ゲノムとは

 ゲノムとは、ひとつの生物のすべての遺伝情報を含んでいる完全なDNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列のことをいいます。DNAはリン酸と糖から構成されるリボン状の骨格に4種類の塩基(グアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C))が付着している構造をとっています。この塩基の並びを塩基配列と呼び、GATCの4つの文字でDNA構造を表すことができます。

 ヒトゲノムの解読は、世界各国の協力によって行われました。そして、ワトソンとクリックという2人の科学者によるDNA二重らせん構造の発見から50年後の2003年4月に、ほぼ完全な塩基配列が解読されたと発表されました。

 その結果、現在ではヒトゲノムは、精子や卵子のもつ遺伝子量(ハプロイドまたは1倍体)として表すと30億塩基対(塩基対:ベースペア、bp)、遺伝子にして約2〜2・5万種類とされました。この精子と卵子が受精して2倍体(ディプロイド)となり、ヒトの身体を構成する体細胞になります。

 また、ヒトとチンパンジーのゲノムの構造は1%強しか違わず、マウスのゲノムサイズもヒトとほぼ同等、遺伝子数はヒトよりやや少ない程度とされています。

 ヒトゲノムDNAは、細胞の核と細胞質内のミトコンドリアに存在します。

核ゲノム

 細胞の核にあるDNAで、ゲノムDNAの大部分がここにあります。ヒトの標準的な体細胞の核ゲノムDNAは、23対46本の線状のDNAに分かれて、蛋白質に巻きつき、複雑な高次構造をとって染色体を形成しています(図5)。各対の一方は精子由来、もう一方は卵子由来です。

 23対のうちの22対は1番から22番の常染色体を構成し、残りの1対は女性なら2本のX染色体、男性ならXとY染色体です。

ミトコンドリアゲノム

 1細胞あたり数千個存在するミトコンドリアには、16・6kb(キロベース、1kbは1000bp)の環状のDNAがあります。遺伝子から蛋白質を産生する時に必要とされるtRNA(トランスファーRNA。RNA=リボ核酸)をつくる遺伝子など、37個の遺伝子をもっています。

 受精卵がつくられる時には、ミトコンドリアは精子からはもち込まれず、卵子(すなわち母親)にのみ由来するため、ヒトのミトコンドリアゲノムDNAは母親に由来することになります。

翻訳されるのは2・5%だけ

 ゲノムDNAには、遺伝の本質である遺伝子が含まれます。ヒトの一般的な遺伝子は、mRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、その後、蛋白質を形成する情報を担います。

 遺伝子は、mRNAとして機能する部分に相当するDNAであるエキソンと、転写後に切り取られるイントロン部分から構成されています。

 エキソンよりイントロンのサイズのほうがはるかに大きいため、ヒト核ゲノムDNAにおいては、遺伝子に関係するDNA配列はゲノムの4分の1程度しか占めていません。

 mRNAの一部は3つの塩基がひとつのアミノ酸に対応していくことで、アミノ酸がつながったペプチドに翻訳されます(図6)。翻訳される塩基配列に対応するDNAは遺伝子と遺伝子に関連するゲノムの10%、したがって全ゲノムの2・5%にしかなりません。

 一方、ゲノムの4分の3は遺伝子以外のDNAからなり、その40%は同種の配列がゲノム全体に分散されて存在する反復配列と、一定の短い塩基配列が縦列に並ぶ反復配列が占めています。

 後者のなかでは、染色体の中心部の動原体部分に局在して細胞分裂時のDNA分配に重要な役割を果たすαサテライトDNAや、染色体DNAの両端にあって老化に関連があるテロメア配列が、細胞の機能の点から重要です。

 ミニサテライトDNAは5〜50bpの単位の、マイクロサテライトDNAは1〜4bpの単位のそれぞれ縦列反復配列で、反復の数に個人差があり、病気の発症に関係する場合があることも知られています。

(執筆者:澤井 英明