口腔がんの基礎知識 病気の特徴と進行の仕方|主な検査方法

口の中にできるがん。主な危険因子は喫煙と過度の飲酒

初期には口内炎と間違えやすい。2週間以上異変が続いたら用心のため受診を。年に一度は口腔の検診も

口腔がんの現状

 口腔(こうくう)とは口の中の空間のことで、ここにできるがんを総称して「口腔がん」といいます。最も多いのは舌にできる「舌(ぜつ)がん」で、口腔がん全体の50~60%を占めています。このほか、歯肉にできる「歯肉がん」、頬の内側にできる「頬(きょう)粘膜がん」、上あごの天井部分にできる「口蓋(こうがい)がん」、下の歯肉と舌の間にできる「口底がん」などがあります。

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によれば、口腔がんと咽頭がんを合せた数値が発表されており、わが国で1年間に新たに口腔・咽頭がんと診断される人は男性7,417人、女性3,498人と男性に多く発症しています(2005年データ)。また、1年間に口腔・咽頭がんで亡くなる人は、男性4,687人、女性1,859人です(2009年データ)。

 一方、医療情報サービスMinds(厚生労働省委託事業)などで閲覧できる『科学的根拠に基づく 口腔癌診療ガイドライン2009年版』(日本口腔腫瘍学会・日本口腔外科学会編)によれば、日本で口腔がんにかかる人は、1975年には2,100人でしたが、2005年には6,900人であり、2015年には7,800人になると予測されています。
 口腔がんは日本におけるがん全体の1~2%程度と多くはありませんが、高齢化に伴って患者は増加しつつあります。50歳以上が約8割を占めるとされ、女性より男性に多くみられます。

口腔がんの特徴

 口腔がんのほとんどは目に見える部位にでき、わずかな痛みや腫れなども自覚症状として受けとめやすいのですが、初期症状としては、痛みは軽度か違和感程度で、口内炎や歯周病と間違われやすいこともあり、進行してから発見されるケースも少なくありません。
 口腔は飲食や会話、呼吸など重要で複雑な働きを担っているため、進行によりこれらの機能に支障をきたすとQOL(生活の質)が大きく低下することもあり、早期発見が大変重要です。

 口腔がんで最も多い舌がんでは、多くのケースで舌の両脇(舌縁)に、まわりの健康な部分に比べて硬いしこりのようなものができます。舌の奥のほうにできた場合は自分では見えにくく症状が出にくいため、発見が遅れることがあります。
 主な症状は食事や歯が当たったときの痛み、粘膜の変色(白や赤、黄色)、盛り上がりやくぼみ(潰瘍:かいよう)などです。進行するに従ってこれらの症状は強くなり、出血しやすい、舌を動かしにくく話しにくい、ものが食べにくいなどの症状も出てきます。口底がんや頬粘膜がんも症状はほぼ同様です。
 歯肉がんでは、歯肉の腫れや痛み、表面の凸凹、色の変化などの症状が見られ、進行すると歯がぐらぐらする、義歯が合わなくなる、歯肉からの出血などが起こります。

 口腔がんの中には治りやすいがんもありますが、舌がんなどは、早い時期から首のリンパ節に転移することがあります。また歯肉がんは、歯肉があごの骨の部分に接しているため骨の中に浸潤(入り込む)しやすく、あごの下や首のリンパ節などへ転移しやすい場合があります。
 口腔粘膜はほとんど扁平上皮という組織で、がんも扁平上皮がんと言われる種類が大部分ですが、ときに唾液腺がん(つばを作る組織にできるがん)や肉腫もできます。

【口腔がんの危険因子】
 口腔がんの確立したリスク要因としては、喫煙と飲酒があります。
・喫煙…すべての口腔がんの主要な危険因子とされ、禁煙することで口腔がんが減少することがわかっています。
・飲酒…過度の飲酒、または喫煙者が飲酒をすると相乗的にリスクを高めます。

 また、熱い飲み物や食べ物をとる習慣も、リスクを高めるとされています。さらに、合わない(壊れた)義歯が口腔粘膜や舌を刺激することや、極端に歯並びが悪いために歯が粘膜に当たること、口腔内の不衛生、粘膜面が白く変色する白板症(はくばんしょう)なども、口腔がんになりやすい要因とされています。特に、白板症は代表的な前がん病変とされ、長期観察では白板症患者の8~10%程度の人に口腔がんが発生しています。

口腔がんの主な検査

 口腔がんは口内炎や歯周病と間違われやすく、知らないうちに進行していることもあります。そこで各地方自治体や各地区の歯科医師会では、年に一度の口腔がん検診をすすめています。
 また、前述のような症状が2週間以上も続くときには、歯科や耳鼻咽喉科を受診し、必要に応じ専門の口腔外科や耳鼻咽喉科、頭頸部外科などで精密検査を受けることが大事です。

 口腔がんは口の中の、目で見て触れることのできる部分にできるがんですから、検査でもまず視診、触診を行い、痛みなどの自覚症状を問診によって確認していきます。
 視診、触診で疑わしい場合に細胞診や生検を行い、歯科用レントゲンやCT、MRIなどの画像検査によって治療方針の決定を行います。

●問診・視診・触診
 口腔内を見るだけでなく、指を入れて直接触診することで、病変部の変化、しこりの範囲や深さを検査します。
 同時に、口腔がんでは首のリンパ節への転移が考えられるため、首周り(頸部)の触診も行います。がんがリンパ節に転移しているか、首のどの部位か、大きさや数、可動性の有無などを診断します。

【病理検査】
 視診、触診により、がんの疑いがあるときには、病変のある部分から細胞や組織を採取して顕微鏡で観察し、がん細胞があるかないか、がん細胞のタイプ(種類)、悪性度などを判定します。

●細胞診
 口腔がんのほとんどは、粘膜表面の扁平上皮に起こった扁平上皮がんであり、病巣の表面を軽くこすりとる擦過細胞診が行われます。病変が深い位置にある場合は、病変部に注射針を刺して細胞を吸引する穿刺(せんし)吸引細胞診を行うこともあります。

●生検
 がんとして治療を開始する前には、必ず病変部分の組織をごく少量メスで切り取って観察する生検を行い、確定診断(病理組織診断)をします。通常、局所麻酔をして行います。

【画像検査】
●超音波検査(エコー検査)
 プローブという装置を直接患部の体表に当て、超音波を体内の臓器に向けて発射し、反射してきた超音波を検出して映像化する検査です。
 口腔がんでは、主に頸部リンパ節の大きさや内部の状態を調べ、リンパ節への転移がないかを確認します。なお、舌がんや頬粘膜がんでは、小型のプローブを用いて、がん病変の大きさ、深さの計測に用いることもあります。

●X線撮影
 X線撮影は、一般の診療や健診などでもよく行われる画像検査です。口腔がんでは、歯科用の口内法撮影とパノラマX線撮影が使用されます。口内法はフィルムを口の中に入れ、一部の歯と歯周組織を撮影します。パノラマX線撮影法は、上下のあご骨と歯を1枚のレントゲン写真として撮影する方法です。歯肉がんのあご骨への浸潤や、がんのあごへの転移などを調べるのに有用です。

●CT検査
 コンピューター断層撮影検査ともいいます。X線を体の外側から照射し、組織に吸収されたX線量をコンピューターで処理し、体内の断層像(輪切り像および縦切り像)を描き出す画像検査で、がんの広がりや周辺臓器への浸潤などを調べます。
 歯科や口腔外科などでは、コーンビーム方式という撮影法で、座った姿勢で照射ができ被曝量の少ない撮影法(デンタルCT)が普及してきています。腫瘍の大きさ、腫瘍と歯やあご骨との位置関係などを知ることができ、がんの診断とともに治療法の選択に役立ちます。

●MRI検査
 磁気共鳴画像検査ともいいます。体に強い電磁波を作用させることで、電子が共鳴して放出したエネルギーをコンピューターで処理し、画像化する検査です。CTが骨の検査に有用であるのに対して、MRは軟組織(骨や歯以外)の描写に優れ、極めて有用です。CT検査同様に、がんの広がりや周辺臓器への浸潤などを調べます。
 口腔がんでは腫瘍の大きさ、腫瘍と歯やあご骨との位置関係などを知ることができ、がんの診断とともに治療法の選択に役立ちます。

●骨シンチグラフィ(アイソトープ検査)
 ごく微量のアイソトープ(放射性同位元素)を静脈内に注入し、それが組織に集積する様子を撮影し、画像とします。この検査は、がんの骨への浸潤や転移がないかを調べるものです。骨折や炎症、がんの転移などで、骨の再生が活発に起きているところにアイソトープが集積してその部分が黒く写るため、一度に全身の骨をチェックすることができます。

【腫瘍マーカー】
 腫瘍マーカーとは、体内にがんが存在すると血液中に大量に増える物質をいい、がんの存在やその後の治療経過、再発や転移の有無を見るために使われます。
 口腔がんではSCC抗原が主に使用されますが、これだけで確定診断ができるものではありません。あくまで治療の目安として考え、経過観察には画像診断などの検査と併用して使用します。

(編集・制作 (株)法研)



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【監修】
天笠 光雄先生


東京医科歯科大学名誉教授
日高病院 歯科口腔外科顧問
1970年東京医科歯科大学歯学部卒業。74年同大学大学院歯学研究科修了。同大学歯学部講師、助教授を経て、91年同大学歯学部口腔外科学第一講座(現顎顔面外科学)教授に就任。2011年4月より現職。専門は、口腔癌、粘膜疾患、顎変形症、外傷、唇顎口蓋裂など口腔外科分野の多岐にわたる。日本口腔科学会、日本歯科医学教育学会、日本顎変形症学会、日本癌治療学会などで要職を務める。主な著書(共著)に『口腔癌の早期診断アトラス』(医歯薬出版)など。

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