有機リン剤中毒<中毒と環境因子による病気>の症状の現れ方

 縮瞳(しゅくどう)(瞳孔が小さくなる)、発汗、流涎(りゅうぜん)(よだれ)、筋れん縮といった特徴的な症状に加え、血清および血球のコリンエステラーゼ活性が著しく低下することから、臨床症状だけでも診断できる代表的な中毒です。重症の場合では徐脈(じょみゃく)、呼吸障害、肺水腫(はいすいしゅ)、昏睡(こんすい)となり、死亡します。
 大量服毒の場合、中毒症状は数分から数十分後までに現れ、急速に悪化しますが、治療によりいったん改善した症状が、数日〜2週間後に再燃して長引く遅発性(ちはつせい)中毒の存在が知られています。

有機リン剤中毒<中毒と環境因子による病気>の診断と治療の方法

 治療は、初期の徹底的な消化管洗浄に加え、解毒剤としてヨウ化プラリドキシム(PAM)が用いられます。対症療法としては、硫酸アトロピンの投与と呼吸・循環管理が重要です。
 有機リンはAChEと反応してAChEの活性を阻害しますが、これにPAMを反応させるとリン酸残基が取り除かれ、AChEは活性を復活します。しかし、時間が経過するとリン酸残基の脱アルキル基化が起こり、PAMはもはやリン酸残基と反応しなくなります。この現象をエイジング(aging)といい、速度は有機リン剤の種類によって異なります。
 強毒性のパラチオンは48時間後でもほとんどエイジングが進まないのに対し、現在の有機リン剤の主流である弱毒性のフェニトロチオンやマラチオンは、24〜48時間でエイジングがほぼ完了します。すなわち、PAMは強力な拮抗薬(きっこうやく)ですが、服毒から処置までの時間に制限があり、フェニトロチオン、マラチオンでは24時間以上経過するとほぼ無効となります。
 一方、アトロピンは有機リンが代謝・排泄されるまでの対症療法的な拮抗薬です。初期の徹底的な消化管洗浄、適切な解毒薬の投与、人工呼吸管理などのため、重症の場合は集中治療室に収容します。
 なお、透析(とうせき)や血漿(けっしょう)交換が有効との報告がありますが、有機リン剤は組織への移行性が高く、とくに脂肪組織には血液の100倍以上の濃度で存在することから、いわゆる生物学的半減期も極めて長くなります。そのため、これらの血液浄化療法が有効とは考えにくいといえます。