膵臓がんの基礎知識 7つの危険因子|膵臓がんの主な検査方法

糖尿病や膵管内乳頭粘液性腫瘍、慢性膵炎、肥満は気をつけて

初期症状が乏しく、見つかったときにはすでに進行していることが多い。ハイリスク者は検査で早期発見を

膵臓がんの現状

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国で1年間に新しく膵臓がん(「膵がん」ともいう)にかかる人は約24,800人(2005年データ)、1年間に膵臓がんで亡くなる人は約26,800人(2009年データ)と発表されています。年次推移では、男女ともに罹患率も死亡率も増加傾向にあります。
 生涯で膵臓がんにかかるリスク(2005年データ)を見ると、男性で54人に1人(臓器別罹患数第8位:大腸がんを結腸がんと直腸がんに分けた場合。以下同)、女性では52人に1人(臓器別罹患数第8位)。膵臓がんで死亡するリスク(2009年データ)は、男性で58人に1人(臓器別死亡数第5位)、女性では68人に1人(臓器別死亡数第4位)とされています。
 年代別の罹患率をみると、男女ともに40歳代から徐々に増え出し、50歳代から急増傾向にあり、高齢になるほど上昇しています。

膵臓がんの危険因子

 膵臓の働きは、2つに大別されます。1つは、食物の消化に必要な複数の酵素を含んだ消化液(膵液)を産生し、十二指腸に分泌しています。
 もう1つは、血糖をコントロールするホルモンを産生・分泌しており、血糖値を下げるインスリンと、血糖値を上げるグルカゴンを血液中に送り出しています。
 膵臓がんの初期には特有な症状がほとんどなく、また胃の裏側に位置し、周辺臓器の奥にあるため、一般的な検査では見つけにくい傾向にあります。そのため膵臓がんは早期発見が難しく、患者さんの多くは進行した状態で見つかっているのが現状です。

 膵臓がんになりやすい危険(リスク)因子(下記参照)はわかっていますので、当てはまる人は定期的に検査を受けることをおすすめします。
 最近では画像検査の進歩で、「膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)」という、膵管にできる腫瘍が発見されやすくなりました。腫瘍が粘液を分泌して嚢胞(のうほう:粘液がたまった袋)ができたり、膵管が拡張したりします。良性の場合が多いのですが、なかには悪性(がん)化する可能性の高いタイプもあります。IPMNの早期発見は、膵臓がんになる前の段階で対処できることにつながります。
 胃のあたりの重苦しさや腹痛などが続き、胃腸検査をしても異常が見つからないときは、IPMNやその他の膵臓の異常かもしれません。
 また糖尿病は膵臓がんの危険因子であることがわっています。急に糖尿病を発症したり(黄疸や血糖値の急上昇など)、糖尿病が急に悪化した場合などは、膵臓がんが疑われます。

 膵臓がんの危険因子が複数ある人や、上記のような症状に思い当たる場合は、膵臓の病気や膵臓がんを疑って、膵臓病の専門の医師がいる医療機関で、血液検査や画像検査を受けるとよいでしょう。

【膵臓がんのリスク】
・家族に膵臓がんになった人がいる
・糖尿病である
・肥満(BMI30以上)である
・慢性膵炎である
・遺伝性膵炎である
・膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)がある
・喫煙習慣がある など

膵臓の主な検査

 膵臓がんは、厚生労働省のガイドラインによる「がん検診」の対象にはなっていません。
 膵臓がんのハイリスク者に当たる人や、前述のような症状がある人は、膵臓がんの可能性を考えて、まずは血液検査を受けましょう。

【血液検査】
●膵臓の酵素
 膵炎、膵臓がん、結石などが原因となって膵管や胆管を狭くしたりふさいだりすると、アミラーゼの数値が高くなります。一方、膵臓がんが膵臓全体に及んだり、慢性膵炎が進行すると膵臓の酵素は出にくくなり、数値が低くなることもあります。アミラーゼは膵臓だけでなく唾液腺からも分泌するので、膵臓から主に分泌されるリパーゼの測定が有用です。リパーゼは膵臓がん、膵炎、肝疾患、腎不全などで数値が上昇します。

●胆道系の酵素
 膵臓がんや胆管がん、総胆管結石などが原因となって胆管を狭くしたりふさいだりすると、胆汁のうっ滞や黄疸、胆管の炎症などが起こります。すると、Bil(ビリルビン)、ALP(アルカリホスファターゼ)やγ-GTPなどの数値が高くなります。

●腫瘍マーカー
 腫瘍マーカーとは、体内にがんが存在すると血液中に大量に増える物質をいいます。膵臓がんの有無を調べる際や、膵臓がんの治療経過を見るときに用います。膵臓がんがあると約70%が陽性になるCA19-9(糖鎖抗原19-9)、消化器系のマーカーとして知られるCEA(がん胎児性抗原)などがあります。がんが存在すれば高値を示すことが多いのですが、早期にはあまり高値にはならないこともあるので、腫瘍マーカーでの膵臓がんの早期発見には限界があります。

●耐糖能異常(血糖、HbA1c、インスリンの検査)
 血糖値の上昇やインスリンの低下などで、がんによる糖尿病の発症や悪化が疑われます。


 上記の血液検査で「異常」所見が出た場合、次のような検査が行われます。

【画像検査】
 異常の起きている箇所を確定したり、臨床病期(がんの進行状態、広がり具合)などを総合的に判断します。

●腹部超音波検査(エコー検査)
 プローブという装置を直接体表に当て、超音波を体内の臓器などに発射し、反射してきた超音波を検出して映像化する検査です。ほとんどの場合、画像検査の最初に行われます。
 小さながんや膵尾部の病変を発見するのは困難ですが、主膵管が太くなっていたり、膵嚢胞(膵臓にできた嚢胞)が見つかれば、膵臓に病気がある可能性が高くなります。

●CT検査(造影CT検査)
 コンピューター断層撮影検査ともいいます。X線を体の外周から照射し、組織に吸収されたX線量をコンピューターで処理し、体内の断層像(輪切り像)を描き出す画像検査です。病変の大きさ、位置、広がりを把握することができます。膵尾部の病変も映し出せます。膵臓がんの診断には、造影剤を静脈注射して撮影する「造影CT検査」は重要です。

 ほかに、必要に応じて次のような画像検査が行われます。

●MRCP検査
 磁気共鳴膵胆管造影検査ともいいます。体に強い電磁波を作用させることで、電子が共鳴して放出したエネルギーをコンピューターで処理し、画像化する検査です。膵管と胆管を映し出します。

●EUS検査
 超音波内視鏡検査ともいいます。先端に超音波装置(プローブ)が付いている内視鏡を口から胃や十二指腸に挿入し、胃壁や腸壁越しに超音波(エコー)を膵臓に当て、反射してきた超音波を検出して映像化する検査です。膵臓のすぐ近くから超音波を当てることで、より精密な画像が得られます。

●IDUS検査
 膵管腔内超音波検査ともいいます。十二指腸乳頭部(総胆管と膵管が合流し十二指腸につながる部分)から、主膵管へ細い超音波装置の付いた内視鏡を挿入し、主膵管や膵臓を観察します。超音波内視鏡では挿入できない細い胆管や膵管にも挿入することができます。

●ERCP検査
 内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査ともいいます。内視鏡を十二指腸まで挿入し、十二指腸乳頭から造影剤を注入し、膵管や胆管などを映し出します。膵臓がんなどで膵管がふさがっていても、膵管や総胆管の内部の画像を得ることができます。
 膵液や胆汁を採取して細胞診を行うことができるので、がんであるかの確定診断もできます。

【病理検査】
●生検
 必要に応じて、膵臓の組織の一部を採取し顕微鏡で観察して、良性か悪性か、悪性であればその性質や悪性度を詳しく調べます。超音波画像を併用して膵臓の位置を把握しながら腹部に針を刺し、病変組織の一部を採取する針生検「超音波ガイド下経皮的生検」や、超音波内視鏡を胃に挿入し、胃壁から膵臓の病変部に針を刺して組織を採取する「超音波内視鏡ガイド下穿刺」などがあります。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
伊藤 鉄英先生


九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学 准教授
肝臓・膵臓・胆道内科副科長 膵臓研究室主任
1984年九州大学医学部卒業。96~99年米国国立衛生研究所(NIH)消化器部研究員。九州大学大学院医学研究院病態制御内科学講師、九州大学病院肝臓・膵臓・胆道内科副科長を経て、2010年同病院同科診療准教授。11年より現職。日本消化器病学会指導医、医学博士。日本膵臓学会評議員、日本消化器病学会評議員などを務める。厚生労働省 難治性膵疾患に関する調査研究班班員、同省癌研究助成金指定研究班(JCOG)肝胆膵グループ班員、慢性膵炎・急性膵炎・自己免疫性膵炎などの診療ガイドライン作成委員、消化管膵神経内分泌腫瘍疫学調査責任者などを務める。

その他のがんを知るコラム

この記事を見ているひとはこんな記事も見ています

喉頭がんの基礎知識 病気の特徴とがんが発生する3つの部位|検査方法

「喉頭」とは、舌のつけ根(舌根)から気管までをつなぐ部位をいいます。
喉頭は、「声を出す(発声機能)」、「空気の通り道(気道)を確保する」、「食べ物を気管に通さないようにする(誤嚥防止)」という大変重要な役割をしています。
国立がん... 続きを読む

胆のうがん、胆管がんの基礎知識 危険因子は?|主な検査方法

国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によれば、わが国で1年間に新たに胆のう・胆管がんと診断される人は、男性9,237人、女性9,399人となっています(2005年データ)。また、1年間に胆のう・胆管がんで亡くなる人は... 続きを読む

前立腺がんの基礎知識 3つの危険因子|前立腺がんの主な検査方法

国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国で1年間に新しく前立腺がんにかかる人は約42,997人(2005年データ)、1年間に前立腺がんで亡くなる人は10,036人(2009年データ)と発表されています。年... 続きを読む

食道がんの基礎知識 6つの危険因子|食道がんの主な検査方法

国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国で1年間に新しく食道がんにかかる人は約17,496人(2005年データ)、1年間に食道がんで亡くなる人は11,713人(2009年データ)と発表されています。年次推... 続きを読む

脳腫瘍の基礎知識 早期に現れる9つの症状 腫瘍部位別症状

頭蓋骨内にできた腫瘍を総称して「脳腫瘍」といいます。頭蓋骨内の組織そのものから発生した「原発性脳腫瘍」と、ほかの臓器・部位にできたがんが転移した「転移性(続発性)脳腫瘍」に大別されます。
国立がん研究センターがん対策情報センターの「最... 続きを読む

腎がんの基礎知識 病気の特徴と危険因子|主な検査方法

腎臓は、尿を作る細胞組織である「腎実質」と、尿が集まり尿管へとつながっている「腎盂(じんう)」から主に構成されています。腎実質にできるがんを腎がん(腎細胞がん)、腎盂にできるがんを腎盂がんといいます。
国立がん研究センターがん対策情報... 続きを読む

大腸がんの基礎知識 主な検査方法とは? 大腸がんになりやすい人

大腸は肛門に近い約20cmの部分を直腸、それ以外を結腸といいます。がんの発生した部位により、結腸がんと直腸がんに分けられます。
国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国での生涯で大腸がんにかかるリスク... 続きを読む

肝臓がんの基礎知識 4つの危険因子|肝臓がんの主な検査方法

国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国での生涯で肝臓がん(「肝がん」ともいう)にかかるリスク(2005年データ)は、男性で26人に1人(臓器別では第5位:大腸がんを結腸がんと直腸がんに分けた場合。以下同... 続きを読む

口腔がんの基礎知識 病気の特徴と進行の仕方|主な検査方法

口腔(こうくう)とは口の中の空間のことで、ここにできるがんを総称して「口腔がん」といいます。最も多いのは舌にできる「舌(ぜつ)がん」で、口腔がん全体の50~60%を占めています。このほか、歯肉にできる「歯肉がん」、頬の内側にできる「頬(き... 続きを読む

甲状腺がんの基礎知識 病気の特徴と進行の仕方|主な検査方法

甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」の下に、蝶が羽を広げたような形で気管を取り囲むように位置する10~20gほどの小さな臓器です。甲状腺の働きは、主に食べ物から取り込んだ「ヨード(ヨウ素)」を材料に甲状腺ホルモンを合成し、血液中に分泌すること... 続きを読む