・外傷
外傷の重症度
外傷患者の初期応急処置

 外傷は、家庭医学の問題として病気(疾病)と同様に重要です。外傷にはさまざまな種類があり、年齢にもよりますが、軽微な「けが」を含めると、何らかの処置を要する外傷の頻度は、治療を要する病気より多いこともあります。

 家庭、職場、学校、路上、交通機関などで起こる外傷は、生命には影響しない軽微なものが大半を占めます。しかし、外傷直後の処置を間違えると、あとで創(きず)が感染(化膿)したり、治癒が遅れたりする原因にもなります。

 また、頭や腹部の打撲で、皮膚には創や出血がなくても、内出血などがあると時間の経過とともに重症化することもあります。初期対応が悪いと、後遺症で長く苦しむ外傷もあります。

 外傷は時と場所を選ばずに起こりますが、軽微な外傷では救急車を呼ぶまでもなく、正しい知識と一般医薬品と医療用具の準備があれば、現場で応急処置とその後の処置をすることもできます。一方、救急医療体制が整備されつつある日本でも、すぐに救急隊員や医師の処置が得られない状況で、交通事故や墜落などの重傷外傷が起こることもあります。

 このような事情から、外傷に対してはその直後の処置(応急処置)、外傷局所(部位)と全身状態の把握、その後の診療をどうするかの判断が、外傷現場において順序だてて適切に行われる必要があり、外傷についての知識を身に付けておくことが重要です。

外傷とは

 物理的あるいは化学的な外的要因(外因)によって起こる、体の組織・臓器の損傷を「外傷」といいます。外傷に対して「病気(疾病)」は、臓器の構造的・機能的異常などの内的要因(内因)や、病原菌などの生物学的外因によって起こります。外傷と疾病とを併せて、「傷病」という用語が使われることがあります。

 外傷のほとんどは、物理的外因のうちの機械的外力(力学的外力)による、皮膚、骨、筋肉、内臓などの損傷であり、これを「狭義の外傷」、一般には「けが」といいます。

 そのほか、物理的原因による外傷には、熱や赤外線、紫外線による「熱傷(やけど)」のほか、まれな外傷として電流による「電撃傷」、放射線による「放射線損傷」などがあります。また、化学的外因によるものには、酸・アルカリなどによる皮膚や粘膜の損傷である「化学損傷」があります。

 この章では、機械的外力により起こる「狭義の外傷」を中心に解説します。

狭義の外傷(けが)の種類

(1)鋭的外傷と鈍的外傷

 狭義の外傷(以下、単に「外傷」という)は、その原因となる機械的外力の性質から、鋭的外傷と鈍的外傷に分けられます。

 鋭的外傷とは、鋭利な刃物(ナイフ、剃刀、包丁、刀剣など)や、ガラス・陶磁器片、金属片、釘、針などによる損傷です。皮膚表面には創があり、出血がみられます。鋭的外傷の多くは、「切創(切りきず)」といわれるものです。刺された場合は「刺創(刺しきず)」といわれます。深部の筋肉や体腔内の臓器に損傷が及び、血管や肺、胃腸、肝臓などの刺創など重傷の外傷になることもあります。

 鈍的外傷とは、打撲、転倒、衝突、墜落などで、鈍的外力によって起こるものです。転倒や交通事故、スポーツなどで起こりやすい外傷です。鈍的外傷には、打撲といわれる「挫傷」のほか、創ができる「挫創」「割創」「裂創」、骨や関節の損傷である「捻挫」「骨折」などがあります。深部の筋肉や体腔内の臓器に鈍的損傷が及んで、脳挫傷や、肝臓、脾臓、腎臓などの破裂が起こることもあります。

(2)創と傷

 けがで起こる「きず」は、一般には「傷」と書きますが、医学用語としては「創」と「傷」を区別して使います。

 創は、皮膚や粘膜の表面が切り開かれたり、はがれていて、断裂がある状態です。ナイフで直線状に切った「切創」や、鈍的外傷で皮膚が複雑に損傷された「挫創」などがその典型例です。

 一方、傷とは皮膚や粘膜の断裂はない状態です。鈍的外傷の「打撲傷(挫傷)」がその典型例です。時に混乱するのは、「すりむき傷」の場合です。実際には皮膚の断裂があるので「擦過創」とすべきですが、医療現場でも「擦過傷」ということがあります。

(3)開放性損傷と非開放性損傷

 開放性損傷とは、皮膚や粘膜の断裂、すなわち「創」を伴う外傷です。非開放性損傷とは、皮膚や粘膜の断裂はありませんが、皮膚や深部組織・臓器の損傷があるものです。開放性損傷と非開放性損傷とを区別する理由は、開放性損傷では皮膚や粘膜の開放部位から病原菌が侵入し、感染の危険があるからです。

 出血については、開放性損傷では多かれ少なかれ、創部からの出血があります。これを「外出血」といいます。外出血は誰でも簡単にわかり、出血量もある程度把握できます。開放性外傷で刺創などでは、外出血は少なくても内臓の損傷による内出血があることもあるので、注意が必要です。

 非開放性損傷では外出血はありませんが、内臓破裂などの臓器損傷があると、頭蓋内、胸腔内、腹腔内、筋肉内などに「内出血」があることがあり、これを見逃すと重症になることがあります。

(4)清潔創と汚染創

 開放性損傷では、創の汚染が治療上の問題になります。手術などでは、切開部を消毒して滅菌のメスで切開するために創は完全な無菌状態ですが、日常起こる創は多かれ少なかれ病原菌に汚染されています。

 炊事中にコップの破片で切った切創などは比較的清潔であるのに対し、田畑での挫創や、古釘を踏み抜いた刺創などは、創内に多量の病原菌とともに土砂などの異物が混入する汚染創です。

 いずれの創も、消毒薬などを塗る前に、ただちに流水で十分に洗う必要があります。とくに汚染創では、大量の水道水で創内の異物を洗い出す応急処置が重要です。

 組織が挫滅した創や深い刺創は、自分で処置をすることは無理なので、水で洗ったあと必ず医師の診療を受けましょう。軟膏などで創をふさぐとかえって危険なことがあります。

外傷の症状・徴候

 外傷局所の症状のほかに、重傷の外傷では、その影響による全身の症状や徴候が現れます。

(1)局所症状

 開放性外傷では、外出血が最も顕著な症状です。通常は、毛細血管あるいは静脈からの湧き出るような出血で、出血部位を清潔なタオルなどで圧迫すると数分で止まります。鮮赤色の血液がドクドクと脈打つように出る場合は、動脈が切れているので、大量出血につながる危険な出血です。出血部の圧迫を続けたまま医師を受診します。

 外傷部位の痛み(疼痛)は、鋭的外傷でも鈍的外傷でも起こります。はれ(腫脹)は打撲(挫創)や捻挫などの鈍的外傷に顕著に現れる症状です。

(2)全身症状・徴候

 創口や出血などの外傷局所に眼を奪われて、重症のサインである全身の症状・徴候を見逃してはいけません。

 重傷外傷では、意識、呼吸、脈拍、血圧、体温など、生命維持に関係するバイタルサインといわれる徴候をまず観察することが大切です。その詳細は「重症外傷の見分け方」と「JPTECTM」の項で解説されています。

 外傷を受けた直後は意識がしっかりしていても、次第に意識状態が悪くなることがあります。大量の外出血がある場合や、肝臓破裂などで眼に見えない内出血が大量にある場合は、顔面が蒼白となり、冷や汗をかき、脈が速くなり、血圧が低下するという「ショック症状」を示し、意識が混濁します。

 頭部外傷では、血圧低下がなくても意識が混濁します。胸の刺創や多発肋骨骨折の場合は、気胸や血胸から急速に呼吸状態が悪化することがあります。いずれの場合も生命の危険がある状態なので、緊急手術のできる施設に救急搬送することが必要です。

 交通外傷や墜落などでは、バイタルサインが正常の場合でも、眼に見える外傷のほかに脊椎が損傷されていることがあります。四肢の麻痺がないことを確かめるとともに、移動時には脊椎(とくに首の骨)を固定して保護することも大切です。

 骨盤が折れている場合(骨盤骨折)には大量の内出血でショックになることが多いので、移動時には骨盤を保護する必要があります。

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(執筆者:相川直樹