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肺がん


高齢者の特殊事情

 肺がんとは 肺から発生したがんの総称です。とくに高齢の男性では、がんのなかでも最も発生頻度が高く、日本では第1位です。
 肺がんには、顕微鏡でみたがんの組織の特徴から、腺がん、扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、大細胞がん、小細胞がんなどの種類がありますが、臨床的には、その治療方法の違いから、小細胞がん、非小細胞がんと大きく2つに区別しています。
 今後ますます高齢化社会が進むことによって増加する病気であることは間違いありません。したがって最も重要なことは、ほかのがんと同じで早期発見、早期治療です。非小細胞がんで、早く見つかり治療をすれば5年生存率は50〜70%ですが、肺内のリンパ節に転移した場合、5年生存率は30〜50%に下がってしまいます。
 肺がんは進行が早く、転移もしやすいため、安らかな晩年の生活を大きく阻害する原因になります。とくに、ヘビースモーカーの高齢男性には、要注意の病気です。

原因は何か

 がん発生のメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、正常な肺に突然、がん細胞が出現する原因として、最も影響のあるものは喫煙とされています。肺がんの患者さんの8割は喫煙歴があるとの報告もあります。
 たばこの煙には約数千種類の物質が含まれていて、そのなかの発がん物質やスーパーオキサイド(活性酸素のひとつ)などによる遺伝子の傷害が、がん細胞の発生に関わっているものと思われます。また、高齢になるに伴って発生率が高まることから、加齢による遺伝子の修復機能の低下、個人のがん遺伝子の変異やたばこに対する感受性なども関与しているものと思われます。
 肺がんになる危険因子としては、喫煙、加齢(50歳以上)、家族歴、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)、喘息(ぜんそく)、じん肺、特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん))の既往などがあげられます。
 とくに喫煙歴は重要で、喫煙開始年齢が15歳以下であること、喫煙量が多いことなどで、ますます肺がんを発症する確率が高くなります。また、他人のたばこの煙を慢性的に吸入すること(受動喫煙)も肺がんのリスクとされ、近年、非喫煙女性の肺がんも増加傾向にあります。

症状の現れ方

 肺がんは、症状が出る前に健康診断などで発見されることもありますが、多くは4週間以上続く咳(せき)、喀痰(かくたん)、血痰(けったん)、発熱、呼吸困難、胸痛などの呼吸器の症状をきっかけに発見されます。まれに、胸膜への転移(胸水貯留)や脳転移の症状(頭痛、吐き気、嘔吐)、骨転移(腰痛や胸痛)などで見つかることもあります。
 気管・気管支に発生するタイプの肺がんは、血痰や咳、呼吸困難などの症状が出やすく、早期に発見されることも多いのですが、肺の末梢に発生するタイプの肺がんは、がんが大きくなるまで無症状のことが多く、要注意です。

検査と診断

 まず肺がんは、胸部単純X線写真による異常の発見が診断のきっかけになります。次に、胸部CTを撮影して、肺における異常な影の厳密な位置とほかの臓器への広がりの程度、リンパ節転移の有無を調べます。
 確定診断のためには、がん細胞の証明が必要です。まず、痰を採取してがん細胞の有無を調べる喀痰細胞診を行いますが、これは陽性になる確率が低いため、たとえ陰性でも気管支鏡検査による生検(組織の一部を採取して調べる検査)が必要になります。また、CTで観察しながら経皮的針生検でがん細胞を採取する方法もあります。
 喀痰細胞診、気管支鏡検査などでがん細胞が証明されなかった場合は、CT画像の病変の大きさや特徴から強く肺がんが疑われるならば、全身麻酔で胸腔鏡下肺生検を実施して確定診断を行います。
 なお、気管支鏡検査の合併症として術後の気胸(ききょう)および肺炎、出血があるので、85歳以上の人、日常生活動作(ADL)が低下している人、心臓疾患の既往のある人は、術前に医師から検査のリスクについて説明を聞き、納得したのち受けるようにしてください。
 これらの検査で肺がんと診断された場合、転移の有無を調べる検査をします。一般的には脳MRI(CT)、腹部造影CT、骨シンチグラフィを行います。さらに、手術適応などの面からFDG―PETという検査を実施する場合もあります。
 また、血液中の腫瘍マーカーは、組織型の推定や治療効果の判定、再発の診断に役立ちます。
 高齢者において肺がんの診断を進めていくうえで重要なことは、少々時間がかかっても、身体への負担を考慮して負荷の少ない検査(以前の画像との比較、喀痰細胞診)を実施していくことです。

治療の方法

 肺がんの治療は、小細胞がんか非小細胞がんかによって大きく異なります(表4)。

●小細胞がん
 早期から全身に転移しやすく、進行が早い反面、化学療法(抗がん薬)や放射線治療がよく効くので、抗がん薬の全身投与が第一選択になります。高齢者で、病気の発症に伴って日常生活動作(ADL)が低下した患者さんでも、確実に治療効果が望めます。
 治療成績は、診断時に胸腔内にがんがとどまっていた場合(限局型:LD)で20〜30%(5年生存率)、胸郭外に転移があった場合(広範型:ED)で10〜20%(2年生存率)です。
 必要によって、転移がない時期に脳に放射線の予防的照射を実施する場合もあります。

●非小細胞がん
 病巣が肺の片側に限局している場合、まず手術による病巣の切除およびリンパ節の郭清(かくせい)が第一選択です。しかし、病巣と反対側のリンパ節にも転移が認められた場合は、抗がん薬の併用も必要です。
 診断時から転移が認められた場合、もしくは手術不能な場合は、抗がん薬と放射線治療が主体になります。しかし、ADLが低下した人は、治療に伴う身体的負担がむしろ有害になる可能性があるため、積極的な治療を行わないほうがよい場合もあります。
 化学療法、放射線治療いずれの場合でも、肺がんは完治が非常に困難ながんです。患者さんや家族はよく担当医と相談して治療方針を決めることが必要です(インフォームド・コンセント)。判断に悩む場合は、ほかの医療機関の専門医に相談することも必要です(セカンドオピニオン)。その場合は、必ず紹介状と資料を担当医に依頼したほうが円滑にいきます。
 近年、遺伝子工学の発展に伴い、がん細胞の増殖、転移を標的とした薬剤(上皮成長因子受容体阻害薬:イレッサ)が使用可能になっています。イレッサは一部の患者さんでは有効ですが、現時点では強くすすめる根拠は弱く、また重い副作用として間質性肺炎の発症が報告されています。


(執筆者:大賀栄次郎)

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