口・あごの機能と病気の原因

 口のなかの病気というと一般にすぐ思いつくのは、むし歯、歯周病、口内炎などでしょう。“あご”となるとさらに関心が薄く、病気を生じる場所と思われていないかもしれません。

 しかし、口は毎日あらゆる種類の食物を受け入れて、これを歯、舌、唇、唾液腺などの共同作業で咀嚼・嚥下するほか、社会生活に欠かせない「言葉」をつくることも口の重要な機能です。

 それらの活動の主役を演じている歯や舌は、さまざまな危険に曝されながらがんばっています。

 食物の形、温度、化学成分などは大きなバリエーションがあり、口のなかはそのつど強い刺激を直接受けています。たばこ、酒、香辛料などの繰り返し摂取、あるいは虫歯などで尖った歯、不適合な義歯などによる機械的粘膜刺激は、いろいろな口の病気の原因となります。

注意すべき主な病気

口・あごの炎症

 口のなかの病変で最もポピュラーなのは炎症です。そのほとんどは歯が原因で、むし歯や歯周炎により、あごの骨のなかに炎症病巣をつくります。いわゆる顎骨炎で、歯が原因でもすでに炎症は骨に及んでいます。

 一般に骨は体の中心にあって体を支える役目をして、外界からよく守られています。しかし、あごの骨には歯がついており、粘膜が骨に密接しているのでその影響を受けやすく、簡単に炎症病巣をつくってしまいます。それが急性炎症になると周囲の組織に急速な広がりをみせ、早急に適切な処置をしないと重篤になる可能性があります。

 一方、歯の根の先には慢性炎症病巣がみられることが多く、これらの病巣からは病原菌がいつも血液などに流出していることになると、それが心臓に悪影響をもたらすことがあります。感染性心内膜炎の多くは歯が原因であるといわれているのはそのためです。

あごの関節の病気

 あごの動きは咀嚼運動で主役を担いますが、下あごの骨は両側の側頭骨のくぼみからブランコのようについているため、手や足とは違って運動は当然制限されます。そこで下あごの骨の関節頭は大きく口をあけるたびに、関節のくぼみから前のほうに滑走することになります。この動きを円滑にするため、円板という一種のクッションが介在しています。

 これらはすべてあごの関節に特徴的な構造で、複雑で微妙な運動が可能になります。しかも咀嚼に要する力は瞬間的には60kgにも達するので、その関節部に大きな負担がかかっていることになります。

 したがってこの部分に故障が起こりやすく、顎関節症がその代表です。症状はあごを動かすたびに、痛い、音がする、口をあけにくいなどです。

あごの変形症など

 成長とともに上あごと下あごのアンバランスを生じると、あごの変形症といわれます。

 日本人は下顎前突と呼ばれるいわゆる受け口の頻度が高い傾向にあります。気にしなければ問題ない程度から、噛み合わせに支障を来すものまであります。治療法も歯科矯正のみで治ることもありますが、口腔外科で骨切り手術をすることもあります。

 口唇・口蓋裂においても、最初の形成手術のあと、成長とともに上あごの成長が十分でなく、20歳前後にあごの変形手術をすることが多くなります。いずれにせよ口腔外科と矯正歯科、それに形成外科とのチーム医療が必要です。

 最近は歯が抜けたあとインプラント治療を行い、義歯を用いずに噛む機能を最高に発揮させることが一般的になってきました。しかし、どのあごにもインプラントが適応するわけではありません。そこで骨を移植、移動、あるいは再生させてインプラントができるように手術をすることがあります。

口・あご・舌のがん

 口のがんで最も頻度が高いのは舌がんです。舌などの口腔粘膜に小さなはれ物、潰瘍、しこりを感じたら、ためらわずに口腔外科を受診しましょう。痛みがない時はなおさら、一応がんを疑って専門医に相談する必要があります。様子をみている間に、いつのまにか大きくなったり転移したりするからです。がんは歯肉や頬粘膜、口底など、あらゆる部位にできます。

 進行がんになると、機能を維持するための再建手術は長時間を要するうえに、いかに精巧な手術を行っても、たとえば舌がんで舌の役割を回復させることは難しくなります。早期がんを手術すれば100%に近い治癒率が得られ、再建をしなくても術後の機能障害はゼロに近くなります。

(執筆者:瀬戸皖一