お腹の上の部分、みぞおちあたりの痛み。胃痛? それとも、ほかの病気? どんな痛みがどの位置で起こったかで、疑われる病気がある程度わかります。自分の症状と照らし合わせてみましょう。

みぞおちの辺りが痛い 激しい痛みor鈍痛? 痛むのは真ん中・右・左?

腹痛には重篤な病気の前兆かも

お腹の上部には、特に重要な臓器がたくさん位置しています。みぞおちまわりには、食道や胃、十二指腸、心臓、膵臓、胆道などの消化に関わる臓器や、肝臓などのデトックスに重要な臓器が。みぞおちの右側にあたる右上腹部には、肝臓、胆道、胃、十二指腸、右腎臓、膵臓。みぞおちの左側の左上腹部には、膵臓、胃、脾臓、左腎臓など。痛む場所と、臓器別に疑いのある病気をご紹介します。

<みぞおちあたりが痛いとき>

みぞおちあたりが痛いとき

◯食道
マロリー・ワイス症候群・・・みぞおちの痛み、繰り返す嘔吐後の吐血・下血、立ちくらみをともなう場合も。

繰り返して嘔吐・出血し、検査で胃に縦走潰瘍を認められる場合。原因は、飲酒が関与する割合は30〜50%、それ以外には食中毒、乗り物酔い、つわりなどが。痛みをともなう場合は、特発性食道破裂を起こしている可能性があり、出血量が多いとショック状態になり、輸血が必要になることも。治療は、内視鏡検査で潰瘍を確認後、出血している場合は、止血処理をします。処置後は、潰瘍の深さによりますが、入院し、絶食、輸液療法などを。潰瘍の治療として、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬などの酸分泌抑制薬を服用します。嘔吐で出血した場合は、すぐに内視鏡検査ができる病院を受診しましょう。

特発性食道破裂・・・嘔吐後、突然バットで殴られたような胸痛や、上腹部痛が。胸が苦しくなるほか、呼吸困難、冷や汗、顔面蒼白に。

主に飲酒後の嘔吐により食道内圧が上昇し、食道が破裂するもの。嘔吐反射が起きた時、こらえようとしたために食道内に嘔吐物が充満し、瞬間的な内圧の上昇に耐えきれなくなった食道壁が破裂します。すぐに手術が必要で、胸腔内や縦隔をよく洗浄し、破裂した食道壁を2層に縫合して十分なドレナージ(ドレーンチューブを留置する)を行います。なかには手術せず保存的治療で治るものもありますが、胸腔ドレーンの留置は必要です。特発性食道破裂は診断、治療ともに難しく、死亡の恐れもあります。飲酒後の嘔吐の後、強烈な胸痛・腹痛を感じたら、直ちに病院を受診してください。

◯胃
急性胃炎・・・上腹部の痛み、もたれ感、食欲不振、吐き気、嘔吐など。

さまざまな原因によって起こされる胃の急性炎症。飲食物、薬物、ストレスが原因のものが多くあります。また、アルコール、外傷、外科手術、ピロリ菌の感染、アニサキス症の際にも生じることが。原因がはっきりしている場合は、それを取り除くと、すぐに回復します。出血が強い場合には、内視鏡で観察しながら止血を。軽症の場合は、注意が深く様子をみれば十分。重症の場合は、内視鏡検査の可能な病院へ。

慢性胃炎・・・上腹部不快感、膨満感、食欲不振。炎症が強いときは、吐き気や上層部痛などの急性胃炎症状がでる。

大半がピロリ菌の長期感染によって引き起こされるもの。急性胃炎のように完全に治りきることはまれ。胃が萎縮して、胃酸や粘膜を分泌しない状態になることが原因ですが、これを改善する根本的治療はありません。胃の不定愁訴には、胃の運動を改善する薬剤や胃の粘膜を保護する薬剤が処方されます。また、ピロリ菌に感染している場合は、除菌します。慢性胃炎自体は、大きな心配の必要がない病気ですが、胃がんの可能性を除外するため、1〜2年に1度の内視鏡検査を受けておくと安心です。

胃アニサキス症・・・食後数時間以内に、急激な上腹部痛や嘔吐などの症状が。まれに、アナフィラキシーショッック症状に陥ることも。

アニサキス類の幼虫が寄生した魚類(マサバ、スケソウダラ、マアジ、スルメイカなど)を食べることによって、胃の粘膜に入り込んで発症する病気。症状の起こる数日以内に新鮮な魚類を食べたかどうか、そして、胃内視鏡検査で虫体を確認することで診断されます。胃内視鏡で虫体が確認されれば、その場で摘出。確認できなくても、この病気が強く疑われる場合には、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬の投与により症状は軽快します。生鮮魚介類を好む日本人の食文化と密接な関係がある病気です。最も多い感染源は、シメサバやイカ。これらを食べた後に体調が悪くなったら、内視鏡検査の可能な医療機関へ。

急性胃粘膜病変・・・突然の上腹部痛や吐血・下血。

急性胃炎のうち、急激に強い上腹部痛や吐血、下血などの症状が現れ、内視鏡で胃のなかを観察すると、出血、びらん、潰瘍(かいよう)性変化を伴っているもの。原因はさまざまあり、ストレス、鎮痛剤や解熱薬などの薬物、アルコール・香辛料などの多量摂取、アニサキスの感染、ピロリ菌など多数あります。すみやかな内視鏡検査が唯一の診断法で、原因がわかればそれをすぐに除去。そのほかは、胃酸分泌抑制薬がとても効果的です。出血があれば、内視鏡的止血術などが行われます。重い合併症がなければ、予後のよい病気です。

胃潰瘍・・・食後30分から1時間で、上腹部痛が起こる。ただし、20〜30%では痛みが出ないことがある(特に非ステロイド性消炎鎮痛薬由来の場合)。吐血や下血をともなう場合も。

胃酸の影響を受けて潰瘍を胃に形成するもの。40歳以降の人に多く見られる病気です。原因は、ピロリ菌に由来するものが全体の70%前後。もうひとつ、成因としていわれているのが、非ステロイド性消炎鎮痛薬です。日本ではアスピリンが最も有名ですが、こういった薬剤は、胃酸から胃粘膜を守るプロスタグランジンの合成を抑制する作用をもっています。そのため、薬を服用すると胃の防御機構が障害され潰瘍を形成してしまうのです。胃潰瘍は治癒するのに2〜3カ月かかります。ピロリ菌の除菌療法のほか、薬由来の胃潰瘍の場合は原因となる薬の使用を中止する、または胃粘膜のプロスタグランジンを補充する、プロスタグランジン誘導体の投与が行われます。治療法は確立されてきましたが、激しい上腹部痛や吐血・下血をともなう場合は、胃に穴が開く可能性もあるので、ただちに救急外来を受診してください。

胃軸捻転症・・・上腹部の膨満感、激しい腹痛、嘔吐など。

胃の異常な回転や捻転によって起こる比較的まれな病気です。胃は靭帯(じんたい)、腸間膜(ちょうかんまく)、腹膜(ふくまく)などによって固定されていますが、新生児や乳児ではこれらの靭帯の固定が比較的弱いために容易に捻転を生じます。急速に生じた捻転の程度が180度を超えた場合には完全閉塞となって循環障害を起こし、胃壁の壊死(えし)、穿孔(せんこう)(孔(あな)があく)を合併してショック状態となることが。そのため、急性型では慢性型に比べて死亡率が高くなります。慢性型で横隔膜や胃に異常がなければ、体位の工夫、食事を少量ずつ回数を多く摂取する、浣腸による排便・排ガスの促進で軽快します。急性型で胃管挿入で軽快しない場合は、緊急の開腹手術を行う必要が。痛みや嘔吐が激しいとき、子供は小児科を、大人は内科または外科を受診してください。

胃がん・・・上腹部痛、腹部膨満感、食欲不振。早期の胃がんの多くは無症状。

胃の悪性新生物の95%を占める上皮性の悪性腫瘍で、日本では肺がんに次いで死亡率の高いがんです。原因は、ピロリ菌の感染のほか、食生活に関係があるといわれています。たばこ、高塩分食、魚や肉のこげなど発がん促進因子の摂取など。がんの治療法は、粘膜の切除、胃切除、化学療法や放射線療法など、がんの進達度と広がりの程度、リンパ節への転移など、進行具合により異なります。新しい治療法も登場していますが、具体的な薬剤の選択や投与法に関しては、いまだ研究段階にあり、経験豊富な施設、医師のもとでの治療がすすめられます。また、セカンドオピニオンを積極的に聞くことも大切です。胃がんは、早期に発見された人の5年生存率は97%で、今では早くみつければほぼ完全に治せる病気になっています。無症状の場合でも、40歳を超えたら、内視鏡もしくはX線検査による健康診断を定期的に行う事が必要です。

胃肉腫・・・自覚症状はほとんどなく、大きくなると胃の痛み、不快感、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹部膨満感などが。

胃の悪性腫瘍のうち上皮性のものを「胃がん」といい、非上皮性のものを「胃肉腫」といいます。「胃肉腫」は、胃の悪性腫瘍のうちの約5%で、珍しい病気です。「胃肉腫」のうち頻度が多いのは、「悪性リンパ腫」と「間葉系(かんようけい)腫瘍」です。この「間葉系腫瘍」には、神経の特徴をもった「神経系腫瘍」と平滑筋の特徴をもった「平滑筋系の腫瘍」があります。どれも原因は不明で、多くの胃肉腫は胃がんの検診の際に無症状で発見されることが多くなっています。悪性リンパ腫は、抗がん薬による化学療法で治療することが多く、間葉系腫瘍は切除することで診断と治療を同時に行います。胃肉腫の初期は無症状なので、定期的に健康診断を受けましょう。

◯十二指腸
十二指腸潰瘍・・・空腹時痛が夜間にしばしば起こる。

胃酸の影響を受けて潰瘍が十二指腸に形成したもの。10〜20代の若年者に多くみられます。十二指腸潰瘍の患者さんは、過酸症(かさんしょう)であることが圧倒的に多いのも特徴です。原因は95%がピロリ菌由来。治療は、ピロリ菌除菌療法が一般的です。痛みをともなう場合は、十二指腸潰瘍に穴があく場合が考えられますので、至急、救急外来を受診してください。

◯心臓
心筋梗塞・・・前胸部・胸骨下・下顎・頸部・左上腕・心窩部の激痛、締めつけられるような感じ、圧迫感。胸痛は30分以上持続し、呼吸困難、意識障害、吐き気、冷や汗をともなうときは重症。

心筋梗塞

狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患は、心臓を養う冠動脈の動脈硬化により血管の内腔が狭くなり、血液の流れが制限されて生じます。冠動脈が閉塞すると約40分後から心内膜側の心筋は壊死(えし)に陥ります。これが心筋梗塞です。心筋梗塞は発症からの時間の経過で治療法、重症度も異なるので、発症2週間以内を急性、1カ月以上経過したものを陳旧性とするのが一般的です。

原因は、冠動脈の動脈硬化を進行させる、高コレステロール血症、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満、痛風、中性脂肪、運動不足、精神的ストレスなどがあげられます。
急性心筋梗塞の治療は一般的治療と特殊治療の2つです。一般的治療は、数日間の安静・絶食、鎮痛薬、安定薬の投与、酸素吸入。抗血栓薬としてアスピリンは急性期から投与し、継続的に心電図を監視して重症の心室性不整脈が現れるのに対応できるようにします。特殊治療の再灌流療法には、静脈ないし冠動脈から血栓を溶解させる薬物を注射する方法と、カテーテル検査に引き続いてバルーンによる拡張術やステントを留置する方法があります。重篤な病気なので、強い胸痛があればすぐに救急車で医師の処置を受けましょう。

<お腹の右上が痛いとき>

◯肝臓
A型急性肝炎・・・ウイルスに感染して約1カ月後、腹痛、38度以上の発熱、体がだるい、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢など。

A型肝炎ウイルスが食べ物や飲み水を介して体内に侵入する、経口感染で起こります。体内に入ったウイルスを排除しようと、体の免疫反応が働き、肝炎ウイルスに感染した細胞ごと攻撃するため、肝臓に炎症が起こるのです。近年では、衛生状態の悪い海外で感染している人が増えています。生水や生ものはもちろん、生野菜のサラダを洗った水、氷を作った水が汚染されている場合があるので注意が必要です。

ウイルスに感染して1カ月後に、風邪によく似た症状で発症。その後、1週間後に黄疸が現れ、茶褐色の尿や白っぽい便がでることもあります。黄疸があったり血液検査の数値が高い場合には、入院した上で安静にします。適切な処置をすれば1〜2カ月で完治することがほとんど。最近では、ワクチンで免疫力をつけたり、直接免疫グロブリンを注射して予防する方法があります。特に、衛生状態の悪い海外へ渡航する人は、積極的に感染予防を事前に行うことが推奨されています。

肝硬変・・・腹部膨満感、腹痛、全身倦怠感、脱力感、易(い)疲労感、尿の色が濃く染まる、吐き気、嘔吐など。消化器症状を主とする全身症状を訴えることが多い。

肝臓は、B型やC型肝炎ウイルスの感染、アルコール、非アルコール性脂肪性肝炎などによって傷が生じます。その傷を修復するときにできる「線維」というタンパク質が増加して肝臓全体に拡がった状態のことを肝硬変と言います。肉眼的には肝臓全体が岩のようになって硬くなり、大きさも小さくなっていきます。肝硬変になると、肝臓が硬いために起こる腹水や食道静脈瘤、肝臓機能が低下するために起こる肝性脳症や黄疸が問題となります。肝硬変になる原因は、肝炎ウイルスによるものが最も多く、次いでアルコールによるもの。肝硬変の3大死亡原因は、肝がん、肝不全、食道静脈瘤(しょくどうじょうみゃくりゅう)の破裂に伴う消化管出血です。最近は肝がんの占める割合が70%と高くなり、次いで肝不全が20%、消化管出血が5%の順です。背景には、栄養療法の進歩、食道静脈瘤に対する内視鏡的治療の向上、抗生剤と利尿薬の開発・導入、アルブミン製剤の繁用などによる消化管出血死や感染死の減少があります。肝硬変の診療では、原因の確定、病態の重症度の評価と予後の予測、栄養評価とその対策、肝がんをはじめとする種々の合併症を視野に入れた適正な診断と治療対策、そして患者さんのADLとQOLの改善と長期維持を考慮した生活指導などが大切になります。

肝がん・・・直径が5〜10cmの肝がんがあると、腹部が張った感じや腹痛などの症状が。直径5cm以内の肝がんであれば無症状。

肝がんには、肝臓そのものから発症した原発性肝がんと、他の臓器のがんが肝臓に転移した続発性肝がん(転移性肝がん)があります。原発性肝がんの約90%を肝細胞がんが占め、約10%が胆管(たんかん)細胞がんです。一般的に肝がんというと肝細胞がんを指しています。

基礎疾患として慢性の肝臓病(慢性肝炎または肝硬変)のあることが多く、長期に“肝細胞の破壊・再生を繰り返すこと”が肝がん発がんの大きな原因です。B型肝炎ウイルスの保菌者では、ウイルスそのものが発がんを起こしうるとも考えられています。肝細胞がんの治療法としては、外科的肝切除、経皮的エタノール局注療法(PEIまたはPEITと略)、ラジオ波凝固療法(RFAと略)、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法、放射線療法などがあります。肝がんの治療では、多発性(1個か複数か)、腫瘍の大きさ、肝機能の重症度の3点を考慮してそれに適したものが選択されることが多いようです。さらに、がんの存在部位(肝臓の表面か深部か)を考慮することもあります。

肝がんの症状は、基礎にある慢性肝炎や肝硬変の症状と非常に似ているため、肝がんであるという特有な症状、サインはほとんどありません。ただ、急速に悪化する腹部膨満感では、急激に増大しつつある肝細胞がんの可能性があります。また、強い腹痛は肝がんの腹腔内破裂(出血)の場合があり、緊急にその状態を調べる必要が。病気の性格からは、肝がんと診断される前の段階(慢性肝炎、肝硬変)から、定期的に肝臓病の専門医に受診していることが大切です。こうすれば早期発見・早期治療の可能性が高くなります。

アルコール性肝炎・・・一部症例では、右上腹部痛、発熱、黄疸(おうだん)、肝臓の圧痛、食欲不振、嘔吐、下痢がおきることも。通常は無症状。

アルコールの過剰摂取で最初に生じるのはアルコール性脂肪肝。それでもなお大量飲酒を続けると、約2割の人にアルコール性肝障害が起こります。アルコール性肝障害のなかには、肝性脳症、肺炎、急性腎不全、消化管出血などの合併症やエンドトキシン血症などを伴い、1カ月以内に死亡する重症型アルコール性肝炎と呼ばれる病態も。幸い重症化しない場合でも、長期に大量飲酒を続けるとアルコール性肝線維症(かんせんいしょう)をへて、アルコール性肝硬変になることがあります。

飲酒の機会は男性に多いのですが、同じ量の長期大量飲酒だと女性のほうに早く肝障害が現れることがわかっています。治療には、節酒ではなく、断酒会などを積極的に利用して、禁酒することが大切。最近は肥満でかつアルコール性肝障害をもっている人が増えているので注意が必要です。

うっ血肝・・・右上腹の痛み。下肢のむくみや頸動脈の怒張(ふくれ)、呼吸困難などの心不全の症状も。

急性心筋梗塞)や肺炎などで、急に心臓のはたらきが低下した急性心不全の患者さん、あるいは心臓弁膜症や高血圧性心臓病で慢性的に心臓の働きが悪い慢性心不全の患者さんに生じる肝障害。肝臓は、心臓から送り出される血液量の約4分の1にも相当する多くの血液が供給されているため、心臓のポンプ作用が低下する心不全、とくに右心不全ではその影響を大きく受けます。心不全の程度によりますが、時には高度の黄疸(おうだん)を生じます。

急性心不全の時の肝障害は一時的なもので、心不全が改善すると肝障害も改善。診断は、心不全症状がある患者さんに肝機能障害がみられれば、うっ血肝を考えますが、超音波検査やCTなどの画像診断で、この病気の特徴的所見である肝静脈および下大静脈の拡張がみられれば診断は容易です。治療は、うっ血性心不全や、その原因となる心疾患に対することを行います。安静に加え、食事の減塩指導および強心薬、利尿薬などの投与も。心不全の治療を行うとともに、原因となる心疾患の原因究明、治療が急務です。

肝腫瘍・・・上腹部痛、右上腹部痛、発熱、全身倦怠感などの炎症症状のほか、黄疸など。

肝膿瘍とは、肝臓外から発生原因となる細菌や原虫などが肝組織内に進入・増殖し、肝内に膿瘍(膿が貯留した袋)を形成する病気の総称。病原体により、細菌性(化膿性)、アメーバ性に分けられ、発症の背景、臨床像、治療法は異なっています。細菌性肝膿瘍では、胆管結石、肝内胆石、肝胆膵のがんなどの発症で、その際に、細菌の侵入が見られる場合と、虫垂炎、結腸憩室炎などのように細菌が消化管に感染し、それが長く続き経門脈的に発症する場合などがあります。早期に診断し治療を開始しなければ、敗血症、細菌性ショック、播種性(はしゅせい)血管内凝固症候群(DIC)に移行し、致命的になることが。肝膿瘍を疑ったら、ただちに抗生剤による治療を開始します。 アメーバ性肝膿瘍の原因は、赤痢(せきり)アメーバの経口感染で発生し、海外渡航者に多く認められます。治療には、メトロニダゾール(フラジール)を投与します。上腹部痛をともなう急性の発熱があったら、すぐに消化器内科を受診しましょう。

肝嚢胞・・・ほとんどが無症状。大きくなれば、腹部腫瘤(しゅりゅう)の自覚、腹部膨満感(ぼうまんかん)、腹部鈍痛、胃部の不快感、吐き気など。嚢胞内に感染が起こると、発熱、腹痛も。

肝臓のなかに液体のたまった袋ができる病気。50歳以上の女性に多くみられ、ほとんどが先天性で良性のものです。先天性肝嚢胞で症状がない場合は、定期的に検査するだけで、とくに治療を必要としません。圧迫症状が強い場合や感染、出血、破裂などの合併症を起こした場合は治療が必要です。通常の場合、嚢胞を超音波で観察しながら、経皮的に細い針を穿刺(せんし)し、内容液を排液します。その後、嚢胞壁の細胞をアルコールやミノサイクリン(ミノマイシン)で死滅させることで治療できます。経皮治療の対象とならない場合は、開腹または内視鏡的に手術を行います。 炎症性、腫瘍性、寄生虫性の肝嚢胞では、原因に応じた治療が必要になります。人間ドッグの超音波検査で発見されることが多く、発覚後は、原因を調べてもらい、医師とその後の方針を相談しましょう。

◯胆道
胆石症・・・胆嚢結石の場合は多くが無症状。20%に症状があり、上腹部の違和感や腹部膨満感のほか、特徴的なのは脂肪分の多い食事をとった後の上腹部、右上腹部の痛み。胆管結石の場合は、みぞおちが痛む。

胆道に結石ができる病気を総称して胆石症と呼び、結石ができる場所によって、肝内結石、胆管結石(肝外胆管にできた結石)、胆嚢結石に分類されます。現在では日本人成人の10人に1人は胆石をもっているそう。その理由としては、食生活の欧米化や高齢化、また、検査が普及して発見される率が高くなったことなどがあげられています。

胆石はその成分により、コレステロール系結石、色素結石、その他のまれな胆石に分けられます。種類により原因もさまざま。一番多いのは、コレステロール系結石で全体の約70%に及びます。胆管結石で、無症状の人の多くは定期的な検診のみで、積極的な治療の対象にはなりません。ただし、胆嚢の壁が厚くなっている、胆嚢の萎縮などがみられた場合は治療が必要です。手術で胆嚢を摘出するほか、大きさが1cm程度の石化していないコレステロール系結石の場合は、薬を内服して結石を溶解する胆石溶解療法が。また、体外から衝撃派を当てて結石を細かく砕く体外衝撃波結石破砕療法もあります。胆管結石の場合は、無症状でも将来急性胆管炎や急性膵炎を起こす危険性があるため、治療が必要です。最近では、体の負担が少ない内視鏡的治療が一般的。胆石症と診断されたら、症状がなくても一度専門医を受診しましょう。

胆道感染症・・・急性胆嚢炎の場合は、発熱と右上腹部痛。激痛で腹部全体が硬くなっている時は、腹膜炎の可能性が。急性胆管炎は、右上腹部痛と寒気をともなう発熱・黄疸など。

胆道とは肝臓で作られた胆汁が十二指腸に流れる通り道のこと。その胆道に生じた感染症が胆道感染症です。結石やがんなどで胆汁が停滞したりすると高頻度に細菌感染が起こります。感染の場所が胆嚢であれば胆嚢炎、胆管であれば胆管炎といいますが、両者を合併していることも少なくありません。
急性胆嚢炎の場合は、炎症の程度に応じて、抗生物質による治療を行う方法、胆嚢に針を刺して感染した胆汁を抜く方法、胆嚢を直接手術で取る方法があります。軽度の急性胆管炎の場合には抗生物質による治療を行うこともありますが、中等度以上の場合には感染した胆汁を抜くための治療が必要です。自覚症状がでたら、内科や外科へ。高齢者では重症化しやすく、放置すると死に至ることがあるので特に注意が必要です。

胆嚢がん・・・肝臓内の細い胆管や胆嚢にがんができた場合は、がんが大きくなってから、右上腹部の鈍痛、食欲不振、体重減少、発熱などの症状が。総胆管にがんができた場合、黄疸が起きる。

胆管とは肝臓で作られた胆汁を流す管であり、その脇道に胆汁をためる胆嚢があります。それぞれにできたがんを、胆管がん・胆嚢がんと呼びます。胆嚢がんは女性に多く、胆管がんは男性に多い病気です。70代に最も多くみられ、加齢はひとつの危険因子になります。治療は、胆嚢がんでも胆管がん共に、手術が基本。がんの場所によって大きな手術となるため、体が手術に耐えられない場合は、抗がん剤治療や放射線治療を行います。胆嚢がんや胆管がんの手術は、いずれの処置も専門性が高いため、内科・外科双方が本領域の治療に慣れた専門病院での治療がおすすめです。

<お腹の左上が痛いとき>

◯膵臓
急性膵炎・・・みぞおちから左上腹部、背部。痛みは、軽い鈍痛から、激痛までさまざま。なんの前ぶれもなく痛む場合もあるが、特に油分の多い食事をした後、アルコールを多く飲んだ後に起こることもある。

膵臓は、蛋白分解酵素をはじめとして、食べ物を消化・分解するいろいろな酵素を産生し、分泌しています。急性膵炎は、いろいろな原因で活性化された膵酵素(すいこうそ)によって自分の膵臓が消化されてしまい、膵臓やその他の主要な臓器に炎症と障害が引き起こされる病気。短期間で軽快する軽症から、多臓器不全(たぞうきふぜん)で死に至る重症(重症急性膵炎)までさまざま。原因で最も多いのはアルコール37%、次に胆石24%、原因不明の特発性23%となります。

治療の基本は、絶飲絶食による膵臓の安静と、初期の十分な輸液の投与です。炎症のために大量の水分が失われているので、多量の輸液が必要です。腹痛などの痛みに対しては、鎮痛薬を適宜使用。さらに、膵酵素の活性を抑えるはたらきのある蛋白分解酵素阻害薬もよく使われます。重症膵炎では、集中治療室で全身管理が必要になることも。アルコールが原因の場合は、再度飲酒をはじめると膵炎が再発したり、慢性膵炎へ進展する危険性があります。

慢性膵炎・・・上腹部痛、腰背部痛、じんじん・チクチクとした持続性のある疼痛、吐き気、嘔吐、食欲不振、腹部膨満感など。

継続的なアルコールの多飲などによって、膵臓に持続性の炎症が起こり、膵臓の細胞が破壊されて、実質の脱落と線維化(膵臓の細胞がこわれ、線維が増えて硬くなる状態)が引き起こされる病気。アルコール多飲による原因が68%と最も多く、次に原因不明の特発性20.6%、胆石性3.1%と続きます。男女別の原因では、男性でアルコール性が76.6%に対し、女性では特発性が50%と最も多く、男女の違いが明らか。強い症状が現れた場合は、急性膵炎と同じ状態と考えられるので、同様に絶飲絶食による膵臓の安静と、初期の十分な輸液の投与が行われます。軽度から中程度の症状の場合は、節酒・禁酒、脂肪の多い食事を避けるなど、食事やストレスなどの生活習慣の改善が重要です。

腹痛が続く場合は、鎮痛薬や鎮痙薬を使用。また、腹痛や血清アミラーゼの軽度の上昇のみで、安易に慢性膵炎と診断され、漫然と投薬されている患者さんがよくみられます。まず消化器専門医の診察を受け、確実に慢性膵炎なのか、疑いが濃いのか、あるいは消化管などほかの疾患が考えられるのか、きちんとした診断を受けることが重要です。

膵石症・・・飲酒後や食事後の腹痛、背部痛。痛みが前かがみで軽くなることが多いため、腹痛増強時には独特の前かがみ姿勢をとる傾向が。そのほか、吐き気、嘔吐、食欲不振、体重の減少など。

膵石は膵管内(すいかんない)に形成された結石のことで、慢性膵炎と診断された患者さんの約40%にみられます。典型的な患者さんでは、初回の膵炎発作から約5年の経過で現れ始めます。膵石の外観は白色調で硬く、表面が不整で、大きさは5mm以下の小結石から10mmを超える大結石までさまざま。膵石症の成因は、アルコールの多飲、高カルシウム血症(副甲状腺機能亢進症)、膵管奇形、低栄養によるもののほか、原因がはっきりしないものもあります。

基本の治療は、禁酒と食事療法、そして薬物療法です。症状が落ち着いている時でも、膵液分泌刺激の少ない低脂肪食を心がけましょう。腹痛症状の強い時には、膵臓を守るために食事を止め、点滴もしくは高カロリー輸液で栄養を補給し、膵酵素(トリプシン)の阻害薬や鎮痛薬などにより急性炎症を抑えます。多くの患者さんが、これらで改善しますが、症状が長引いたり、再発を繰り返す場合には膵石治療が検討されます。

膵がん・・・上腹部痛、腰背部痛、食欲不振、体重減少。膵頭部がんでは、閉塞性黄疸、灰白色弁など。

膵臓にできる悪性腫瘍のこと。後腹膜臓器であるために早期発見が困難であり、また極めて悪性度が高く、たとえば2cm以下の小さながんであっても、すぐに周囲(血管、胆管、神経)への浸潤や、近くのリンパ節への転移、肝臓などへの遠隔転移を伴うことが多く、予後不良のがんです。早期診断は非常に困難。現在、根治性が最も期待される治療は外科的切除術(膵頭十二指腸切除術や膵体尾部切除術)であり、可能な限り積極的に病巣だけでなく、その周囲も取り除く拡大手術が行われています。しかし、発見された時には、すでに進行していることが多く、切除可能なのは40%前後です。60歳を過ぎたら定期的な検診をおすすめします。