ボツリヌス食中毒とはどんな食中毒か



 ボツリヌス食中毒(または食餌性(しょくじせい)ボツリヌス中毒)は、ボツリヌス菌(図1)が食品中で増え、産生された毒素を食品とともに摂取すると起こる毒素型食中毒の一種です。
 この中毒は古代ギリシャ・ローマ帝国時代からソーセージを食べることによって起こる特異な中毒として知られていたもので、病名の別称であるBotulismはソーセージ(腸詰め)を意味するラテン語に由来することから、ボツリヌス菌は腸詰め菌とも呼ばれます。A〜G型までの7種類の強力な神経毒素を産生することが知られています。
 日本では過去に魚肉発酵食品である「いずし」を原因とするE型毒素による食中毒が多発しました。近年では商業的殺菌を行っていない容器包装詰低酸性食品(レトルト食品類似食品)を原因とするA型およびB型毒素による食中毒が発生していますが、その発生頻度はまれです。

症状の現れ方

 食品とともに摂取された毒素は主に小腸上部で吸収され、次いでリンパ管をへて血液中に入り、作用部位である神経‐筋接合部に到達して末梢性の神経麻痺症状を現します。潜伏時間は、一般に汚染食品摂取後8〜36時間です。
 患者さんの多くにみられる初期症状は、腐敗した食品中のトリメチルアミンによる非特異的な胃腸炎症状(下痢、腹痛、嘔吐など)で、次いでボツリヌス毒素による神経麻痺症状が現れてきます。
 その多くはめまい、頭痛を伴う全身の違和感、視力低下、かすみ目、複視(ふくし)(文字や物体が二重に見える)、対光反射の遅延・欠如などの眼症状で、これらと前後して口渇、嗄声(させい)(しわがれ声)、発語障害、嚥下(えんげ)(飲み込む行為)障害などの咽喉部の麻痺症状が現れます。さらに症状が進むと、腹部膨満(ぼうまん)、頑固な便秘、尿閉(にょうへい)、四肢の麻痺が現れ、次第に呼吸困難に陥って死に至ることもあります。
 経過は患者さんによってさまざまですが、回復には数日〜数週間、時に数カ月かかることもあります。

検査と診断

 この食中毒は極めて致死率が高いので、検査および診断は常に迅速な対応が求められます。診断は中毒の原因と推定された食品、患者さんの糞便・血液・胃内容・吐物などから毒素の証明をし、菌を分離することで行われています。近年では、毒素遺伝子を迅速かつ特異的に検出する遺伝子増幅法が普及しています。
 区別が必要な病気には、脳卒中(のうそっちゅう)、急性球麻痺(きゅうまひ)(脳神経球部の麻痺による口腔内の麻痺)、メタノール中毒などがあります。

治療の方法

 唯一の特異的な療法は抗毒素の投与で、さらに症状の経過に応じてさまざまな対症療法も行われます。日本では1962年に抗毒素療法が導入され、その結果、致命率は著しく低下しました。

予防のために

 この食中毒のほとんどは自家製食品によって起こっています。菌の食品汚染は原材料に由来するとされています。
 食中毒を防ぐためには、 ・新鮮な原材料を用いて十分に洗浄する ・低温下で素早く調理する ・「いずし」などの魚肉発酵食品には酢酸を添加する ・食肉製品や魚のくん製は十分に加熱する ・製造後は冷蔵あるいは冷凍下で保存する などに気をつけ、製造後あるいは保存中に酪酸発酵臭(バター臭)がする食品や、容器包装詰低酸性食品の食べ残しなどは廃棄します。
 ボツリヌス食中毒は発生頻度は低いものの、極めて致死率が高いので、防止対策は古今を通じて食品衛生上の最重要課題のひとつといえます。