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らんそうしゅよう

卵巣腫瘍


卵巣腫瘍はどんな病気か


 卵巣は子宮の左右両側にひとつずつあり、通常は直径2〜3cm程度の大きさです。卵巣と子宮をつなぐ役割をしているのが卵管です。この卵巣にはれが生じた状態を卵巣腫瘍といいます。多くは卵巣の片側に発生しますが、両側に発生することもあります。
 卵巣腫瘍は、ほかの臓器に発症する腫瘍に比べて非常にたくさんの種類があります。大きく2つに分類すると、嚢胞性(のうほうせい)腫瘍(いわゆる卵巣嚢腫(のうしゅ))と、充実性(じゅうじつせい)腫瘍に分けられます。
 また、卵巣腫瘍は臨床経過に応じて、良性、悪性、境界悪性(良性と悪性の中間的なもの)の3群に分類されます。一般的に、嚢胞性腫瘍は臨床経過としては良性のことが多く、充実性腫瘍は約75〜80%程度が悪性もしくは境界悪性腫瘍です。

●卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)(嚢胞性腫瘍(のうほうせいしゅよう))
 卵巣のなかに、液体成分がたまってはれている状態の腫瘍です。婦人科臓器に発生する腫瘍のなかで、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)と並んで最も発生頻度が高い腫瘍のひとつです。
 ほとんどが良性です。しかし、卵巣はおなかのなか(腹腔内)の臓器であるため、正確には手術で摘出して病理検査(顕微鏡で腫瘍を構成する細胞の顔つきから良性か悪性かを判断する検査)をしてみないと、絶対に良性であるとは断言できません。
 卵巣嚢腫にはいくつかの種類があり、以下、代表的なものについて概説します。

●漿液性嚢胞腺腫(しょうえきせいのうほうせんしゅ)
 嚢胞内部に黄色い透明な液体がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の約25%を占めます。球形の手のこぶし大ほどの大きさで、縮小しないことが特徴です。

●粘液性(ねんえきせい)嚢胞腺腫
 嚢胞内部にネバネバした粘液がたまる腫瘍で、卵巣嚢腫の約20%を占めます。
 この腫瘍の特徴は、しばしば巨大化し、おなかのなかで嚢胞が破れ、内部の粘液がおなか全体に広がることです。この病態を腹膜偽粘液腫(ふくまくぎねんえきしゅ)と呼びます。腫瘍の一つひとつの細胞は良性ですが、破れることで腹膜炎を起こし、死亡することも少なくありません。

●成熟嚢胞性奇形腫(せいじゅくのうほうせいきけいしゅ)
 嚢胞内部に皮脂、毛髪、歯、軟骨などを含んだ腫瘍で、大きさは通常、直径10cm以下で、卵巣の両側に発生することもあります。良性の卵巣嚢腫のなかで最も頻度が高く、その半数以上を占めます。
 大部分は20〜30代に発生します。そのため、妊娠中に発見されることもよくあり、その場合は妊娠初期に手術を行います。また、嚢胞内部に皮脂、毛髪などを含んでいるため、腹部X線検査でこれらが写って発見されることもあります。
 若い年代に発症したものは良性のことが多いのですが、高齢の場合は悪性に変化していることがあります。そのため、若い時にこの腫瘍が発見された場合は、手術による摘出か定期的な検査を受けることがすすめられます。

●充実性腫瘍(じゅうじつせいしゅよう)
 充実性腫瘍には、腫瘍全体が充実成分(固形成分)で占められている腫瘍と、腫瘍の一部に充実成分があり、それ以外の部分を液体成分が占めているものがあります。
 この腫瘍には、良性のものと悪性の卵巣がんがあります。前述したように、卵巣嚢腫がほぼ良性であるのと異なり、この腫瘍では悪性の割合が高くなります。
 良性の腫瘍と悪性の卵巣がんのちょうど中間の性質をもっている境界悪性は、通常は確実に摘出してしまえば生命に関わることはありませんが、ごくまれに再発することがあります。
 これに対して卵巣がんは、初期の場合なら完治率も改善傾向にありますが、進行した場合は依然再発率も低くなく、治療に苦慮することがあります。卵巣がんの特徴として、おなかに水がたまる腹水とそれによる腹膜播種(はしゅ)という転移形態をとることも、治療を困難にしている原因のひとつです。
 現在でも卵巣がんの生命予後は、進行期にもよりますが、厳しいとされています。近年、日本でも、生活様式や食生活の欧米化に伴って卵巣がんが増加傾向を示しています。

原因は何か

 卵巣腫瘍は非常に種類が多く、その発生原因も多岐にわたります。
 たとえば、良性の卵巣腫瘍のなかで最も発生頻度が高い成熟嚢胞性奇形腫は胚(はい)細胞腫瘍と呼ばれ、胎児が発生する段階の細胞が卵巣の内部で腫瘍を形成したものです。
 また、子宮内膜症性(しきゅうないまくしょうせい)卵巣嚢腫は、卵巣の内部で子宮内膜が増殖して、月経周期に一致して出血を繰り返し、卵巣のなかに月経血が毎月たまることで発生します。
 悪性の卵巣腫瘍である卵巣がんは、通常、ヒトの体をがんから守るはたらきをする物質をつくるための鋳型(いがた)である遺伝子(がん抑制遺伝子)の異常によって発生すると考えられています。
 このような遺伝子の異常が原因で発生するがんには、ほかに乳がん大腸がんなどがあります。肉親にこれらのがんにかかった人がいる場合は、卵巣がんのリスクが高くなり、家族性卵巣がん・乳がんなどの家系があることも知られています。

症状の現れ方

 卵巣腫瘍の主な症状は、腹部膨満感(ぼうまんかん)、下腹部痛、性器出血、便秘、頻尿(ひんにょう)などさまざまあります。
 一般に、最も多く現れる初発症状は、下腹部、とくにどちらか片側の腹痛で、さらに腫瘍が増大した場合は、ウエストのサイズが大きくなり、スカートやジーンズがきつくなったなどの症状が出ることがよくあります。
 卵巣腫瘍は、そのサイズがかなり大きくなってからではないと、腹部膨満感などの症状が出てきにくい病気で、発見が遅れがちになります。
 卵巣は腹腔内の臓器で、子宮筋腫の際の過多(かた)月経(レバー状の塊が生理のときに出る)、子宮頸(けい)がんの際の不正性器出血(とくに性交後出血)、子宮内膜がんの際の不正性器出血などの特徴的自覚症状を欠くことも、この腫瘍の早期発見を遅らせている一因になっています。
 したがって、前述したような自覚症状のいずれかでもある場合には、婦人科を受診することをすすめます。
 片側に発生した卵巣腫瘍の場合、急速に下腹部痛が現れてくることがあり、これを卵巣腫瘍茎捻転(けいねんてん)と呼びます。卵巣腫瘍がおなかのなかでねじれてしまい、その腫瘍に卵巣を養うために送られていた血液が来なくなって腫瘍が壊死(えし)に陥り、炎症などが強くなって周期的で強烈な痛みが現れます。このような卵巣腫瘍茎捻転を起こす腫瘍は、多くは直径が5cm以上のものです。
 また、通常では卵巣がんに伴ってみられる腹水や胸水が、良性の卵巣腫瘍に伴って出現することがあり(メイグス症候群)、手術で卵巣腫瘍を摘出すると急速に腹水、胸水が消失します。
 これに対して、卵巣がんによる腹水や胸水は悪性細胞が原因になっているため、そのコントロールに苦慮することが少なくありません。
 このたまった腹水のなかを悪性細胞が流れていって、腹膜などに二次的な病変をつくる腹膜播種は、卵巣がんの進行様式の特徴です。
 良性の充実腫瘍は、まれにホルモンを産生することがあります。その場合は、分泌されるホルモンによって閉経後の再出血や、多毛、筋力発達などの男性化徴候などが起こることがあります。

検査と診断

 卵巣嚢腫、卵巣がんの診断に最も有用なのは経腟(けいちつ)超音波検査で、腟のなかに超音波プローブという細い管を挿入して卵巣を観察します。
 これは、通常の経腹(けいふく)超音波検査(下腹部をおなかの表面から超音波で観察する方法)に比べ、卵巣を近いところから詳しく観察できるため、小さな腫瘍を早期に発見するためには不可欠な検査です。
ただし、卵巣嚢腫でも直径が15cmを超えるほど巨大なものや、腹水の貯留や腹膜播種を伴う卵巣がんでは、経腹超音波検査のほうが有用なこともあります。
 また、画像診断として、卵巣腫瘍の種類を特定するためにはCTやMRI検査が有効です。
 卵巣腫瘍が良性か悪性かを判断するひとつの目安として腫瘍マーカーが用いられています。正確に良性か悪性かを判断するためには、手術によって摘出し、顕微鏡で腫瘍細胞を調べる病理検査を行います。

治療の方法

 通常、良性の卵巣嚢腫が疑われ、その腫瘍のサイズが直径10cm以内であれば、腹腔鏡下(ふくくうきょうか)腫瘍摘出術が可能です。ただし、サイズがそれ以上に大きいものや画像診断で悪性が疑われる場合には、開腹による腫瘍切除が必要になります。
 卵巣がんであれば、通常、子宮の摘出、大網(だいもう)(胃と大腸の間の膜)の切除、腹膜播種病変の切除、リンパ腺の郭清(かくせい)(リンパ腺を摘出し、転移の有無を調べること)を初回手術として行い、手術後約1〜2週後から抗がん薬を用いた化学療法を行います。
 卵巣がんは、白血病などを除いた固形がん(1カ所に固まって発生するがん)のなかでは、抗がん薬によく反応する悪性腫瘍で、手術後に化学療法を行うと治療効果が改善することが知られています。また、最近では、少しずつ新しい抗がん薬が開発されてきていて、なるべく高い効果を保ちながら、副作用を抑える工夫がなされてきています。

卵巣腫瘍に気づいたらどうする


 卵巣腫瘍がほかの婦人科腫瘍と異なるところは、前述したように特徴的な初発症状が乏(とぼ)しいことです。早期発見が完全な治療を受けるためには必要なのですが、なかなか症状が出にくく、大量の腹水がたまってから、あわてて婦人科を受診するケースが少なくありません。
 したがって、何らかの下腹部痛、不正出血、おりものの増加、腹部膨満感など、普段とは異なる症状を感じた場合には、この卵巣腫瘍を常に念頭に入れ、早期に婦人科を受診して適切な検査を受けることが重要です。とくに、下腹部に膨満感があり、ウエストのサイズが大きくなった場合は、ただ太っただけなどとすまさずに、必ず婦人科を受診するようにしてください。


(執筆者:中川俊介)

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