狂犬病とはどんな感染症か

 狂犬病は、その死亡率の高さと独特の症状のために、古くから恐れられていた代表的な人獣共通(じんじゅうきょうつう)感染症で、感染症法では4類感染症に指定されています。
 狂犬病の病原体は狂犬病ウイルスで、狂犬病の動物の唾液中に高濃度で含まれています。このため、普通は狂犬病の動物に咬まれて感染しますが、ひっかかれたり、傷のある皮膚をなめられたりしても感染します。
 狂犬病のコウモリがすんでいた洞窟に入っただけで感染した研究者もいます。この場合は、洞窟のなかでは狂犬病ウイルスを含んだコウモリの唾液がエアロゾル(空気中に浮遊する微小な粒子)になっていて、これを吸い込んだために感染したと考えられています。
 また、狂犬病と診断できなかった患者さんから提供された角膜などの臓器移植を受けて、狂犬病を発病して死亡したケースも報告されています。

症状の現れ方

 狂犬病の潜伏期は普通は1〜3カ月ですが、7〜8%の患者さんでは1年を超えることもあります。咬み傷から体内に入った狂犬病ウイルスは、傷口付近の筋肉細胞のなかで増えてから神経線維のなかに侵入して、神経線維のなかを脊髄(せきずい)に向かって進みます。狂犬病ウイルスが脊髄に達すると、初めて症状が出ます。
 この時期に現れる比較的特徴的な症状は、一度治った咬み傷が再び痛んだり、古傷のまわりがかゆくなったり、傷口付近の筋肉がけいれんしたりすることです。ほかにも、発熱やだるさなど多くの病気でみられるような症状が現れます。
 さらに狂犬病ウイルスが脊髄から脳に達すると、患者さんは言いようもなく強い不安感に襲われます。また、水を飲もうとすると、のどの筋肉がけいれんして強い痛みが起こるため、患者さんは水を避けるようになります。恐水症(きょうすいしょう)といわれるこの症状は狂犬病に特徴的なもので、狂犬病が恐水病とも呼ばれるのはこのためです。
 さらに病気が進行すれば、高熱や全身のけいれん発作が起こり、やがて昏睡(こんすい)状態に陥り、死亡します。狂犬病の致死率はほぼ100%で、現代の医学をもってしても、発病した狂犬病を治すことはきわめて困難です。現在まで救命できたと報告されている狂犬病患者は6例だけです。

検査と診断

 狂犬病を早期に診断するうえで役立つ検査法は、今のところありません。
 狂犬病の診断には、患者さんの唾液や脳脊髄液から狂犬病ウイルスを分離したり、狂犬病ウイルスの遺伝子を証明する方法、皮膚生検標本や角膜擦過(かくまくさっか)標本で蛍光(けいこう)抗体法によって狂犬病ウイルス抗原を証明する方法などがあります。しかし、いずれも狂犬病ウイルスが脳内で増殖したのち、唾液腺や皮膚に移動したあとでなければ陽性になりません。狂犬病の初期には狂犬病抗体も陽性にはなりません。
 患者さんに恐水症のように特徴的な症状があり、アジア、アフリカ、中南米など狂犬病の常在地でイヌなどの狂犬病危険動物に咬まれた既往歴があれば、臨床的に狂犬病と診断することも可能ですが、咬傷(こうしょう)歴が不明の場合には臨床的に診断することは困難です。

治療の方法

 発病してしまった狂犬病の治療法はまだ確立されていません。
 しかし、狂犬病の長い潜伏期を利用して、狂犬病の動物に咬まれたあと、すぐに狂犬病ワクチンを、最初の接種日を0日として、0、3、7、14、30日に、必要があれば90日にも接種することによって狂犬病の発病を阻止することができます(狂犬病曝露(ばくろ)後発病予防)。

狂犬病に気づいたらどうする

 狂犬病の治療法は確立されていないので、病気に気づいてからの対処では遅すぎます。狂犬病が疑わしい動物に咬まれたら、前述したように、すぐに狂犬病ワクチンの接種を受けます。
 狂犬病の常在地に1カ月以上滞在したり、旅行する時には、あらかじめ3回の狂犬病ワクチン接種をすませおくとよいでしょう(狂犬病曝露前免疫)。ただし、狂犬病ワクチン接種を3回すませた人でも、狂犬病の危険動物に咬まれたら、再び少なくとも2回の狂犬病ワクチン接種を受けなければなりません。
 2006年にフィリピンでイヌに咬まれた男性2名が、帰国後に狂犬病を発病して亡くなりました。日本国内では50年以上前から狂犬病の発生はありませんが、数時間の空路の旅で行くことができるアジア地域の国々では、狂犬病の発生が続いています。狂犬病は決して過去の病気ではないことを忘れてはなりません。