痘瘡(天然痘)とはどんな感染症か

 天然痘は通称名で、医学用語では痘瘡といいます。紀元前1万年以上も前からアジア、アフリカの農村で出現し、人類史上最も致命率の高い感染症として恐れられてきました。20世紀だけでも2〜3億人が死亡したとされています。
 痘瘡はヒトからヒトへしか伝播(でんぱ)しないことが疫学的に証明されていること、またワクチンが極めてよく効くことの2つの条件が、1967年〜77年に行われたWHO(世界保健機関)の痘瘡根絶計画を成功に導きました。感染者(患者)と他のワクチン未接種者との接触を断つという、極めて素朴な理論の実践の成果であったといえます。人類が永年にわたる感染症との闘いに勝利したのは、唯一この疾患のみであり、20世紀の医学最大の快挙といってもよいでしょう。

WHOの天然痘根絶計画

 根絶計画が開始された1967年ころ、痘瘡は世界の33カ国で流行状態にありました。10年後の1977年10月26日、アフリカ・ソマリアの男性例を最後に、この疾患の歴史が幕を閉じました。2年間のサーベイランス(患者の有無の確認)がなされ、1980年に「根絶宣言」が出されました。
 その後、痘瘡ウイルスは、自由主義国では米国(アトランタ)、共産主義国では旧ソ連(モスクワ)に保有ウイルスが移管され、一定期間保管後廃棄することになり、現在まで10回の会議が開かれていますが、まだ廃棄はされていません。
 2001年9月の米国における航空機乗っ取りによる同時多発テロ、続く10月の炭疽菌(たんそきん)テロの発生以来、「次のテロでは痘瘡ウイルスが使われるのでは?」と、WHOをはじめ世界は警戒体制に入り、新たなワクチンの開発・再生産に走りだしています。米国・ロシアに保管されていたウイルスが外部に出たのか、あるいは移管されていない痘瘡ウイルスがあり、それがテロへの恐怖をかきたてているのかは、証拠がない(公表されていない)のでよくわかっていません。

痘瘡ウイルスと病気

 痘瘡ウイルス(variola)はポックスウイルス科のオルソポックス属に属し、ウイルスのなかで最も大きいものです。DNAを核酸としてもちます。このウイルスはヒトからヒトへしか感染せず、発熱後2〜3日で解熱し、発疹が出始めてから感染性をもちます。水痘(すいとう)、膿疱(のうほう)内容、咳(せき)、唾液、気道内分泌物などの飛沫、接触、あるいは近距離でのエアロゾル(微粒子)による気道感染により伝播します。
 ウイルスは血中に入って全身に感染し、皮膚に水・膿疱を形成して痂皮(かひ)(かさぶた)へ移行し、発症後約21日で治癒しますが、約30%が死亡します。潜伏期間は7〜16日で、その後、前駆期、発疹期と規則正しく移行します。水痘との鑑別が重要です。
 実験室診断としては、電子顕微鏡によるウイルス粒子検出、ウイルス抗原・ウイルス遺伝子の検出、ウイルス分離などがあります。

予防と治療の方法

 ワクチンは極めて有効です。現在日本が保有する細胞培養ワクチン(LC16m8)は世界で最も優れており、従来あった副作用がほとんどみられません。なお、本症には特異的治療法はありません。