甲状腺がんの基礎知識 病気の特徴と進行の仕方|主な検査方法

女性に多く、発症のピークは40~50代

他のがんに比べておとなしく治しやすい。ほとんど無症状なので喉の腫れが気になったら甲状腺の検査を

甲状腺がんの現状

 甲状腺は、いわゆる「のどぼとけ」の下に、蝶が羽を広げたような形で気管を取り囲むように位置する10~20gほどの小さな臓器です。甲状腺の働きは、主に食べ物から取り込んだ「ヨード(ヨウ素)」を材料に甲状腺ホルモンを合成し、血液中に分泌することです。甲状腺ホルモンは全身の臓器および細胞の新陳代謝を活発にし、神経系や体の活動を調整する働きをしています。
 甲状腺の病気はさまざまですが、次の3つに大きく分けることができます。
(1)甲状腺の機能の異常によるもの
 甲状腺ホルモンの分泌が増えすぎるバセドウ病、分泌が減る橋本病など
(2)甲状腺に炎症が起こるもの
(3)甲状腺が腫れたりしこりができるもの
 全体が腫れる「びまん性甲状腺腫」、しこりができる「結節性甲状腺腫」がある

 結節性甲状腺腫のほとんどは良性腫瘍ですが、なかには悪性である甲状腺がんの場合があります。

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国で1年間で新たに甲状腺がんと診断される人は約9,200人(2005年データ)、甲状腺がんで亡くなる人は約1,600人と推測されています(2009年データ)。
 また、甲状腺の病気は女性に起こりやすく、1年間に甲状腺がんにかかるリスクは、男性では人口10万人に対して3.4人であるのに対し、女性では10.8人となっています(いずれも2005年データ)。また、1年間に甲状腺がんで死亡するリスク(人口10万対)は、男性0.8人、女性1.7人(2009年データ)となっています。

甲状腺がんの特徴

 甲状腺がんは、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様(ずいよう)がん、未分化がんに大きく分類されます。このうち約85%を占めるのは乳頭がんで、40~50代の女性に起こりやすく、非常にゆっくりと進みます。治療経過が良好で死亡率の低いがんですが、術後10~20年たって再発することもあり、長期経過観察が必要です。
 次に多い濾胞がんは甲状腺がんの約5~10%を占め、肺や骨など離れた臓器に転移することがありますが、それでも進行はゆっくりです。髄様がんは甲状腺がんの1~2%と頻度は低く、遺伝的に起こる場合もあります。
 未分化がんは1%前後と頻度は低いものの、症状の進行が速く、周囲に広がったり、肺や肝臓への転移を起こしやすい、悪性度の高いがんです。高齢者に多く、若い人にはほとんどみられません。
 血液・リンパの腫瘍である悪性リンパ腫が甲状腺にできたものも、甲状腺がんの一つに分類されます。

 なお、良性、悪性を問わず結節性甲状腺腫では、のどに腫れやしこりを触れますが、それによる痛みや圧迫感、飲食物の飲み込みにくさ、呼吸のしにくさなどの自覚症状は初期にはほとんどありません。また、甲状腺の腫瘍が甲状腺ホルモンの分泌に影響を及ぼすことはほとんどないため、甲状腺ホルモン量が関係する病気の症状(動悸、息切れ、だるさなど)が起こることもありません。

 甲状腺がんの広がりや増殖のしやすさ、転移の起こりやすさなどはがんの種類によって異なり、それぞれ治療法も変わります。そこで甲状腺に腫れやしこりを感じたら、検査を行って良性か悪性かを確認し、腫瘍の種類を見極める必要があります。

甲状腺がんの危険因子

 甲状腺は、ヨウ素を材料に甲状腺ホルモンを合成する臓器であるため、食品などで体内に入ったヨウ素は甲状腺にたまります。原発事故などで多量に放出された放射性ヨウ素が体内に入ると甲状腺に蓄積し、それによって特に子どもではがんを引き起こすおそれがあります。そのため、福島第一原子力発電所の事故を受けて、福島県では18歳以下のすべての子どもを対象に甲状腺の検査を行っています。

 また、髄様がんの2~3割は遺伝性で起こるため、家族も含めて検査が行われることがあります。

甲状腺がんの主な検査

 一般的には、甲状腺がんかどうかの診断は、まず触診と超音波検査が行われ、必要に応じてCT検査やMRI検査が行われることもあります。確定診断には穿刺(せんし)吸引細胞診が行われます。

●問診
 甲状腺がんでは初期には自覚症状がないため、診断には甲状腺専門医による問診・視触診が重要となります。医師は現在の症状やこれまでの病歴、家族歴、過去に放射線の被曝がなかったかなどについて確認します。

●視・触診
 しこりの有無と大きさ、性状(硬さや広がり)などを調べるために、医師は両手を患者さんの首の周囲を包むように当てて指で甲状腺の周辺部を押し、視診と触診を行います。首の周りのリンパ節も触診します。
 一般に、しこりが2cm程度の大きさになると触診で触れるようになります。また、良性のしこりと悪性のしこりでは柔らかさや押したときの動きが違い、悪性はでこぼこして硬く、周囲の組織に広がった場合に動きにくくなるという特徴がありますが、悪性かどうかの判断は視触診ではできないため、超音波検査や穿刺吸引細胞診などを行います。

●血液検査
 甲状腺がんの血液検査では、血中の甲状腺ホルモンや、がんの存在により異常値を示す腫瘍マーカーを調べます。
 髄様がんでは、甲状腺ホルモンの一つで血中カルシウムに関連する「カルシトニン」と、腫瘍マーカーの「CEA」が増加します。また、乳頭がんや濾胞がんでは、血液中に「サイログロブリン」という甲状腺から分泌されるたんぱく質の中にだけある物質が増加します。ただし、良性の腫瘍であっても上昇することがあり、これだけでは鑑別診断に有用とはいえません。
 未分化がんでは、白血球などの炎症物質が増加します。

【画像検査】
●超音波(エコー)検査
 首の周囲に超音波検査具(プローブ)を当てて超音波を発振し、返ってくる反射波(エコー)を画像化して診断します。触診ではわからない小さなしこりも発見できます。所要時間は10分程度と短く、体への負担もほとんどありません。
 しこりの大きさや形、位置だけでなく、悪性かどうかもほぼ判断できます。最近では、人間ドックなどで頸部血管疾患や全身の動脈硬化を調べる頸動脈超音波検査を行った際に甲状腺がんが発見されることもあります。

●CT検査
 コンピューター断層撮影検査ともいいます。X線を照射して体の内部を描き出し、主に周辺の臓器へのがんの広がりや転移の有無を調べます。いろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影し、より詳しい情報を得ることができます。

●MRI検査
 磁気共鳴画像検査ともいいます。体に強い磁場をかけることで、電子が共鳴して放出したエネルギーをコンピューターで処理し、画像化します。いろいろな角度から体内の詳細な画像を連続的に撮影し、より詳しい情報を得ることができます。ただし、MRI検査は時間がかかるため、呼吸による振動で甲状腺の周辺部が動いてしまい画像がぼけることがあります。このため甲状腺の検査では必要に応じて使われます。

●シンチグラフィー
 放射性ヨードを服用し、体内でヨードが放出する微量の放射線をガンマカメラという専用装置でとらえて画像にします。甲状腺のしこりの大きさや形だけでなく、がんの再発や転移があるか、甲状腺の機能はどうかなども調べることができます。

【病理検査】
●穿刺吸引細胞診検査
 注射針を首から甲状腺に刺し、しこりの細胞を吸引して顕微鏡で観察します。喉に刺す針は採血などに使われるのと同じ細さで、麻酔などを行わなくても痛みはほとんどなく、検査は外来で行われます。しこりが小さい場合は、同時に超音波検査を行いながら位置を確認し、細胞を採取します(エコーガイド下穿刺吸引細胞診検査)。
 特に甲状腺がんの中でも頻度の高い乳頭がんは、穿刺吸引細胞診によりほぼ100%の診断がつきます。一度の穿刺で十分な細胞が採取できなかったときは、再検査が行われます。どうしても診断がつかない場合には入院して手術を行い、摘出した腫瘍を顕微鏡で調べてがんかどうかの確定診断を行う場合があります。

(編集・制作 (株)法研)

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【監修】
伊藤 公一先生


伊藤病院院長
1958年生まれ。北里大学医学部卒、東京女子医科大学大学院修了、シカゴ大学留学。98年甲状腺疾患専門病院・伊藤病院の3代目院長に就任。一貫してバセドウ病、橋本病、甲状腺がんなど甲状腺疾患に対する診療と研究に従事。2004年大須診療所(名古屋分院)を開設。東京女子医科大学内分泌センター非常勤講師、筑波大学大学院外科非常勤講師、日本医科大学外科客員教授。日本内分泌外科学会、日本甲状腺外科学会理事、厚生労働省診断群分類調査研究班班長。

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