私たちの身体は、脳が出した指令が脊髄から末梢神経を通って筋肉まで届き、筋肉が収縮して関節を動かすという一連の流れによって動いています。その道筋のどこが悪くなっても、手足は動きにくくなります。

 神経が原因で手足が動かなくなった場合を「麻痺」といいます。麻痺は、脳、脊髄、末梢神経のいずれかの神経が傷んだり、圧迫されたりすることで現れます。

 麻痺の出かたには、病気によって特徴があります。急に麻痺が出る(脳卒中など)、徐々に進む(頸椎症性脊髄症、腰部脊柱間狭窄症など)。左右対称に生じる(頸椎症性脊髄症など)、片側に強く現れる(腰部脊柱間狭窄症など)、片側だけに現れる(脳卒中、末梢神経障害など)。以下に、それぞれの麻痺の特徴を説明します。

(1)脳の障害

 脳の障害で多いのが、一般的に脳卒中といわれる脳血管障害です。これには脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れて出血する脳出血とがあります。脳血管障害の特徴は、急に起きること、意識障害が出やすいこと、麻痺が片側の上下肢に起きることです。これらの症状の強さは、障害を受けた部位の大きさによりさまざまで、後遺症も麻痺を残さないものから、まったく手足が動かなくなるものまでいろいろです。いずれにしても、できるだけ早期の治療が必要です。

 脳血管障害以外にも脳腫瘍やほかの神経疾患でも麻痺が起きることがありますが、この場合の麻痺は一般的にゆっくりと症状が進みます。

 いずれにしても脳の障害が心配される時は、脳外科か神経内科を早めに受診してください。MRI検査では極めて早期から病変を確認することができますし、できるだけ早く治療を開始したほうが、後遺症が少なくてすみます。

(2)脊髄の障害

 脊髄は、脊柱管という背骨のなかのトンネルを通る直径約1cmのひも状の神経組織で、脳の刺激を体幹や四肢に伝えます。腰椎では、脊髄から馬尾と呼ばれる馬のしっぽのような神経の束になって脊柱管を通っています。

 頸椎レベルで脊髄が障害を受けると、手がしびれる、細かな手の動きがうまくできない、歩く時にふらつくなどの症状が出ます。ひどくなると手足の筋力が落ち、場合によっては完全麻痺や膀胱や直腸の障害を来すこともあります。原因としては、頸椎の変形による頸椎症性脊髄症、脊柱管のなかの靭帯が骨化して大きくなって脊髄を圧迫する後縦靭帯骨化症、脊髄腫瘍があります。

 胸椎のレベルでの脊髄の圧迫でも、下肢のしびれや筋力の低下が生じます。原因は頸椎の場合と似ていますが、黄色靭帯骨化症、脊髄腫瘍が考えられます。

 腰椎のレベルでは、馬尾神経の圧迫が起きやすく、椎間板が出っ張ったり、飛び出したりして神経を圧迫するものを椎間板ヘルニア、腰椎自体の変形によるものを腰部脊柱管狭窄症と呼びます。前者は若い人に多く、後者は中高年以上に多い病気です。

 腰椎レベルで神経が圧迫されると、脚のしびれや痛み、筋力の低下、膀胱の障害などが起こります。もちろん、圧迫の強さや部位により症状はさまざまです。徐々に、膝に力が入らなくなってきた、足首や足の指が反りにくくなってきた、足のしびれや痛みが出てきたといった症状の場合、腰部脊柱管狭窄症が疑われます。この病気による麻痺は比較的ゆっくり進行します。

 脊髄の病気が心配される時は整形外科を受診してください。症状や神経学的所見、X線・MRI検査などで、どこに原因があるかがわかります。

(3)末梢神経の障害

 末梢神経の障害で手足が動かなくなる病気はいくつかありますが、通常、しびれや知覚の低下を伴います。神経の通り道が狭くなったり、神経そのものや周囲に腫瘍ができて、神経が圧迫される場合に起きます。また、特別な病気がなくても神経は長時間圧迫を受けると、その神経が支配する筋肉や知覚が麻痺する場合があります。

 中高年に多い末梢神経障害は、手根管症候群と肘部管症候群です。

 手根管症候群は、手首で正中神経という神経が圧迫されて手のひらや親指から薬指のはら側の知覚の鈍さ、しびれや痛みが出る病気です。女性に多く、手を使うことの多い人に多く起きます。手の安静保持、内服薬や注射、手術などで治療します。

 肘部管症候群は、小指の知覚の鈍さや、しびれや痛みが特徴で、進行すると薬指、中指がまっすぐ伸びなくなります。肘の変形などのために尺骨神経が圧迫されることが原因です。

 末梢神経の病気が心配な場合は、整形外科を受診してください。

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 以上のように麻痺の原因はたくさんあります。麻痺が起きた場合は、必ず何らかの病気が潜んでいると疑ってみます。脊髄と末梢神経が原因のようであれば整形外科または神経内科に、脳の問題のようであれば神経内科または脳外科にかかってください。

(執筆者:石橋 英明