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近頃、「熟成肉」を扱うレストランが増えています。すでに食べた人も、まだ食べたことはないけれど気になっている人も多いはず。そんな熟成肉について、探ってみました。

うまみが強く、やわらかい

熟成肉とは、長く寝かせた肉のこと。普通の肉より、旨味が増していて、やわらかいのが特徴です。ナッツのような独特の香りの虜になる人も多いとか。

さて、この熟成肉の製法には2通りあります。ひとつは、ドライエイジングといって、牛肉を専用の冷蔵庫に入れて、風をあてながら数十日間保存します。風をあてているので、肉の表面の水分が蒸発し、旨味がどんどん凝縮していきます。

一方、肉の中では酵素がはたらき、タンパク質が分解されて、うまみのもととなるアミノ酸やペプチドに変化していきます。それと同時に肉もやわらかくなり、1か月ほど経つと、肉のまわりはカビにおおわれるので、外側のカビを丁寧に削り落とすと、その中から、赤い熟成肉が現れるのです。肉全体の半分くらいの量を削り落とす上に、できあがるまでにとても手間がかかります。だから、熟成肉の値段は高いのです。

もうひとつは、ウェットエイジングという方法があります。これは、真空包装した肉を冷蔵庫に保管するというもの。風はあてません。そのため、冷凍肉を冷蔵庫でゆっくり解凍するなどしてつくられています。

腐りかけの肉ではありません

肉を長く置いておくのだから、熟成肉は腐りかけの肉だと思っている人もいるかもしれません。でも、熟成と腐敗は違います。腐敗では、腐敗細菌が増殖し、有害物ができ、悪臭が漂いますが、熟成では温度や湿度をしっかりと管理し、腐敗細菌をおさえながらうまみを増やさせます。ただし、熟成と腐敗は紙一重。取り扱いが悪いとあっという間に肉は腐ります。よい熟成肉をつくるには、細心の品質管理と熟練の技が必要なのです。

株式会社東京食肉安全検査センター センター長の中島和英さんは「熟成肉は普通の牛肉とまったく取り扱いが違います。扱いが悪ければ、食中毒の原因にもなりかねません。だから、決して自分で熟成肉を作ってみようなどとはしないでくださいね」と話します。

信頼できるお店で食べよう

欧米ではドライエイジングが主流で、かたい赤身の肉をおいしく食べるために編み出された方法です。ところが日本では熟成肉の定義がはっきりしていないので、手間暇かけたドライエイジングビーフも冷蔵庫で数日寝かせただけの牛肉も熟成肉といえてしまいます。そのため、出回っている熟成肉の味や品質はまちまち。せっかく食べてみたけれど、期待外れだったという人もいるかもしれません。

そこで、農林水産省もドライエイジングビーフを日本農林規格(JAS)に加えたうえで、製造方法などに一定のルールを設ける検討を始めました。とはいえ、ルールが決まるまでにはまだ時間がかかります。「熟成肉を食べるときや購入するときは、ぜひ信頼できるお店を選んでください」と中島さんはアドバイスします。

早速、熟成肉を食べてみようとしたあなたに、「旨味が増した熟成肉では、たれやソースはあまり使わず、塩味でじっくりと肉の旨味を味わってください」と中島さんがもうひとつアドバイスしてくれました。これをきっかけに、新しい肉のおいしさに出会えるかもしれません。

(サイエンスライター・佐藤成美)