究極の個人情報ゆえに

 個人のゲノム情報は、その個人が一生の間、変わることなくもち続ける究極の個人情報です。しかも、その情報は個人にとどまらず、親子や兄弟姉妹など家族の間で共通して保有される情報でもあります。ヒトゲノムの解析が飛躍的に進むとともに、疾患の診断や治療にゲノム解析が果たす役割が年々大きくなってきています。

 一方で、ヒトゲノムには個人差があることから、ゲノム情報を解析することで、個人を特定したり、個人がどのような疾患にかかりやすいかなどの個人情報を知ることが可能になります。

 ゲノムや遺伝子の解析研究は、個人がゲノムDNAを研究に提供することから始まるので、個人が前記のような意義と問題点を十分理解して同意し、自律的な意思でゲノムDNAを研究に提供することが基本となります。この点をふまえて文部科学省、厚生労働省、経済産業省は、2001年に、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(いわゆる三省指針)を公表しました。

 ここにはヒトゲノム研究によりゲノム試料を提供する人とその血縁者の遺伝的素因を明らかとすることから、その取扱いには倫理的・法的・社会的問題(Ethical Legal Social Issuesの頭文字をとってELSIと呼ぶ)を考慮し、人間の尊厳と人権の尊重のもとで社会の理解と協力を得て実施することが不可欠である、との立場が示されています。2003年に成立し、2005年より施行された個人情報保護法に従って、この倫理指針も改訂されました(表3)。

 それ以降、遺伝学的診断や解析は、研究のみならず臨床の場面で必要となる状況が増えてきました。この状況により、2004年には「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」が厚生労働省によって定められました(2006年改正)。

 この第10項「遺伝情報を診療に活用する場合の取扱い」には「遺伝学的検査等により得られた遺伝情報については、本人の遺伝子・染色体の変化に基づく体質、疾病の発症等に関する情報が含まれるほか、その血縁者に関わる情報でもあり、その情報は生涯変化しないものであることから、これが漏えいした場合には、本人及び血縁者が被る被害及び苦痛は大きなものとなるおそれがある。したがって、遺伝学的検査等により得られた遺伝情報の取扱いについては、(一部省略)とくに留意する必要がある。また、検査の実施に同意している場合においても、その検査結果が示す意味を正確に理解することが困難であったり、疾病の将来予測性に対してどのように対処すればよいかなど、本人及び家族等が大きな不安を持つ場合が多い。したがって、医療機関等が、遺伝学的検査を行う場合には、臨床遺伝学の専門的知識を持つ者により、遺伝カウンセリングを実施するなど、本人及び家族等の心理社会的支援を行う必要がある。」と書かれています。

 このガイドラインおよび三省指針により、ゲノム研究や遺伝学的診断には、専門職による遺伝カウンセリングの実施などによって本人や血縁者を支援することが必要であることが明示されました。