遺伝性の疾患が遺伝子の変異によって起こっていることが明らかな場合、遺伝子を調べて診断することができます。(遺伝子診断)また、ゲノムの入れ物である染色体の変化によって発症する場合には、染色体を調べて診断することができます(染色体診断)。これらは併せて遺伝学的診断と呼ばれます。

遺伝子診断の特徴

 遺伝子診断には通常ゲノムDNAが利用されますが、mRNA(メッセンジャーRNA)から試験管内で作製されたcDNA(コンプリメンタリーDNA)も用いられます。細胞から得られるDNAやmRNAはごく微量ですが、1980年代にPCR(polymerase chain reaction)法という遺伝子増幅法が開発されたために、遺伝子診断は少量の細胞から容易に、また迅速にできるようになりました。

 遺伝子や染色体の検査には、通常、血液細胞が使用されます。すなわち私たちの身体の細胞は、両親のそれぞれから受け継いだ染色体DNA(核に存在)と、母に由来するミトコンドリアDNA(細胞質に存在)からなるたったひとつの受精卵が分裂して構成されたものです(生殖細胞系列と呼ぶ)。よって、ゲノムDNAは身体の正常な細胞や組織であればどれでも同一なので、遺伝子診断や染色体診断は、細胞の採取について被験者の負担が比較的少ない採血によって得られた血液細胞で行われます。しかし、mRNAや蛋白質から疾患を診断するには、疾患の場となっている細胞や臓器の一部を得て調べることが必要となります。

 疾患の発症に関わることが明らかな遺伝子を責任遺伝子と呼びますが、責任遺伝子を調べることで診断が確実になることがあります。遺伝子に変異がある場所が限定されている(ホットスポット)疾患では、遺伝子診断は比較的容易です。しかし、責任遺伝子がはっきりしているにも関わらず、遺伝子診断によっても遺伝子変異がはっきりとわからない場合もあります。遺伝子には遺伝子発現の調節領域や成熟mRNAとならないイントロンがありますが、このような領域は成熟mRNAとなるエクソンよりも広く、その全域を調べることは困難であることによります。このように多くの遺伝子診断では診断率は100%とはなりません。遺伝子変異が見つからなかった場合には、その疾患でなかったのか、それとも調べることができなかっただけなのかの結論がつかず、遺伝子診断の限界といえます。

 また同じ遺伝子の変異であっても、疾患がまったく異なる場合もあります。一方で、同じような症状があっても、異なった遺伝子の変異が原因であるために遺伝の形式や重症度が異なる場合、また遺伝性疾患ではないこともあり、遺伝子診断によって遺伝性や遺伝の形式がはっきりすることもあります。

 一方、腫瘍は、正常細胞から新たに発生した細胞の系列(体細胞系列と呼ぶ)にゲノムや染色体の変異がみられます。腫瘍細胞や組織を解析するには、生検や手術の時に得られた腫瘍細胞やがん細胞が用いられ、その結果は、診断や治療法の決定に用いられます。

 遺伝子多型の検査は、個人の同定や親子の鑑定などの法医学の分野でも行われています。DNAやRNAを利用して、細菌やウイルスの遺伝子の検査が行われます。これらは遺伝学的検査にはあたりませんが、DNAやRNAを検出するという点で共通の技術が用いられています。

染色体診断の特徴

 染色体診断は、核ゲノムの入れ物である染色体を顕微鏡で見て検査します。1000倍に引き延ばして染色体の形や染まり方を検査しますが、顕微鏡で見る検査であるため解像度には限界があります。FISH法(蛍光色素によって着色されたDNA断片で染色する方法)によって染色体上の遺伝子の有無がわかるようになりましたが、それでも顕微鏡で見るためには300kb(キロベース)程度のDNA断片が必要です。全染色体を色分けすることができるSKY法でも2000Kb以上の変化がなければ変化は検出はできず、ギムザ染色で行うG分染法の検査限界も同じくらいです。このように染色体診断ではおおまかなゲノムの状況しかわからないため、微細な変異についてはゲノムDNAを直接調べる遺伝子診断や、マイクロアレイ法の併用が必要となります。また、ゲノムに過不足がなくてもゲノムDNAのメチル化に問題があることもあり、メチル化を調べる遺伝子診断が併用されます。しかし、染色体検査でなければわからないゲノムの変化もあります。染色体の均衡型転座や、同じ染色体内での逆位などで、通常のゲノムDNA解析ではこのような「位置の違い」は判定できません。

多様な可能性と問題点

 遺伝子や染色体による診断は、技術的な限界のために診断確定に至らない場合があります。これは遺伝子や染色体の診断を受ける患者さんにとっては不利益となりますが、臨床的な診断がなされている状況には変わりがなく、遺伝子や染色体診断で変異が見いだされなかったことはその疾患を否定する根拠とはなりません。一方、何らかのゲノム変異が患者さんに見いだされた場合(生殖細胞系列の変異)を考えてみましょう。この変異は両親に由来し、兄弟姉妹、子どもにも共有されている可能性があります。一方で、変異が両親に由来せず、患者さんのみに限られていても(新生突然変異)、この変異は患者さんから子孫に伝えられます。

 このようにゲノムは個人のものであると同時に、血縁者に共有されるという性格があります。遺伝子や染色体の検査を受ける場合には、前もって検査の内容や適応とともに、その結果がご本人や家族にどのような影響をもたらすかを十分に理解しておくことが大切です。この目的には、遺伝医療の専門職による遺伝カウンセリングが必要です。また検査の結果が得られた場合にも、結果の理解には遺伝カウンセリングを通じての支援が必要です。

 遺伝子変異があってもすべての人が発症するとは限らない疾患や、ある程度の年齢にならなければ発症しない疾患があります。しかし遺伝子変異は生まれつきのもので一生変わらないことから、発症前でも遺伝子診断は可能です。発症の予防や治療が可能な場合には発症前診断は有効です。しかし、治療法が確立していない場合には、発症前診断を受ける・受けないの決断はその人にとって極めて重い負担になります。

 一方で症状がない血縁者が保因者診断などの遺伝学的診断を受けるためには、患者さん自身の遺伝学的診断がはっきりとしていることが前提となります。患者さんにとっては臨床的に診断が確定しているので、あらためて遺伝学的診断を受けることにメリットがないこともあり、患者さんの意思への配慮が必須となります。

 遺伝子や染色体による診断は、微量の細胞からの診断も可能なために、出生前診断や着床前診断に適応されることがあります。当然のことながら、これらの診断を受けるにはご夫婦の自律的な判断が必要となるとともに、受けないという選択が重視されなければなりません。そしていずれの場合でも厳重な倫理的配慮と十分な遺伝カウンセリングが必須です。