ボツリヌス症とはどんな感染症か

 ボツリヌス症は、感染・発症の形態が異なるために、以下の5つに分類されています。
 (1)ボツリヌス菌(芽胞(がほう))が食品(東北、北海道で有名な“いずし”など)に混入したあと、食品の保存条件が空気(酸素)のない嫌気(けんき)状態の時だけに菌が発育・増殖して産生されたボツリヌス毒素を、その食品とともに食べて起こる食中毒型。
 (2)おもに1歳以下の乳児が、食品(ハチミツなど)に混入した菌を直接食べた場合、腸管内で菌が発育・増殖し、その時に産生された毒素が腸管から吸収されて起こる乳児ボツリヌス症。
 (3)日本国内ではまだ報告はありませんが、交通事故で受傷した局所に菌が入るか、または菌が混入したブラックタールヘロインなどを注射した場合に、皮下組織などで菌が発育・増殖した時に産生された毒素により起こる創傷(そうしょう)ボツリヌス症。
 (4)これも日本国内では現在までに明らかにされた発生報告はありませんが、子どもや大人が胃の手術後に抗生物質療法などによって腸内の細菌叢(そう)が乱れ、その状態でボツリヌス菌が混入すると、成人でも感染・発症することが報告されています。先にあげた(2)の病型とは分けて分類しています。
 (5)米国で起きたバイオテロの事件以来、ボツリヌス毒素も細菌化学兵器のひとつとして注意が必要と考えられています。そのため、上記の(1)〜(4)までに分類できない、または原因が不明な場合は、5番目のボツリヌス症として保健所に届け出るようになっています。

症状の現れ方

 いずれの場合も原因はボツリヌス毒素(神経毒素)で、体の筋肉が麻痺を起こすことから、左右対称に体を動かすことができなくなります。
 食中毒の場合は、初期症状としてほとんどの人に視力低下、立ちくらみなどの眼の異常が起こり、つまずいたり、ころんだりして、動作がおかしくなったことに気づきます。さらに食べ物を飲み込めなくなったり、会話がしにくくなったり、全身の筋肉が麻痺して非常に動きにくくなります。
 乳児ボツリヌス症の場合は、生まれてから順調に発育していた赤ちゃんが便秘傾向になり、おっぱいを飲む力と泣き声が弱くなります。全身の筋肉が麻痺するために顔の表情も無表情となり、手足や首を支えることができなくなります。

検査と診断

 食中毒の場合は、原因と考えられる食品や便からボツリヌス毒素や菌が検出できるか検査します。また、血液のなかの毒素の有無を検査する時もあります。
 毒素の検査ではマウスを用います。液体にした検査材料をマウスに注射すると、ボツリヌス毒素がある場合はマウスは筋肉の麻痺を起こして動けなくなり、毒素が強い場合は呼吸麻痺で死亡します。あらかじめボツリヌス毒素に対する抗体を注射しておいたマウスは、抗体が毒素を中和するために元気に生き延びます。

治療の方法

 どの病型でも呼吸の管理が重要なため、軽い場合以外は集中治療室での治療・管理が行われます。食中毒では、早い時期に治療用ボツリヌスウマ抗毒素を注射すると効果があるといわれています。この抗毒素は、国が責任をもって製造し必要に応じて出庫する、国家備蓄品として管理されています。
 しかし乳児ボツリヌス症は死亡率が低いので、この抗毒素は使わないで治療するのが一般的です。

ボツリヌス症に気づいたらどうする

 食中毒の場合は伝染する病気ではありませんが、原因食と考えられる食品は家族や他人が食べないように注意しなければなりません。また、2〜3日前までにさかのぼり、同じ食品を食べた人に同じ症状が出ている場合は、受診した病院で経過説明が必要です。
 汚染された食品が広範囲に市販されているような場合は、同時にたくさんの患者が出ることもあるので、テレビ・ラジオで報道されていないか、確認することも大切です。原因と思われる食品は捨てないで、保健所の検査のために保管しておきます。
 乳児ボツリヌス症の場合は、赤ちゃんの便に毒素と菌が混ざっていることがあるため、周りに飛び散らないようにビニール袋に入れ、病院関係者や保健所の担当者に処理を依頼してください。