メンデルの遺伝の法則を基に病気を遺伝形式に従って分類すると、常染色体優性遺伝病、常染色体劣性遺伝病、X連鎖優性遺伝病、X連鎖劣性遺伝病、Y連鎖遺伝病があげられます。

 ここでは頻度が比較的高い、常染色体優性遺伝病、常染色体劣性遺伝病、X連鎖劣性遺伝病を取り上げて説明します。

●常染色体優性遺伝病

 常染色体優性遺伝の形式によって起こる病気はたくさんの種類が知られていますが、それらの遺伝形式には共通する特徴があります。

 発病する人の遺伝子型はヘテロ接合、すなわちAaがほとんどです(図9)。もちろん、変異した対立遺伝子がホモ接合する遺伝子型AAの状態も病気になることが考えられますが、この場合は極めて重症になるか、この世に生を受けることができない場合が多いと考えられています。両親のどちらかが患者さんであれば、その子どもは50%の確率で同じ表現型を示し、病気になる可能性があります。

 家系をみわたすと、各世代に同じ病気になった人が何人かいる場合があります。発病した人は同じヘテロ接合であると考えられ、次の世代に変異のある対立遺伝子を伝える可能性があります。実際に、遺伝子検査が可能になった現在では、家系調査から実証されています。しかし、同じ家系内では同じ遺伝子型であっても症状の程度に個人差があり、重症から軽症まで一定しない傾向があります。

 常染色体に関係する遺伝疾患は、男女比に発生頻度差がないのが通常です。家族性高コレステロール血症、ハンチントン病、家族性腺腫性ポリポーシスなどが知られています。

●常染色体劣性遺伝病

 変異のある対立遺伝子がホモ接合して初めて発病します(図10)。ヘテロ接合の状態では発病せず、保因者になります。これは、ヘテロ接合で発病する常染色体優性遺伝病とまったく違うところです。

 両親がヘテロ接合の保因者の時、その子どもがホモ接合になって発病する確率は25%です。逆にいえば、患者さんの両親は保因者と考えることができます。したがって、患者さんの兄弟姉妹は同じ病気になる可能性が25%であることを念頭におく必要があります。とくに、両親がいとこ婚、ふたいとこ(またいとこ)婚などの近親婚の場合、発症率が高くなることが知られています。

 常染色体劣性遺伝病はフェニルケトン尿症、アルカプトン尿症など代謝性疾患に多いことが知られています。

 同じ家系内の患者間では、症状の程度はほぼ同じでばらつきが少ないことは、常染色体優性遺伝病と違う点です。男女で発症率が同じであることは、常染色体に由来する疾患では共通しています。

●X連鎖劣性遺伝病

 X染色体に存在する遺伝子に関係するため、男子と女子で異なる発症率を示す特徴があります(図11)。また、父親のX染色体上の遺伝子は娘に伝えられますが、息子に伝わることはありません。一方、母親はX染色体を2本もっていますが、子どもが男児であろうと女児であろうと、どちらかのX染色体上の対立遺伝子を伝えることになります。

 X染色体上の野生型対立遺伝子をXAとし、その変異型遺伝子をXaとすると、男性が変異遺伝子Xaを受け継ぎ、Xa遺伝子型になった場合、Xa自身は劣性遺伝子であっても、X染色体が1本のヘミ接合のため、その影響を反映して発病することになります。そのため、X連鎖劣性遺伝病の患者はほとんど男性です。

 女性の遺伝子型はXAXAが正常、XAXaは保因者になり、通常は発病しません。XaXaでは、劣性遺伝子のホモ接合であるため男性と同じように発病しますが、父親が遺伝子型XaYの患者である条件を満たす場合に限られるため、実際は極めて少ないといえます。ただ、女性の2本のX染色体のうち1本は機能を停止し、不活性化した状態にあることが原因になって、XAXaの女性でも軽症で発病することがまれにあります。

 一般に、男性の患者さんの母親は保因者である可能性が高くなります。また、その父親や男兄弟に発病した人がいることがしばしばあります。血友病はX連鎖劣性遺伝をし、英国のヴィクトリア女王を中心とするヨーロッパ王室間の遺伝はよく知られています。

●メンデル遺伝の分離にあてはまらない場合

 遺伝性疾患は、メンデル遺伝の原則に従って分離するのが通常ですが、このルールにあてはまらない場合もあります。その原因としては次のようなことが考えられます。

(1)浸透度の低下

 常染色体優性遺伝病の場合、各世代に発病者が認められ、世代の飛び越しがないことが原則です。しかし、実際に家系調査をすると、ある程度の割合で飛び越し現象がみられます。遺伝子型Aaの人を分母にし、実際に発病した人を分子とした値で浸透度を表すことができます。DNA(デオキシリボ核酸)にメチル基(CH)が付くと遺伝子の発現が抑えられます。遺伝子型Aaであれば発病することが予測されますが、DNAのメチル化による変異遺伝子の不活化など、何らかの原因で発病しない場合があります。このような現象を「不完全浸透」と呼んでいます。

(2)表現度の差

 常染色体優性遺伝病では、同じ原因遺伝子によって起こった病気であっても、重症度や症状の内容に大きな差があることが知られていて、たとえ同じ家系内でも表現度に差がみられます。重症例に比べ、非常に症状が軽ければ病気として気づかなかったり、同じ病気として認識されないこともあります。

(3)生殖腺モザイク

 常染色体優性遺伝病では、先の世代から後の世代に原因遺伝子が伝わることが原則です。しかし、親世代以前にまったく病気にかかった人が見あたらないにもかかわらず、ある世代の兄弟姉妹で複数の人が病気になる場合があります。

 同じ突然変異が精子や卵をつくる過程の減数分裂の時に偶然一致して起こることは考えにくいことから、親の生殖腺発生段階で(親が祖母の胎内にいる時)一部に変異が生じたためと考えられます。ただ、この世代以降はメンデル遺伝の法則どおりに病気の形質が伝わることになります。

(4)発病年齢の差

 遺伝性の病気のすべてが生後すぐに発病するのではなく、成人してから発病するものがかなり多くあります。同じ病気であっても、青年期で発病する人から老年期になって発病する人まで個人差がみられます。

 したがって、遺伝子型からある遺伝病にかかることが予想される場合でも、発症年齢が遅く、ほかの疾患に早くかかり、遺伝病の発症を待つまでもなく一生を終える場合もありえます。

 一方、世代をへて新しい世代ほど重症度が高くなったり、世代が新しくなるほどだんだん若い年代で発病するようになる現象が神経変性疾患などで知られています。これを「表現促進現象」と呼び、その仕組みも明らかにされてきました。

(5)遺伝的異質性

 これまで同一の遺伝病と考えられていた疾患が、原因遺伝子を調べると実は異なる遺伝子が原因で発症していることがわかってきました。遺伝学的にも、常染色体優性遺伝形式に一致する疾患や、常染色体劣性遺伝やX連鎖劣性遺伝が混在している疾患群があります。

 病気を遺伝子レベルで分類し、真の原因を突きとめることは根本的な治療法開発の第一歩であり、遺伝カウンセリングにおいて的確な情報を提供するための重要な根拠でもあります。

(執筆者:田村 和朗