外傷
・外傷の重症度
外傷患者の初期応急処置

重症外傷の見分け方

 外傷は、交通事故、労災事故、転落や転倒、スポーツ事故、自損事故、傷害事件など、さまざまな物理的外力により引き起こされます。

 外傷を受けて体が傷つくことを「けが」と呼びますが、けがの程度は、受けた外力の強さや性質、作用時間などの外的因子と、外力を受けた人の年齢、体格、基礎疾患、受傷部位などの内的因子によりさまざまです。

 また、けがは安静のみで数日内に治癒するものから、短時間内に命を落とすものまでが含まれます。したがって、けがが命に関わる可能性があるか、早く医師にみせる必要があるかを判断することが大切です。

判断のための3つのステップ

 けがの程度が重症であるかどうかは、次に述べる3つのステップにしたがって判断します。

第1のステップ

 生命徴候(バイタルサイン)の異常を観察することです。

 意識状態の異常(呼びかけても反応がない、質問に対する答がトンチンカン、会話が意味不明など)や呼吸状態の異常(呼吸が弱い、呼吸が苦しそう、呼吸回数が10回分未満または30回分以上など)、血液循環の異常(脈拍が弱い、脈が120回分以上、手足が汗ばんで冷たいなど)から判断します。

 これら生命徴候のうち、ひとつでも異常が認められたら重症と判断します。

第2のステップ

 けがの状態から判断するもので、頭部、顔面、頸部、胸部、腹部、背部、腰部の大きな打ち身または切り傷や刺し傷、創部(傷口)からの大量出血や内臓脱出、頭部、胸郭・脊柱・骨盤・四肢の動揺や変形または運動麻痺、手足の切断などが認められれば重症と判断します。

第3のステップ

 受傷の状況で、高速度での自動車事故やバイク事故、歩行者や自転車と自動車との衝突事故、機械器具による巻き込まれ事故、重量物によるはさまれ事故や下敷き事故、高所からの墜落事故などは、重症の可能性が高いと判断します。

 すなわち、第1、第2のステップで異常がなくても、第3のステップで重症の可能性があると判断された場合には、迅速に救急車を要請して、適切な検査と治療を受けることが大切です。

特殊なケース

 ただし、小児または高齢者、出血性疾患(紫斑病、血友病など)のある人、心疾患や呼吸器疾患の既往がある人、糖尿病や肝硬変や慢性腎不全の既往がある人、抗凝固薬を服用中の人、病的肥満の人、妊婦さんなどは、とくに注意が必要です。

 第1ステップから第3ステップまでの各項目に該当していなくても、重症化する可能性があるので、救急隊を要請するなどして、医師の診察を受けることが望まれます。

多発外傷

どんな外傷か

 多発外傷は、一般には「生命を脅かす可能性のある大けがが、体の2部位以上に存在するもの」と定義されています。

 多発外傷は、損傷を受けた臓器が相互に悪影響を及ぼし合い、元来の損傷による病態をより重症にすることが知られています。その死亡率は20〜30%と高率であることから、極めて迅速な対応を必要とすることを理解しておいてください(図1)。

原因は何か

 多発外傷の多くは、交通事故や高所からの墜落事故、重量物の落下事故、挟圧事故(重量物によるはさまれ事故)などでみられますが、集団暴行事件により発生する場合もあります。

症状の現れ方

 頭部外傷、胸部外傷、腹部外傷、骨盤・四肢外傷のあらゆる症状が現れる可能性があります。比較的軽度なものでは、打撲部の疼痛や挫創部からの出血などが主です。

 重症の場合は意識障害、呼吸障害、循環障害、神経機能障害によるさまざまな症状が複合的に出現し、短時間で死に至る場合もあります。

検査と診断

 救命救急センターなどで、意識、呼吸、血圧、脈拍などの生命徴候(バイタルサイン)および血液・尿検査、X線検査、超音波検査などから重症度や緊急度が判定されます。さらに、詳細な身体所見のチェックならびにCTやMRIにより、正確な損傷状況が診断されます。

治療の方法

 多発外傷は、個別のけがが相互に影響しあって病態が複雑になっているので、けがの全体像を把握するのが容易ではありません。どの部位から治療を行うべきか判断に迷う場合も多く、治療が最も複雑で困難な外傷と考えられています。

 したがって、多発外傷の診療では、標準的な外傷診療ガイドラインにのっとり、頭のてっぺんから足のつま先まで全身を系統的に観察し評価したうえで、適切に治療することが必要です。

さまざまな優先順位

 多発外傷の治療は、優先順位(プライオリティー)の考え方にのっとって行われるのが特徴です。これには、初期治療での優先順位、緊急検査の優先順位、根本的治療の優先順位などが含まれます。

 すなわち、治療が必要な損傷が複数ある場合、どの損傷が最も生命の危険をもたらすか、どの損傷の重症度が最も高いか、どの損傷の緊急度が最も高いか、などを迅速に判断したうえで、優先順位にしたがって治療を滞りなく行うことが求められます。

 治療優先部位は一般に、胸部、頭部、腹部、骨盤・四肢の順とされていますが、けがの部位と重症度・緊急度は一人ひとり異なるため、個々の病態が詳細に評価され、優先順位が決定されます。

ダメージコントロール

 多発外傷例では、しばしば(1)低体温(34℃未満の体温)、(2)アシドーシス(pH7・2未満の酸血症)、(3)凝固異常(けがの部位からの出血がとまらなくなる現象)から、短時間内に死亡に至る場合があるため、この3つを致死的三徴といいます。

 このような重度多発外傷の数多くの治療経験を基に、約15年前から「ダメージコントロール」という治療方針が登場し、今日、世界中に広く普及しています。

 ダメージコントロールとは、致死的三徴が現れた重症外傷の患者さんにおいて、初回の手術では生命危機に関わる大量出血などに対する簡略化した手術のみを行い、集中治療室に患者さんをいったん移して全身状態の改善を図ったのちに、再手術を行って根本的治療を行う治療戦略です。

 そのステップは、(1)迅速な止血と簡略化した手術の実施(手術室)、(2)体温の回復、凝固障害の補正、呼吸循環動態の改善、全身に及ぶ損傷の再評価(集中治療室)、(3)再手術による根本的治療(手術室)、の3段階からなっています。

応急処置はどうするか

 多発外傷が疑われる負傷者に遭遇した場合、まず行わなければならないのは大声をあげて救助者を呼び、救急車を手配することです。

 そのうえで、負傷者に呼びかけて意識状態を観察し、次いで呼吸の様式や呼吸数を観察し、橈骨動脈(前腕の親指側の骨に沿う動脈)で脈の緊張や脈拍数を観察することです。

 意識がなければ気道を確保し、呼吸がなければ人工呼吸を行い、脈拍が感じられなければ心臓マッサージを行うなど、症状に応じた対応が必要になります。

 体外への活動性出血を伴う創がある場合には、厚手のガーゼやタオルを当てて直接圧迫止血を行い、失血を最小限にとどめることが大切です。

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(執筆者:益子 邦洋