不安の解消と十分な理解のために

 医療の情報のほとんどはその人のみに属するもので、家族に共有されることはありませんが、ゲノムの情報はその人にとって一生変わらない個人の基盤であるとともに、家族にも共有されます。この点がゲノムの情報やゲノムの変異の情報の特徴であるため、医療者からその人のゲノム情報が単純に提示されるだけでは理解も不十分となり、自分や家族の将来に役立たせることができる真に有益な情報とならないと思われます。

 問題を抱えて訪れた人を総称してクライアント(来談者)と呼び、患者さんやご家族のみならず、漠然と不安をもつ方も含まれます。科学的に情報を説明されただけではクライアントのもつ苦悩や不安の軽減には不十分です。クライアントにとっては、苦悩や不安を医療者と共有したうえで、医療者から提供された遺伝医学的な情報の意味を正確に把握して、問題点の解決を考えていく過程が大切です。その情報をもとにクライアントが自らの将来を選択する過程においてさまざまな援助を受けることも必要となり、遺伝カウンセリングの意義もこの点にあると考えられています。

 「遺伝カウンセリングは「カウンセリング」「相談」「教育」「指導」のすべての面を持っている」(千代豪昭著『面接の理論と技術』より引用)ことになり、遺伝カウンセリングには専門家の援助が必要となります。

多面的な支援が望まれる

 遺伝医学に関係する学会のガイドライン(2003年)によれば、

「遺伝性疾患の患者・家族またはその可能性のある人(クライアント)に対して、生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるよう臨床遺伝学的診断を行い、遺伝医学的判断に基づき遺伝予後などの適切な情報を提供し、支援する医療行為である。遺伝カウンセリングにおいてはクライアントと遺伝カウンセリング担当者との良好な信頼関係に基づき、さまざまなコミュニケーションが行われ、この過程で心理的精神的援助がなされる。遺伝カウンセリングは決して一方的な遺伝医学的情報提供だけではないことに留意すべきである。」

 と記述されています。政府関係の指針にも、遺伝カウンセリングのあり方が示されています(表1)。

 遺伝性の疾患の患者さんを中心とする遺伝カウンセリング以外にも、遺伝学的診断に伴う遺伝カウンセリングや、女性のライフスタイルが多様化したことの反映ともいえる高齢出産についての遺伝カウンセリングが増加しています。またインターネットの発達からおぼれる程の多くの情報を得て混乱しているクライアントもおられます。政府関係の指針やガイドラインで遺伝医療に関わる独立した部門の設置が推奨されたことから、遺伝子診療部門、臨床遺伝部門などの名称で呼ばれる部門の整備が全国の大学病院を中心に進んできました。このような部門では、臨床遺伝の専門医や認定遺伝カウンセラーが遺伝医療や遺伝カウンセリングに携わっています。

 2008年より、これまで保険適応であった染色体検査に加えて、一部の遺伝子診断とその結果の説明のための遺伝カウンセリングが保険診療の適応として認められました。しかし大半の遺伝子診断や遺伝カウンセリングには未だ適応されておらず、今後の課題となっています。