外傷
外傷の重症度
・外傷患者の初期応急処置

JPTECTM

 重症外傷の傷病者が発生すると、通常は救急隊員がすぐに現場に駆けつけますが、その時に傷病者を適切に観察、処置するための一定の概念・手順は、日本ではJPTECTMとしてまとめられ、普及活動が2003年から行われています。

 もちろん、そのすべてを一般市民が実践することは難しいのですが、その一部は応用できるので、重要なキーワードを紹介しながら解説します。

黄金の1時間、プラチナの10分

 現場で即死してしまう場合を除いて、重症外傷を負った傷病者の死亡の多くは、大量出血によって受傷後1〜2時間以内に起こっています。いかに早く止血を行えるかどうかが生死を分けることになります。

 皮膚表面からの外出血は現場で圧迫止血できますが、内臓の損傷や骨折による内出血は、病院で手術などの治療を行わないと止血できません。

 そして外傷を負ってから、病院の手術室まで搬送し、手術を開始するまでの時間が1時間以内の場合は、死亡率が低いといわれています。

 実際には、病院のなかでの検査や準備に数十分かかることが多いので、外傷を負った時点から救急車が現場に到着し現場を出発するまでの時間は、10分以内が目標とされています。これを「プラチナの10分」と呼びます。

 とくに、次に説明する「高エネルギー事故」の場合には、生死に関わる外傷を負っている可能性があるので、第一発見者が1分でも早く119番通報して救急隊を要請しないと、貴重なプラチナの10分がむだに費やされてしまいます。

高エネルギー事故

 傷病者が体のどこにどのような外傷を負っているかを正確に診断することは、病院のなかのようにさまざまな診断器機がある状況でなければ、たとえ医師でも非常に難しいことです。そこで、事故現場で活動する救急隊員は、実際に傷病者の体を診察した結果以外に、「どのような状況で外傷を負ったのか」ということも参考にしています。

 具体的には、以下のような状況では、生死に関わる重症の外傷を負っている可能性があると判断しています。

 体に大きな力が加わった時に起こる事故が多いので、専門的には「高エネルギー事故」と呼びます。一般市民の人も高エネルギー事故を発見したら、できるだけ早く119番通報する必要があるといえます。

・交通事故で同乗者が死亡している

・車から放り出された

・車にひかれた

・5m以上跳ね飛ばされた

・車が高度に損傷している

・車の横転

・自動車と歩行者・自転車の衝突

・機械器具に巻き込まれた

・体幹部がはさまれた

・高所からの墜落

・救出に20分以上要した

防ぎ得た外傷死(Preventable Trauma Death)

 現場で即死するような場合の多くは、外傷を負ったあとの治療を改善することでは死亡率は低下しません。むしろ、ヘルメットやシートベルトの着用、スピード違反の強化などの予防活動が重要になります。

 一方、大量出血のために外傷を負ってから1〜2時間後に死に直面する傷病者こそが、適切な救護活動によって最も恩恵を受けることになります。

 このように受傷後1〜2時間以内に死に直面する可能性がある傷病者を見逃さずに選別し、短時間のうちに適切な治療(受傷後1時間以内に手術を開始)ができる病院を選択して搬送することは、経験が豊富な救急隊員でも決してやさしいことではありません。さらに病院でも、あらゆる種類の手術を数十分以内に開始できる体制を常時整備しておくことが必要です。

 これらを達成できず、残念ながら命を失うこともあります。このような死亡はPreventable Trauma Death(防ぎ得た外傷死)と呼ばれ、日本では病院到着後に死亡した全外傷死の約40%との報告もあります。

 このような防ぎ得た外傷死を撲滅することがJPTECTMの最大の目標であり、救急隊や医師に対する教育体制、適切な救護活動ができたかどうかの検証体制などの整備が、2003年から始まっています。

止血法と創処置の原則

 出血には動脈性出血、静脈性出血、毛細血管性出血がありますが、生命に危険を及ぼす大量出血は、主に動脈性出血です。動脈性出血の特徴は、真っ赤(鮮紅色)な血液が脈打つように噴出することです。

 一方、静脈性出血は、赤黒い(暗赤色)血液が持続的にジワジワとわき出てくる特徴があります。出血量が多いほど、また出血が激しいほど止血を急ぐ必要があります。

●止血法

直接圧迫止血法

 出血部分を直接ガーゼや布きれなどで強く押さえます。通常、ほとんどの出血はこの方法で止血することができます。ガーゼなどは、清潔で厚みがあり、傷口を十分おおうことができるものを使用します。傷口にガーゼや布きれを当てたあと、その上から圧迫を加えます。

 片手で止血できない場合は、両手で圧迫したり、体重をかけて止血します。傷口のガーゼを包帯や三角巾で強く圧迫包帯する方法もあります。

止血帯法

 止血帯法は、手足の太い血管からの出血で直接圧迫が困難な場合に用います。

 幅の広い(3cm以上)三角巾や包帯、スカーフなどを用いて、出血している傷口から心臓寄りの上腕か大腿に巻きます。針金や細いひもを使うと、巻いた部分の組織を損傷させてしまうので使用しないでください。

 止血帯を強く巻いて止血の効果を観察しますが、不十分な場合は、止血棒を用いてさらにしばりあげる必要があります。止血帯を軽くしばり、その輪のなかに止血棒をとおし、これを回して締めあげます。出血が止まったら、それ以上きつく締めないように気をつけます。

 止血帯を使う時は、組織の障害を防ぐために、30分ごとにゆるめて血流を再開させます。出血部位から血液がにじみ出る程度に1〜2分ゆるめます。この間は直接圧迫止血を行い、出血を防ぎます。

●創処置の原則

感染防止

 血液などには感染の可能性があるので、直接触れないようにすることが原則です。

 ビニールやゴム製の手袋を使用することが理想的ですが、それがない場合は、ビニールの買い物袋などを手袋代わりに利用しても大丈夫です。

前のページへ

(執筆者:山崎 元靖