トキソプラズマ症とはどんな感染症か

 トキソプラズマ症は自然界の動物に比較的広範囲にみられる人獣共通(じんじゅうきょうつう)感染症で、日本人でも成人の20〜30%がトキソプラズマ原虫に感染しています。トキソプラズマ症に感染したネコなどの便に含まれるオーシスト(卵嚢子(らんのうし))に汚染された飲食物や、シスト(嚢子)を含む羊肉などを生焼けで食べたりすることにより感染します。
 トキソプラズマ感染後にエイズなどで免疫不全状態になった場合、あるいは妊婦が妊娠初期に初感染し、原虫が母体から胎児へ移行して垂直感染を起こした場合以外は、症状を示すことはまれです。

症状の現れ方

 先天性感染は流産・早産といった転帰をとることが多いと考えられています。妊婦の感染で胎児に影響が及ぶのは、感作(かんさ)されていない母親が妊娠初期に初めて感染した場合に限られています。患児は網脈絡膜炎(もうみゃくらくまくえん)、脳水腫(のうすいしゅ)、脳内石灰化、精神・運動機能の発達遅延などの症状を示します。
 健常者が後天的に感染した場合、ほとんどが無症状のまま経過することが多いのですが、免疫力が低下している人の場合は、髄膜脳炎(ずいまくのうえん)、心筋炎(しんきんえん)、肺炎、リンパ節炎、網脈絡膜炎を起こすことがあります。とくにエイズなどの免疫不全状態では致死性の脳炎に進むことがあります。

検査と診断

 感染の有無の判定は一般に血清中の抗体の検査により行われます。凝集法、免疫酵素抗体法、色素試験などがあります。血清抗体の検査にはIgGとIgMの2種類の検査があります。感染の初期にはIgMが、それ以降はIgGが上昇するので、IgGとIgMを区別したり、抗体の親和性を調べることでいつ感染したか推定できることもあります。
 また、患者さんの脳脊髄液やリンパ節組織を材料としてトキソプラズマのDNAを増幅したり、患者さんの血液中のトキソプラズマの抗原を免疫酵素抗体法で検出する方法も、一部の研究機関で行われています。

治療の方法

 トキソプラズマ症を完全に治療できる薬は見つかっていません。患者の脳や骨格筋・心筋などにいて休眠しているシスト(嚢子)と呼ばれる原虫を殺す薬はないからです。活発に分裂・増殖するトキソプラズマ原虫にはピリメタミン、サルファ剤、アセチルスピラマイシンなどが有効とされ、トキソプラズマ症の治療に用いられています。

予防のために

 妊娠初期にトキソプラズマに初めて感染すると、胎児が先天性トキソプラズマ症になる可能性があります。この時期にはネコとの接触を避ける、食肉は十分に加熱するなどの注意が必要です。
 すでに感染している女性が妊娠した場合は、胎児に先天性感染を起こす危険はまずありません。