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じんかくしょうがい

人格障害


 人格障害とは、その人が生来ある程度もっている人格傾向で、どちらかといえば成人以降になって明確になってくるもので、本人あるいは周囲がその人格傾向によって社会生活上の著しい困難を来している病態をいいます。
 英語のパーソナリティ・ディスオーダーの訳ですが、日本語ではやや差別的な意味合いが歴史的にあり、その表現が偏見をもたれやすかったといえましょう。しかし、今日の臨床医学では、なくてはならない大切な病気の概念になってきています。
 歴史的には、精神病とも神経症とも分類できないものの、正常と比べて行動や物事の認識のしかたが逸脱した一群の人たちが存在することが知られていました。古くは犯罪者の研究から始まり、遺伝的基盤をもった変質者と認識される伝統が19世紀以来の西欧でみられてきました。
 一方、ドイツのシュナイダーは、病気としてよりはむしろ正常からの逸脱としてこの病態をとらえました。その後、精神医学ではこれらの人たちを類型化して、治療的アプローチを図ろうとしてきました。この類型化には精神分析学の影響が少なくないといわれています。
 現在、表12で示すような10の類型がなされていますが、この項では臨床的によくみられる代表的な人格障害をあげて解説します。

●境界性人格障害(きょうかいせいじんかくしょうがい)

人格障害はどんな障害か


 精神分析治療の場から生まれてきた概念で、初めは神経症と精神病の中間領域にある病態を指していましたが、次第に概念が明確になり、1980年のころより一般的な診断として普及してきた障害です。
 患者さんの特徴として、女性に多くみられます。一見魅力的で情熱的な印象を受けることも少なくありませんが、一定の感情を保持することが難しく、怒りや不安に対する耐性が低く、対人関係は非常に不安定です。自分の安定を得るために、自殺や自傷のほのめかしなど、周囲を不安にさせて操るような言動が多いため、家族や恋人、友人はいつもこの人を、はれ物を触るように扱わないといけないような気持ちにさせられます。
 症状を整理すると、慢性的抑うつ感、空虚感(くうきょかん)、衝動性(しょうどうせい)、情緒不安定性、対人関係の不安定さなどがあげられます。同時にほかの精神疾患が多くみられるのも特徴で、うつ病パニック障害、摂食(せっしょく)障害、物質依存(アルコール、薬物など)、AD/HD(注意欠陥(ちゅういけっかん)/多動性(たどうせい)障害)などが認められることが少なくありません。
 原因としては、遺伝的要因と環境的要因の相互作用により現れてくると推定されています。

治療の方法

 治療には精神分析的精神療法、認知行動療法、薬物療法が用いられます。最近の話題としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬が効果があるとする報告や、認知行動療法を修正した弁証法(べんしょうほう)的行動療法(DBT)が自殺や衝動行為の制御に有効性が高いという報告があります。
 治療には数年、あるいはそれ以上の長期間を必要としますが、今日では外来通院や、デイケアなどの中間施設の利用、および短期の入院が治療の主流で、長期の入院治療は重篤な症例を除き行われなくなってきています。
 症状が自分に該当する場合は、早めに信頼できる治療者を見つけ、治療を継続していくことが大切です。一般に、30歳を過ぎると社会適応は改善する場合が少なくなく、この年齢まで自殺を予防し、生存を確保することが治療上重要とされます。

●自己愛性人格障害(じこあいせいじんかくしょうがい)

人格障害はどんな障害か


 これも精神分析の臨床から生まれた概念です。自己愛(ナルシズム)は健康な人にも必ず存在し、自信や勇気といったものの基盤になるものです。しかし、それが病的に肥大したものであると、他人との関係でトラブルが増え、自分の怒りの感情の制御が困難になってきます。
 実際の患者さんでは、非常に尊大な態度で、誇大的(こだいてき)自己像をもち、他人に対する共感性は希薄で、自分のプライドを傷つけられるような体験があると激怒する(自己愛憤怒(ふんぬ))といった姿がみられます。また、現実にはこのような人の描くような理想は実現不可能なことが多いので、空想に浸る傾向が強いのも特徴です。
 また、この障害には、もうひとつ別のタイプの「密(ひそ)やかな自己愛性人格障害」といったものも存在すると考えられています。
 このタイプは、自分の自己愛的世界が壊されることを非常に恐れるため、他人の評価に極端に敏感で、一般的な自己愛性人格障害の人と同じように誇大的自己像をもちながらも、それをあからさまにすることなく、傷つきを恐れ、引きこもるようなタイプです。このタイプは日本人には多いのではないかと思われますが、疫学的なことはまだよくわかっていません。
 自己愛性人格障害は、どちらかといえば男性に多く、高い社会階層の人の長男に多いものです。有名人や専門職の人にも少なくないといわれています。

治療の方法

 治療は、主に外来での精神分析的精神療法が行われます。時間はかかりますが、社会的適応を比較的よく改善することができます。この病気に特異的な薬物療法はありませんが、不眠、抑うつ、不安といった随伴する症状について対処的に薬が用いられます。

●反社会性人格障害(はんしゃかいせいじんかくしょうがい)

人格障害はどんな障害か


 社会の規範に反する継続的な行動により特徴づけられる、ひとつの状態像です。国際疾病分類(ICD―10)における非社会性人格障害とほぼ同じ意味です。類似の概念にサイコパス(精神病質(せいしんびょうしつ))といったものがあります。
 男性に女性の3倍多くみられます。
15歳以前に問題行動を起こす、いわゆる行為障害(こういしょうがい)として、その反社会性の兆候を現すことが、診断では必要とされています。また、この障害ではただ単に反社会的行動があるばかりでなく、さまざまな生活領域において問題をもっています。
 それは彼らの、人をだます傾向、衝動性(しょうどうせい)、無計画性、易怒性(いどせい)(怒りっぽい)、向こうみず、無責任、良心の呵責(かしゃく)の欠如などです。詐欺師(さぎし)と呼ばれるような人物が、その典型であるといえましょう。

原因は何か

 特定の原因は不明です。遺伝的要因と環境的要因の相互によって、形成されてくると推定されています。
 遺伝的要因の関与が高く、この障害をもつ患者さんの一親等内での有病率は、対照群に比べて5倍高いことが知られています。患者さんの脳波や神経反射テストにおいてしばしば異常を認めることから、脳の機能や発達の問題もあるかもしれません。

症状の現れ方

 実際の症例では、一見魅力的で如才ないようにみえる話しぶりなのですが、情緒表現がやや大げさで、何か深みがなく、ただ表面的に合わせているにすぎないことがやがて周囲に気づかれてくるような人たちです。
 根底に何かの発達上の障害をもっていて、多くの場合、知性は低くはないので表面的には人に合わせることを知っているのですが、深い情緒的な関係が他人とつくれないために、自分の利益だけを求めることに執着して、根底にある不安を防衛している人たちなのかもしれません。
 この障害では、子どものころからうそが多く、家出、盗み、ケンカ、薬物やアルコールの乱用傾向が認められます。大人になってくると、先に示したような状態が出現してきます。

治療の方法

 精神療法と薬物療法を行いますが、この障害に関する特異的な治療法は開発されていません。
 この障害に立ち向かおうとする研究者たちにより、世界でさまざまな試みがなされており、精神療法の治療効果を報告する研究者もいます。年齢が高くなるにつれて、すべての症状は改善されてくるという明るい報告もあります。

●回避性人格障害(かいひせいじんかくしょうがい)

人格障害はどんな障害か


 これは現代のサラリーマンにはしばしばみられる病気で、社会的な引きこもりをもたらすひとつの原因であると考えられます。少し対人恐怖症(たいじんきょうふしょう)に似ています。
 たとえば、批判や拒絶されることを恐れるあまり仕事に行かなくなったり、好かれていると確信できなければ他人との関係を進んでもちたいと考えなかったりします。親密な関係でも傷つくことを恐れて、非常な遠慮を示したりもします。
 社会にあっては、自分への批判や拒絶に関してとらわれすぎる傾向がみられます。こうした不安から、新しい対人関係に踏み入ることができないこともあります。
 対人場面では非常に自信がもてず、恥をかくかもしれないとの不安からいつも引っ込み思案であるような人物像です。前述の「密(ひそ)やかな自己愛性人格障害」の人も、この分類に含まれる場合があると考えられます。

治療の方法

 実際の臨床では、外来治療での精神療法が中心となります。主治医と相談しながら、自分自身の問題として症状を認識し、自分に合った適応のあり方を模索していく必要があります。
 また、この病気に特異的な薬物療法はありませんが、不眠、抑うつ、不安といった随伴する症状について、対症的に薬が用いられます。


(執筆者:小野和哉)

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