中高年男性に前立腺がんが急増!50歳以上は年に一度の検査を

腫瘍マーカーPSAの検査で早期発見、早期治療を

高脂肪食が促進、トマトや大豆に予防効果。がんが前立腺内にとどまっている段階では手術療法が第一選択

日本では前立腺がんの患者が急増。50歳以降は要注意

 現在日本でもっとも増えているがんは前立腺がんです。前立腺は、男性の骨盤の奥深いところ、膀胱を支える位置にあります。甲状腺や唾液腺と同じように分泌液を産するところで、その分泌液(前立腺液)を尿道に出しますが、不思議なことに、臓器としての役割はまだはっきりとはわかっていません。
 精子を精巣から運ぶ精管が前立腺を貫いており、前立腺液に殺菌効果があることから、前立腺には精巣を守る作用があるのではないかと考えられます。また前立腺液は精液をさらさらにすることで、受精しやすくする効果があります。前立腺は分泌液を出す細胞と、また筋肉の細胞からできていますが、この筋肉は、排尿時の尿の「きれ」を保ち、「もれ」を防ぐことに役立っています。

 前立腺がんは比較的高齢の男性に多いがんで、50歳以降に増加します。約9割は60歳以上だといわれ、死亡率も60歳を過ぎるころから急に増え始めます。米国では男性のがんの中で最も多く、男性の6分の1が前立腺がんに罹患するといわれています。日本でもこのがん患者が急増しており、2020年には、1995年の約6倍に達するといわれています。これには、食生活や社会生活の変化によるものもあるかもしれません。

   前立腺がんの国別の罹患率を調べると、北欧やスイスなど、あまり日照のよくない国の罹患率が高く、逆に日照のよい国の罹患率が低い傾向にあることがわかりました。また、乳製品を多く摂取する国、脂肪の摂取量の多い国は罹患率が高いことがわかりました。乳製品自体は健康によい面もありますが、高脂肪食や動物性たんぱく質は前立腺がんの促進因子だと考えられます。

   欧州でもイタリア、スペインなど地中海に面した国は罹患率が低いのです。これらはトマトの摂取量と関係があることがわかりました。トマトには前立腺がんを予防する効果があるといわれています。欧米に比べてアジアの国々の罹患率は低いのですが、これは大豆食品に含まれる成分に前立腺がんの抑制効果があるからだといわれています。とくに、納豆、みそなど発酵大豆食品の効果が高いことはよく知られています。ほかに緑茶に含まれるカテキンや魚の油などもあげられます。「和食」は前立腺がんを予防するといえるでしょう。

50歳になったら必ず年1回のPSA検査を

 前立腺がんの診断は、「PSA」という検査項目が開発されて大きく進みました。PSAは血液検査でわかる腫瘍マーカーで、一般に4.0 ng/ml以上であると前立腺がんがある可能性が増すといわれています。ただし加齢により、がんがなくてもPSA値は徐々に上がるため、40~50歳代では2.5~3.0ng/mlを基準としているところもあります。健康診断でこのPSA値を測定することで前立腺がんがあるかどうかスクリーニングを行うと、早期のがんを発見できる可能性が高くなります。すでに欧米ではPSAによる前立腺がん検診を行うことで、前立腺がんによる死亡者が減少しています。
 前立腺がんは早期に発見できれば、転移もなく、根治できるがんです。しかし、初期にはほとんど自覚症状が出ないため、50歳になったら必ず年に1回PSA検査を受けましょう。

 PSA値が高値の場合には、麻酔を行い、前立腺に細い針を12~14カ所挿入して組織を採取し、がんがあるか調べる「前立腺生検」を行います。CTや MRIでは前立腺がんの診断は十分ではないので、現在はこの生検を行わないと、がんがあるかどうか最終的な結論は出ません。もっとも新しいMRIや進化したMRI(MRS)により針生検を上回る診断ができつつあります。

 前立腺がんがあるとわかると、がんの広がりと、がんの悪性度を診断します。がんの広がり(=大きさ)は、生検でのがんの占める割合や、CTによるリンパ節やほかの臓器への転移の有無などから判断します。とくに前立腺がんは骨に転移しやすく、未治療の場合PSA値が20を超えていると骨に転移している可能性が高まります。
 がんが前立腺の中にとどまっている場合は、治癒する可能性が高くなりますが、明らかに転移がある場合、現在は治療により延命はしますが治癒する可能性は少なくなります。

 がんの悪性度は「グリソンスコア」で判断します。グリソンスコアはがん細胞の集まり方から判断するもので、同じようながん細胞が整然と並んでる場合は、グリソンスコアは低く、がん細胞がばらばらに存在している場合はグリソンスコアは高くなります。グリソンスコアが高いほうが悪性度が高いがんです。

手術療法や放射線療法など4つの治療法から、がんの進行度によって選択

 前立腺がんの治療法には、手術療法、放射線療法、内分泌療法(薬物療法)、超音波療法の4つがあり、どの治療法を選択するかは前立腺がんの進行度ほか、総合的に考慮されます。

1.手術療法
 手術によって前立腺、精嚢、膀胱の一部をひとかたまりにして取り除きます。がんが前立腺内にとどまっている段階までなら、体力的な問題や手術によって悪影響の生じる合併症がなければ、長期的な治療効果を考えると第一選択となります。
 手術方法としては、開腹して行う恥骨後式前立腺全摘除術か、それよりは体への負担が少ない、股間を切り開く経会陰式前立腺全摘除術のいずれかを症状に合わせて選択します。体への負担がさらに少ない腹腔鏡下前立腺全摘除術が行われることもあります。腹部を数センチ切開し、腹腔鏡を挿入して、観察しながら手術を進めます。小さな穴を、3、4カ所あけ、そこから手術器具を差し込んで前立腺を切除するので、出血も少なく回復も早いという長所があります。

 前立腺がんの術後の合併症でとくに問題となるのが、尿失禁と勃起障害(ED)です。尿失禁は、手術時に留置しておいたカテーテルを抜き取ったときに高い頻度でみられますが、たいていは時間の経過とともに症状は軽くなります。しかし、尿道括約筋など排尿をコントロールしている組織も切除すると、回復まで時間を要するときがあります。
 前立腺の外側には勃起に関する神経や血管の束があります。この神経や血管の束を前立腺と一緒に切除すると、ED(勃起不全)になります。がんが小さい場合は、左右二本ある神経と血管の束を残して、前立腺を摘除することもあります。神経を温存してある場合には、バイアグラ、レビトラ、シアリスといった薬を使用することで、勃起が早く改善できる可能性があります。

2.放射線療法
 体の外から照射する外照射と、前立腺内に放射線を発する物質を植え込む小線源療法があります。いずれも治療効果を高めるために、テストステロンというホルモンの分泌を注射や薬で抑える内分泌療法を同時に行うことが一般的です。放射線外照射治療は6~8週間かかりますが、現在は大きな副作用はなく、尿が近くなったり、便が渋る程度です。小線源療法は小さい前立腺がんに効果的ですが、前立腺がんが大きくなると治療効果は少なく、尿が出にくくなったり近くなったりします。

3.超音波治療(HIFU)
 超音波を収束させることで前立腺局所に高温度領域を作り、その部分のがん組織を壊死させるもので、小さい前立腺がんに有効です。前立腺丸ごと治療するのでなく、一部を治療するオプションもあります。これは局所焦点治療(focal therapy)と呼ばれ、副作用も少なく、世界的に注目されています。

4.内分泌療法
 前立腺がんを進行させる原因となる男性ホルモンの量を減少させる治療で、前立腺がんがある程度縮小する効果があります。手術治療を受けない患者や、高齢者に用いられます。内分泌療法によりある程度がんは縮小しますが、その効果はおおむね限定的です。転移がんでは、遅かれ早かれ内分泌療法の効果がなくなります。その場合には抗がん剤を投与します。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
堀江 重郎先生


帝京大学医学部泌尿器科学講座主任教授
1960年生まれ。東京大学医学部卒業後、国立がんセンター、東京大学講師、杏林大学助教授などを経て現職。医学博士。日本泌尿器科学会指導医。日本抗加齢医学会理事、日本性機能学会理事、日本Men's Health医学会理事、日本腎臓学会理事。帝京大学病院は日本ではじめてのメンズヘルス外来を設け、男性の健康を総合的に診療している。
帝京大学医学部泌尿器科 http://teikyo-urology.jp/

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