治療の原則

 2型糖尿病は自覚症状に乏しいことが多いのですが、症状の有無にかかわらず適切な治療が必要です。
 治療の第1の目的は、糖尿病の代謝異常に伴って起こってくる種々の合併症の発生を予防することです。そのうえで、健康な人と変わらない生活の質(QOL)を維持し、健康な人と変わらない寿命を確保することが最終的な目標になります。
 糖尿病は慢性の病気で、完全に治ることはほとんどありません。定期的な受診をまず心がけましょう。治療の中断は、慢性合併症を起こしやすくする大きな原因になります。
 2型糖尿病は、食べすぎ、運動不足、ストレスなどの生活習慣(ライフスタイル)の乱れと、その結果起こってくる肥満が、その発症および病態に強く関係していると考えられています。これらは主にインスリンのはたらきを悪くし、血糖上昇などの代謝異常を招きます。
 したがって、通常の2型糖尿病の治療としてまず行うのは、食事療法、運動療法を含めたライフスタイルの改善、および肥満がある場合にはその解消です。それで不十分な場合に薬物療法が追加されます。
 また、ライフスタイルの改善のためには、患者さん自身が糖尿病をよく理解し、進んで治療を継続する意欲をもつことが重要です。そのために行われる糖尿病教室、糖尿病の教育入院などの糖尿病患者教育も、糖尿病の治療に大切な役割をもっています。


 血糖コントロールの指標としては、HbA1Cと空腹時および食後の血糖値を用い、目標値は一般には表10の優または良を目指すようにします。さらに、体重、血圧、血清脂質値(コレステロール、中性脂肪、LDLコレステロールなど)についても、良好な数字に近づけるようにします。

●食事療法(しょくじりょうほう)
 食事療法は、糖尿病治療の基本です。不十分な食事療法のもとでの薬物に依存した治療では、肥満などを助長し、糖尿病の血管合併症を予防できません。逆に、しっかりとした食事療法と運動療法を行うと、診断されてまもない2型糖尿病の約半数の人は薬物療法の必要もなく、血糖値を良好にコントロールできます。
 食事療法を実施すると、エネルギーの摂取量が減少するので、血糖値を下げるために必要なインスリンの量を減らすことができます。さらに、肥満も解消されてインスリンのはたらきをよくすることもできます。

食事のしかた

 食事療法の原則は、適正なエネルギー量とバランスのとれた栄養素配分です。糖尿病食は病人食ではなく健康食といえるものです。さらに、食事の回数・時間・配分エネルギーも重要で、なるべく3食均等に規則正しく摂食することが望ましい姿です。
 とくに朝食を抜いてエネルギー制限を行うことは、昼食、夕食の摂取量が増加し、その後の血糖値上昇、肥満を招きやすいのでよくありません。また、早食いもよくありません。食べすぎにつながりやすく、血糖値も上がりやすいからです。よくかんでゆっくり食べましょう。

エネルギー量

 1日の適正なエネルギー量は、年齢、性別、肥満度、身体活動量、合併症の有無などを参考に決められます。


 おおよそのエネルギー量は、患者さんの標準体重を算出し(肥満症を参照)、標準体重に身体活動量(表11)をかけて求めます。肥満の人や高齢者などは少なめに、成長期にある若年者などは多めにします。
 通常、エネルギー量は、男性では1400〜2000kcal、女性では1200〜1600kcalの範囲となり、極端に少ないわけではありません。

栄養素の配分

 栄養素の配分は、糖質(炭水化物)55〜60%、蛋白質15〜20%、脂肪25%となります。この配分は、最近の日本食の配分とほぼ一致しており、そのため日本食は健康食として世界中から注目されています。
 全栄養素の半分強を炭水化物からとります。糖尿病だからといって、炭水化物を極端に制限するわけではないことに注意してください。
 蛋白質は、標準体重1kgあたりほぼ1gをとります。腎障害のある人には、早期から0・8g程度に制限することがすすめられています。
 脂肪はエネルギーが高いので、とりすぎに注意して、植物性の比率を多くします。また、脂肪の種類により血糖値や血中脂質値に及ぼす影響に違いはありますが、エネルギー量は同じであることに注意してください。
 食物繊維は、食べ物の消化吸収を遅らせたりするので血糖値、血中脂質値の上昇を改善させる効果があり、また便秘の改善にも有効ですから、多くとるようにします(野菜として300g以上)。
 塩分は、過剰に摂取すると血圧を上昇させたりするので10g以下、高血圧や腎障害のある人は6g以下にします。

食品交換表

 適正な栄養バランスの食事療法を実践するためには、『糖尿病食事療法のための食品交換表』(日本糖尿病学会編、文光堂発行)を使用するのが便利です。


 食品交換表では、食品を栄養素の含まれる割合により、大きく「表1」から「表6」に分類し、各食品の1単位(80kcal)に相当する重量を示してあります(表12)。食事療法を行う際は、「表1」から「表6」まで、それぞれ何単位をとるかが指示されます(表13)。
 合計単位によって摂取エネルギーが守られ、その単位配分が適切であれば栄養素配分も適切になります。さらに、同じ表の食品は栄養成分が似ており、互いに交換できるので、バラエティー豊かな食事をすることが可能になります。ビタミン、ミネラル、食物繊維の摂取不足を防ぐためにも、「表6」の食品を中心として、できるだけ多くの食品をとることが望まれます。
 実際に食事療法を実践するためには、糖尿病教室を受講したり、病院での栄養指導を受けて、自宅で実際に食品を計量することが大切です。計量を繰り返すうちに目安量がわかってきます。

外食、中食

 最近は、外食やファストフード、あるいはコンビニエンスストア、スーパーなどの弁当・総菜(中食(なかしょく))で食事をすますことも多くなってきました。そのため、よりいっそうエネルギー量や栄養バランスに注意する必要があります。
 一般的に外食や中食はエネルギーが高く、脂肪、炭水化物が過剰で野菜が足りない傾向にあるので、一部を食べ残してサラダを追加するなどの工夫が大切です。サラダには、エネルギーが高いマヨネーズや油を使ったドレッシングはつけないようにします。

甘いもの

 お菓子、ジャム、清涼飲料水、缶コーヒー、スポーツドリンクなどは砂糖を多く含み、血糖値や中性脂肪値が上昇するのでとらないようにします。せんべいなど、甘くないお菓子でも炭水化物が多いので注意しましょう。なお、「カロリーオフ」「低カロリー」の飲料は100mlあたり、エネルギー量で20kcal以下、炭水化物は2・5g以下が表示基準であるため、大量にとれば摂取エネルギーが増し、血糖が上昇することに注意してください。
 果物はビタミン、ミネラル、食物繊維の補給によいのですが、とりすぎると含まれる果糖などにより血糖値が上昇するので、1日に1単位(80kcal)とします。
 代用甘味料は、どうしても甘いものがほしい時に使用しますが、甘いものをとるという習慣を助長するので少量にとどめておいたほうがよいでしょう。
 空腹感が強い場合は、コンニャク、海藻、昆布、タケノコ、キノコ類など、低カロリーの食品をとるとよいでしょう。

アルコール

 アルコール飲料は、つまみやアルコールによる食欲亢進作用によって食事療法が乱れる原因になるだけでなく、肥満、脂質異常症、肝障害、膵炎(すいえん)の原因ともなるので、原則的には制限し、合併症や肝障害のある人は禁酒するようにします。

健康食品・トクホ

 消費者の健康志向の高まりに伴い、健康食品の市場が拡大しています。糖尿病に関してもさまざまな「いわゆる健康食品」がその効果を喧伝(けんでん)していますが、そのほとんどは有効性・安全性の科学的根拠に問題があり、時には含まれている違法な成分により、重大な健康被害を起こすこともあります。
 特定保健用食品(通称トクホ)は「いわゆる健康食品」とは異なり、その有効性・安全性が厚生労働省により認可された食品です。糖尿病の患者さんにとって気になりそうな「食後の血糖値の上昇を緩やかにする」などと「血糖値」に言及するトクホも少なくありません。しかしながら、トクホは糖尿病の患者さんを利用対象者としておらず、その効果もかなり限定的であり、一般的に高価であることなどにも注意する必要があります。
 健康食品・トクホに関しては独立行政法人国立健康・栄養研究所のホームページ(http://hfnet.nih.go.jp/)にあるサイトも参照してください。

●運動療法(うんどうりょうほう)
 運動療法は、糖尿病治療のもうひとつの基本です。運動には、食事療法とともにエネルギーの摂取・消費のバランスを改善するとともに、インスリンのはたらきをよくする効果があります。
 適切な運動は、ブドウ糖が筋肉の細胞内に入って血糖値を低下させるとともに、高血圧脂質異常症も改善する効果があります。結果として動脈硬化を予防し、脳梗塞(のうこうそく)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などが起こりにくくします。また、心肺機能、筋力を維持・改善させ、健康感および生活の質(QOL)を改善する効果も期待できます。

運動療法を始める前に

 運動療法を始めるにあたっては、主治医と相談することが必要です。血糖値が極端に高い場合は、運動後にかえって血糖値が上がる場合があります。
 心肺疾患を合併している場合や、合併症が進行している場合は運動を制限あるいは禁止したほうがよいでしょう。とくに、狭心症心筋梗塞を合併している場合、増殖網膜症(ぞうしょくもうまくしょう)で新鮮な眼底出血がある場合、腎症(じんしょう)で腎機能低下がある場合は注意が必要です。
 神経障害については、高度であれば運動を制限したほうがよいのですが、軽度の末梢神経障害であればさしつかえありません。

運動の種目

 運動療法が許可された場合、実際に行う運動としては、日常生活のなかで、いつでもどこでも一人でもできる運動がすすめられます。
 歩行(ウォーキング)が最適ですが、ジョギング、体操、階段昇降などでもけっこうです。整形外科的疾患で足や腰が悪い場合は、水中ウォーキング、自転車、椅子に座っての運動などがおすすめです。
 運動の種類としては、酸素を取り入れながら持続的に行う有酸素運動(ウォーキングなど前述の運動)を行いましょう。これは脂肪を燃焼させる効果などがあり、短距離走、筋力トレーニングなどの無酸素運動より適しています。

運動の強さ

 ややきついと感じる程度以下の運動とします。脈拍を目安にして、毎分110〜130拍以下とします。
 手順としては、軽い運動から始めて徐々に増やすようにします。日常生活のなかで運動量を増やすのが実際的です。たとえば、家事の時間を増やしたり、通勤の時になるべく歩いたり、エレベーターをやめて階段を使ったりするとよいでしょう。
 そのうえで、運動が不足している場合には、散歩などを定期的に行うようにします。慣れてきたら、少し速く歩くようにします(ウォーキングあるいは速歩)。

運動の時間

 脂肪を燃焼させて代謝を改善させるためには、ウォーキングでは1回15分以上で、1日合計30〜60分、週に3回以上行うことが望まれます。
 歩数計を使用するのもよい方法です。1日7000歩、できれば1万歩を目標にします。最近は消費エネルギーが出るカロリー・カウンターも市販されているので、200kcal以上を目標にします。


 いろいろな運動の消費エネルギーの目安は表14に示すとおりですが、意外に多くないことがわかります。

その他の注意点

 インスリンや糖尿病ののみ薬を服用している場合、運動する時は低血糖の用心のため、ブドウ糖、砂糖、ビスケット、ジュースなどを必ず携帯するようにして、運動はなるべく食後1〜2時間に行うようにします。
 空腹時に行う場合は、運動量に合わせて、運動前後あるいは運動中に補食をとるようにします。
 さらに、運動に適した衣服、靴を選び、運動前後で靴ずれなどが生じていないかをチェックすること(フットケア)も重要です。

●薬物療法(やくぶつりょうほう)
 食事・運動療法は、効果が出るまでに時間がかかることがあります。十分な食事・運動療法を2〜3カ月行っても、良好な血糖コントロールが得られない場合は、薬物療法で血糖値の改善を図ります。高血糖が持続すると糖尿病の合併症が起こってきます。血糖値が下がらないのに薬物療法を先延ばしにするのはよくありません。
 糖尿病の治療薬(血糖降下薬(けっとうこうかやく))には、のみ薬(経口薬)と注射薬(インスリン製剤)があります。通常、2型糖尿病ではのみ薬から開始します。血糖降下薬を服用中は、その効果と副作用のチェックのため、定期的な通院と検査が必要です。
 薬剤で糖尿病自体が治るわけではありません。薬の有効性を維持し、肥満を防ぐために、食事・運動療法の継続が大切です。
 なお、糖尿病に効果があるとする民間薬、食品がいろいろ販売されていますが、実際に効果があるものは少なく、怪しいものには手を出さないのが賢明です。

のみ薬



 経口薬は現在6種類あります(表15)。スルホニル尿素薬が最も広く使われていますが、ビグアナイド薬も最近使用されることが多くなってきました。
 食後過血糖(かけっとう)改善薬(α(アルファ)‐グルコシダーゼ阻害薬)は比較的最近発売された薬ですが、そのユニークな作用機序とスルホニル尿素薬などと併用できることから、よく使われています。インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体)、速効型インスリン分泌促進薬(フェニルアラニン誘導体)も比較的最近発売された薬です。
 なお、ごく最近、新規糖尿病治療薬として、DPP‐4阻害薬が発売されました。インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンを増やし、血糖コントロールを改善させます。グルカゴンの分泌を抑制し、体重を増加させないなどの好ましい効果もあり、期待されている薬剤です(本稿では詳述しません)。
スルホニル尿素薬
 直接、膵臓にはたらきかけてインスリンの分泌を促進します。その効果は長く持続し、1日に1回か2回の服用で血糖値が全体に低下します。2型糖尿病ではインスリン分泌が少し低下することが多いので、理にかなった薬剤なのですが、人によっては少量でも血糖値が下がりすぎ、後述する低血糖状態になることがあります。
 スルホニル尿素薬のその他の好ましくない点として、食事療法が不十分だと体重が増加しやすいことがあります。また、途中から薬の効きめが悪くなりやすいことも欠点です。このことはスルホニル尿素薬の二次無効と呼ばれますが、インスリン注射への変更の理由として多いものです。
 スルホニル尿素薬の服用中でも、食事・運動療法を守ることが大切です。
ビグアナイド薬
 インスリンのはたらきを改善することで血糖値を低下させる薬です。
 インスリンは、肝臓、筋肉、脂肪組織でブドウ糖をグリコーゲンや中性脂肪に変換させることや、肝臓でブドウ糖の合成を抑えることで血糖値を低下させる作用をもちますが、ビグアナイド薬は主に肝臓や筋肉におけるインスリンのはたらきを改善します。したがって、インスリンはけっこう出ているのにはたらきが悪くなっている人や、とくに太っている人に効果が高い薬です。
 スルホニル尿素薬と異なり、ビグアナイド薬は単独では低血糖を起こすことは少なく、体重増加も起きにくいことがわかっています。米国やヨーロッパでは2型糖尿病の第一選択薬として広く使われています。
 副作用としては、乳酸アシドーシスという血液が酸性になるという異常を起こす可能性がありますが、現在発売されているビグアナイド薬では極めてまれです。そのほか、軽い胃腸障害が起こることがあります。
食後過血糖改善薬(α‐グルコシダーゼ阻害薬)
 小腸に存在する二糖類(にとうるい)分解酵素(α‐グルコシダーゼ)のはたらきを抑えることで、でんぷん、砂糖などの糖質の消化、吸収をゆっくりとさせ、結果として食後の血糖値上昇を改善します。
 初期の糖尿病の場合には、食後のインスリンの出具合が遅いために空腹時の血糖値があまり高くないのに食後に高血糖になることが多く、そうした人に適した薬です。
 また、ほかの血糖降下薬で食後の血糖値が十分に下がらない場合に併用されることも多くあります。最近、食後の血糖値の上昇が動脈硬化を起こしやすいことがわかり、この薬剤の意義が高まっています。服用は、食後では効果はなく、食事直前にする必要があります。
 副作用としては、おなかが張ったり、おならが増えたりすることが多いのですが、服用しているうちにだんだん減ってきます。単独の服用では低血糖を起こすことは少ないのですが、スルホニル尿素薬やインスリンとの併用で低血糖を起こすことがあり、その際は、ブドウ糖を服用します。砂糖は二糖類なので、この薬のはたらきで血糖値が上がりにくいからです。非常にまれですが、副作用として重い肝機能障害が報告されているので、定期的な肝機能のチェックが必要です。
インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体)
 ビグアナイド薬とは異なる仕組みで、インスリンのはたらきを改善して血糖値を低下させます。
 太っている人に効果が高く、単独では低血糖は起こしにくいのですが、浮腫(むくみ)や水分貯留を起こす傾向があり、心臓が悪い人は服用を控えたほうがよいでしょう。体重が増加しやすいので、食事療法を確実に行うことが大切です。
速効型インスリン分泌促進薬(フェニルアラニン誘導体)
 スルホニル尿素薬と同じく膵臓からのインスリンの分泌を促進しますが、効果がすぐに現れ、数時間で消失します。食後過血糖改善薬(α‐グルコシダーゼ阻害薬)と同様に食後高血糖を改善する目的で、食直前に服用します。
 腹部症状は起こりにくいのですが、服用時間がずれると単独でも低血糖を起こすことがあります。

インスリン注射


インスリンとは

 膵臓から血糖値を下げる何らかの因子が出ていることは、19世紀にはわかっていましたが、ようやく1921年にカナダで血糖値低下作用のある物質が抽出され、インスリンと命名されました。
 インスリンはホルモンの一種です。膵臓のなかの一部の細胞(β(ベータ)細胞あるいはB細胞と呼ばれる)で合成され、血糖値に応じて血液中に分泌され、食事などでとり込まれた栄養素を肝臓および筋肉などに蓄えるはたらきがあり、結果として血糖値が低下します。
 インスリンは、51個のアミノ酸でできたペプチド(蛋白の一種)で、経口摂取すると腸で分解されて効果がなくなるので、現在のところ注射でしか投与できません。注射ではなく肺から吸入するインスリンも開発され、米国で一時期発売されましたが、使いにくいこと、安全性への懸念などから発売中止となっています。
 インスリン注入器は、カートリッジペン型、使い捨てペン型、使い捨てダイヤル型が開発され、以前と比べてインスリン自己注射は実行しやすくなっています。針も細く短くなっていて、痛みはさほどではありません。
 従来のインスリンは、ブタ、ウシなどの動物の膵臓から抽出していましたが、その後遺伝子工学でつくられるヒトインスリンになりました。最近になり、アミノ酸をヒトインスリンから少し変更したインスリン(インスリンアナログ)も発売され、使用頻度が増えています。
インスリン注射を行う場合
 インスリンの欠点として、注射によるQOLの低下以外にも、低血糖と体重増加があり、これらはスルホニル尿素薬よりも起こしやすくなります。したがって、生活習慣の乱れが大きく影響する2型糖尿病では、インスリン注射はすぐには行いません。
 しかし、糖尿病が見つかった時に血糖値がとても高い場合、あるいは非常にやせている場合は、最初からインスリンを使う場合もあります。また、インスリンを使ったほうがよい特別な場合もあります。
 肺炎胆嚢炎(たんのうえん)、皮膚の感染、足の潰瘍(かいよう)・壊疽(えそ)、大きな傷を受けた場合、手術を行う場合などは、体に大きなストレスが加わって血糖値が上昇しやすいので、インスリンを使うことが多くなります。妊娠した場合でも、経口薬が胎児に悪い影響を与えることがあるため、インスリンによる治療が原則です。
 発熱、脱水などで血糖値が急に上昇したり、ケトン体という有害物質が血液中にたまった場合には、インスリンを使います。最近は、コーラやジュースなどの清涼飲料水やスポーツドリンクの大量摂取で、血糖値が急上昇するケースがよくみられるようになってきました。これらに含まれているブドウ糖、砂糖などが急速に血液中に入るため、この場合もインスリンを使います。
2型糖尿病でインスリン注射を行う場合
 2型糖尿病でも、糖尿病になってからの期間が長くなると、インスリンを使わないと血糖値がうまく下がらないことが多くなってきます。糖尿病自体が進行し、インスリンがだんだん出なくなることが原因として考えられています。
 食事・運動療法が不十分であること、およびスルホニル尿素薬の使いすぎは膵臓に負担をかけ、インスリンの出具合をさらに低下させます。のみ薬がうまく効かなくなって血糖値が十分に下がらない場合は、まず食事・運動療法がおろそかになっていないかを確認したうえで、主治医とよく話し合ってインスリン注射への変更を検討します。
 いたずらに先延ばしにしてはいけません。血糖値が高いこと自体も、インスリンの出具合をさらに悪くするのです。外からインスリンを投与すると、膵臓が休まってインスリンがよく出るようになって、インスリン治療から経口薬治療にもどせる場合もあります。
 最もよくないのは、血糖値が高いまま長期間放置し、合併症を進行させてしまうことです。
インスリン注射のしかた
 インスリンは、毎日食事に合わせて決まった時間に腹部、上腕、大腿などに皮下注射で投与します。最初の導入時以外は、家庭で自分自身で注射する自己注射が原則です。インスリン注入器は、前述のように以前と比べて種類も増え、自己注射がしやすくなっていて、入院せずに外来で開始することも多くなってきました。
 インスリン治療を開始するにあたっては、実際の注射手技をマスターするとともに、いくつか心得ておかなければならないことがあります。使用しているインスリン製剤の名前、性質、注射する量(単位で表される)、注射時間、注射の場所と方法、注射の際の清潔法、注射液および注入器の保管方法などです。


 インスリン製剤には、作用時間の違いによって多くの製品があり、超速効型、速効型、中間型、持効型(じこうがた)、混合型に分類されます。現在日本で使用されている主なインスリン注射薬を表16にまとめました。
 注射の回数、組み合わせは人によってさまざまですが、大まかには超速効型と速効型は食後の血糖値を下げるインスリンとして補充され、中間型や持効型は半日〜1日のインスリンを補充し、全体に血糖値を下げます。混合型は、中間型と速効型(あるいは超速効型)が混ざったもので、2型糖尿病の人に1日に2回注射することで、食前食後ともに血糖値を改善する目的でよく使われます。
 なお、混合型にはヒトインスリンを使ったものと、インスリンアナログを使ったものの2種類がありますが、最近はインスリンアナログ混合型を使うことが多くなっています。
血糖値を自宅で測る
 最近、小さな器械を使って血糖値を自宅で測ることが可能になりました(血糖自己測定)。少量の血液を指などから採取して、血糖値を短時間で正確に測定できます。
 病院で血糖値を測るのは月に数回しかできませんが、日常生活でしばしば血糖値を測ることによって、治療による血糖値の改善が実際にうまくいっているかどうかがチェックできます。これは食事の内容や運動量が血糖値の変動に及ぼす影響も確認でき、低血糖や予期しない血糖値の上昇を知るうえでも有用です。
 インスリン治療中の人は保険が適用され、病院から器械、血糖測定チップなどが提供されます。インスリン治療中ではない人でも薬局で購入し、血糖自己測定をする人が増えてきています。おおまかに血糖値が上がりすぎていないかをみるためには尿糖試験紙を購入して、尿糖を自宅でチェックするのもよいでしょう。
 インスリンの量や回数は、血糖やHbA1Cをみながら変更することもあるので、定期的な通院が必要です。その際、血糖自己測定での値は治療方針決定に役立つ情報となります。自宅での血糖値に応じて、インスリン量を少し変更することが指示されることもあります。
 インスリン治療中は、スルホニル尿素薬使用中よりも低血糖が起こる可能性があります。食事、運動、補食と連動させてインスリン治療を行い、後述する低血糖に対する準備を怠らないことが重要です。インスリン治療は体重も増加しやすいことから、食事・運動療法を守ることが重要です。

低血糖について

 低血糖とは、血液中のブドウ糖が極端に減ってしまった状態です(70〜50mgdl以下)。
 血液中のブドウ糖は、体のなかのいろいろな組織でエネルギーとして利用されますが、とくに脳はブドウ糖の欠乏に敏感で、機能低下を起こします。大切な脳を守るため、体のなかには低血糖を防ぐ仕組みが備わっており、血糖値が正常範囲より低下すると交感神経の活動が高まります。
 血糖降下薬やインスリンを使用していない場合は、交感神経のはたらきで肝臓などに貯蔵されていたブドウ糖が血中に放出されて血糖値は正常にもどります。しかし、血糖降下薬やインスリンを使用している場合は、血糖値が下がりすぎて脳の活動が低下し、頭痛、集中力の低下、意識障害が起こってくることがあります。
 低血糖が起こる原因としては、薬の量が多すぎた場合もありますが、適切な量の薬を使用している場合でも食事が少なかったり、運動量が多かったりすると低血糖に陥る可能性があります。
 低血糖を予防するためには、薬物治療中の人は食事量を守り、運動時には適切な補食をとることが必要です。さらに、ブドウ糖、砂糖、ジュースなどを携帯し、交感神経症状である冷や汗、動悸(どうき)、手の震えなどの症状や強い空腹感、脱力感が起こってきた時はすぐに摂取するようにします。
 がまんすることは禁物です。とくに、自動車の運転時は注意する必要があります。車内に必ずブドウ糖、ジュースなどを常備し、おかしい時には車を安全な位置に停車させて摂取するようにしてください。