設計図の情報

 赤ちゃん(胎児)がどのようにしてお母さんのおなかのなかで育ってゆくのかを考えてみましょう。まず父親の精子と母親の卵が受精して1個の受精卵ができます。この受精卵が細胞分裂を繰り返し、約280日たつと立派な人間としての形や機能を備えた赤ちゃんとして生まれてくるのです。
 胎児がお母さんのおなかのなかで育つ過程を発生分化過程と呼びますが、発生分化のメカニズムはまだ不明な点が多く、神秘的ともいえます。はっきりしていることは最初の受精卵の核のなかに赤ちゃんの体をつくるための46枚の設計図が入っていることです。この設計図に書かれた情報どおりに胎児はつくられてゆくのだと考えてください。
 専門用語では設計図は染色体(せんしょくたい)、書かれた情報は遺伝子にあたります。設計図の枚数が違っていたり破れていたり、書かれた情報が間違っていると胎児の発生過程で重大な障害が生じます。前者が染色体異常と呼ばれる先天異常で、後者が遺伝子の異常による疾患です。

胎芽病と胎児病

 設計図が完全でもまだ安心はできません。体の臓器の原型(胎芽(たいが)と呼ばれる)ができ上がるまでにおよそ11〜12週かかりますが、この期間(胎芽期)は周囲の環境の影響をとても受けやすいのです。このために胎芽の形成が乱れると胎芽病(たいがびょう)といわれる病気が発生します。
 いったん胎芽ができ上がってしまうと、その後の発生は臓器のサイズが増加することが中心で、外からの影響を受けにくいのですが、それでも化学薬剤や細菌などが原因で胎児病(たいじびょう)と呼ばれる障害が発生することがあります。
 胎芽病は遺伝子異常や染色体異常とよく似ていて、複数の胎芽の発生異常を伴った系統的発生異常の形をとることが普通です。これに比べて胎児病は、赤ちゃんの病気が胎児の段階で発生したと考えればよいと思います。

多くの病気で遺伝子が関係している

 このように胎児の発生過程で生じた障害が生まれてきた赤ちゃんのハンディキャップや病気の原因になっているような疾患を、一般に先天異常と呼びます。別の概念で遺伝性疾患という言葉もあり、遺伝子異常と染色体異常が代表でした。しかし、遺伝子とは一見関係ない環境要因の影響による障害も、遺伝子の機能との相互作用で病気になるかどうかが決まります。これらの障害は多因子遺伝性疾患という概念でまとめられ、遺伝の関与が大きいものは明らかに遺伝性疾患の仲間に入ります。
 遺伝子の研究が進むにつれて多くの病気の発病に遺伝子が関係していることがわかってきました。遺伝子異常が原因の先天異常は生活習慣病にまで拡大されたのですが、ここでは従来の考え方も採用して、生まれた赤ちゃんの障害の原因としての先天異常を中心にまとめました。