提供する人)がいることが必要です。また、移植に伴う合併症の危険もあることから、その適応は慎重に検討されます。
 最近、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性(ひはかいせい)造血幹細胞移植も試みられています。
(2)急性期
 急性期に対しては、投与量を多くしたイマチニブ療法、急性白血病と同様の抗がん薬による化学療法などが試みられます。イマチニブの効果が不十分な例に対してはダサチニブも用いられます。
 造血幹細胞移植については、慢性期での移植と比較すると治療成績が著しく劣るため、適応については非常に慎重に検討されます。

生活での注意

 慢性期では、食事、運動など日常生活全般についての制限はほとんどありません。旅行、スポーツを行うことも原則として問題ありません。
 どの治療法を行っている場合でも、服薬を忘れないようにすることと、定期的な血液検査を受けることが大切です。また、薬剤の副作用が疑われるような症状を認めた場合には、すみやかに医療機関を受診する必要があります。
 急性期で、成熟した白血球や血小板数が少ない場合は、発熱、出血などの症状に十分注意する必要があります。