作業要因による職業性疾患とはどんな病気か

 長すぎる労働時間や、身体局所への過大な負荷などの作業要因によって起こる、職業性の疾患をいいます。労働基準法施行規則では、体に過度の負担のかかる作業態様に起因する職業性疾病として、次の疾患をあげています。 (1)重激な業務による筋肉、腱、骨もしくは関節の疾患または内臓脱 (2)重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務による腰痛 (3)削岩機(さくがんき)、チェーンソー等の機械器具の使用により、体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害または運動器障害 (4)穿孔(せんこう)(穴をあけること)、印書、電話交換または速記の業務、金銭登録機を使用する業務、引金付き工具を使用する業務、その他上肢に過度の負担のかかる業務による手指のけいれん、手指、前腕などの腱、腱鞘(けんしょう)もしくは腱周囲の炎症または頸肩腕(けいけんわん)症候群
 近年、技術革新による機械化に伴い労働態様も著しく変化し、以前の重労働や全身労働時代にはみられなかった健康障害がみられるようになりました。
 その背景にはオートメーションによる単調労働化やテクノストレスによる精神的疲労、機械化による局所運動の増加と肉体運動の減少による局所疲労(腰痛や頸肩腕症候群)、オフィスオートメーションで最も酷使する眼の疲労(VDT作業による健康影響)などがあります。

原因は何か

 疾患の原因になる作業要因は、作業の態様(精神労働、重筋作業、単調作業、繰り返し作業、コンベア作業、監視作業、夜間作業)、作業の強度(エネルギー消費量、作業速度、作業密度、作業時間)、作業の姿勢(立位作業、座位作業、中腰作業)などに分類されています。

主な疾患


(1)頸肩腕症候群

 古くは打鍵作業(キーパンチ、タイプ、金銭登録)や電話交換など、近年は、IT関連作業やコンベア作業など、上肢を同一の位置に保ったり、反復使用する作業の過重な負担により、神経・筋の局所疲労を来す結果、次の症状が起きます。 ・頸肩腕症状:首や肩のこり、しびれ、痛み、筋の硬結、運動障害 ・自律神経症状:心臓症状や手のこわばりや蒼白化 ・神経症状:不眠、情緒不安定、書痙(しょけい)(字を書こうとすると手の筋がけいれんする、ヒステリーに似た症状)
 原因は、職場でのオートメーション化に伴う作業方法、作業姿勢、作業密度などの作業要因のほか、室温(過度の冷房など)や照明、騒音などの環境要因、作業者の健康状態、職場の人間関係などの人的要因も加わっていることがあります。
 予防は作業条件対策であり、労働負荷を適正にすることが第一になされるべきです。作業環境対策としては、職場の物理化学的環境条件を適正に保持し、休憩室などの付属施設への配慮を行い、心理的にも好ましい雰囲気の環境を整えることが発症防止に役立ちます。
(2)腰痛
 作業の専門化・分業化による同一局所運動、作業姿勢の同一反復化、重量物の過重な取り扱いや非生理的姿勢、日常生活様式の変化に伴う筋力の低下(車社会、肥満、運動量低下など)により、腰椎の異常(椎間板(ついかんばん)ヘルニア、脊椎(せきつい)分離症、変形性脊椎症)や腰部筋の疲労・硬結、靭帯(じんたい)の変化を来し、腰痛がみられるものをいいます。
 職業性腰痛の発生が比較的多い作業には、次の5つがあります。 a.重量物取り扱い作業 b.重症心身障害児施設等における介護作業 c.腰部に過度の負担のかかる立ち作業 d.腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業・座作業 e.長時間の車両運転などの作業
 作業負担の軽減(自動化・機械化)、作業方法・作業姿勢の適正化(中腰、ひねり、前屈などの不自然な姿勢をとらない、立位、座位などにおいて、同一姿勢を長時間とらないようにすることなど)、作業時間・作業量・休憩の適正化(横になって安静を保てるよう十分な広さの休憩施設を設ける)、腹帯など適切な補装具の使用、作業時の靴は足に合ったものを使う、温度・照明・作業床面を適切にする作業環境管理、腰痛予防体操や強化運動、適正者の選択などのほか、衛生教育の充実を図って予防します。具体的な予防対策については「職場における腰痛予防対策指針」(厚生労働省)に示されています。
 非災害性の慢性腰痛に対する治療法としては、腰痛体操が最も効果的です。体操療法において最も大切なことは、(1)腹筋の強化、(2)脊椎伸展筋拘縮(せきついしんてんきんこうしゅく)(過剰収縮)の改善などです。ほかに、安静と運動療法(慢性疲労がある場合には、ある程度の休養と並行して、温熱療法を中心とした理学療法を行う)や薬物療法と注射療法(筋弛緩薬(きんしかんやく)、消炎鎮痛薬、精神安定薬、局所塗布薬を併用する)などがあります。
 診断のための問診では、腰痛が生じた時に従事していた作業内容、腰痛が現れるまでの作業期間、以前に腰痛があったかどうかをよく聴取することがまず必要です。画像診断にはMRIが、椎間板ヘルニアや椎間板変性の有無を知るうえで有用です。