運動器系の病気(外傷を含む)の現状

 2002年の「国民衛生の動向」によると、体のどこが具合が悪いかを示す割合、すなわち有訴率は第1位が腰痛、第2位が肩こり、第3位は手足の関節の痛みであり、すべてが運動器系の病気です。この順位は日本の少子高齢社会を反映したものであり、運動器系の病気が高齢者に圧倒的に多いのに対して、子どもの病気が激減したことを表しています。この傾向は今日も変わりません。

 運動器系の病気は、約30年前は子どもの病気、とくに先天性股関節脱臼、先天性筋性斜頸が大半を占めていました。しかし、今日ではこれらの病気はまれとなり、以前と同じ割合で推移しているのは先天性内反足、ペルテス病などの骨端症、骨折・脱臼などの外傷であり、増加しているのがスポーツによる四肢の外傷・障害です。

 病気と年齢の関係では先天性内反足、骨・関節の先天性の形態異常、非外傷性脱臼は新生児、乳児に多く、骨折、脱臼などの外傷は幼児期、年長児期に多くみられ、とくに肘、手関節(手首)に好発します。骨端症は年長児期から少年期にみられ、スポーツ外傷、障害は思春期から青年期に多発します。整形外科を訪れる患者さんの5人に1人は腰痛ですし、変形性脊椎症が圧倒的に多く、肩こりも頸椎の病気が原因である場合が多く、いずれも壮年期以降の人に多くみられ、高齢になるほど増えてきます。

 女性では50〜60歳以降になると骨粗鬆症による腰背痛、男性ではさまざまな原因によって脊柱管が狭くなり、なかに存在する脊髄、馬尾、神経根を圧迫する脊柱管狭窄症が多くなります。この場合は両足から上行するしびれが現れ、歩行が困難になります。また椎間板や脊柱後方支持組織の変性(破壊)による腰痛は年齢とともに増えてきます。頸椎の変性・配列変化、椎間板変性、靭帯骨化症などによる肩こり、腕や手のしびれ、痛みなども加齢とともに多くなってきます。

 また、腰痛などの脊椎の病気とともに、関節の変形に基づく変形性関節症が、壮年期から高齢者になるにつれて増加します。

とくに気をつけるべき病気

 発生頻度は低くても、注意すべき病気を記します。新生児、乳児期では先天性股関節脱臼、内反足、先天性筋性斜頸、分娩麻痺、骨・関節の先天性形態異常に注意します。

 思春期ではとくに腫瘍の発生に気をつけます。腫瘍には良性と悪性とがありますが、悪性腫瘍は生命を脅かす病気で、骨肉腫はその代表的な病気です。肉腫は骨ばかりでなく軟骨、筋肉、神経、血管などのすべてに発生します。悪性腫瘍は体のあらゆる部位に発生しますが、下肢の発生頻度が高いのです。下肢のなかでも大腿部から膝関節近辺に集中する傾向があり、思春期にこの部位の違和感、鈍痛、わずかなはれに気づいたら、ただちに診察を受ける必要があります。

 壮年期、老年期では、さほど多くはありませんが、がんの骨転移に気をつけます。腰痛とばかり思っていたら実は内臓のがんが骨に転移していたという場合があります。内臓のがんを治療した人でそののち腰背痛が認められる場合には、とくにがんの転移に注意する必要があります。骨粗鬆症と区別が必要なのは骨髄腫ですが、最初に骨にできる悪性腫瘍では骨肉腫に次いで多く、多発性(体のいろいろな部位に発生する)の特徴があります。

構成について

 運動器系の病気は実に種類が多いのですが、他章との関係もあり、本章で解説するのは代表的な病気に限定しています。骨、関節、軟部組織の外傷およびスポーツ外傷・障害は思春期、青壮年期において今日頻度が高い病気のため、ページを多くさきました。また、腫瘍の発生頻度は少ないのですが、生命に重大な影響を与える病気のため記述を多くしました。さらに、脊椎・脊髄の病気は高齢者に圧倒的に多いのですが、小児期から幅広い年齢層にわたってみられるため力点をおきました。

 人が人らしく生活し活動することができるか否かは、運動器系の臓器が正常に機能するか否かにかかっているといっても過言ではありません。寝たきり状態になることを避けるうえでも、運動器系の病気の重要性をよく理解する必要があります。本章が読者に十分活用されることを希望します。

(執筆者:石井良章