この症状、もしかしたら脳卒中?まずは正しい知識を身につけて

ますます高齢化する社会では、脳卒中対策は大きな課題

第一に予防。発症しても後遺症を軽減するためには、正しい知識をもち適切な治療を迅速に受けることが大切

脳卒中患者数が300万人を超える時代が間近に

 脳卒中が大部分を占める脳血管疾患の患者数は、約134万人(厚生労働省2008年患者調査)。がん、心疾患に次いで、日本人の死因の第3位を占め、年間約12.8万人(厚生労働省2008年人口動態統計)が亡くなっています。高齢者のますますの増加、糖尿病や脂質異常症、高血圧などといった生活習慣病の増加により、脳卒中の患者数は増え続け2020年には、現在の2倍以上にあたる300万人を超すと予想されています。

 発症した場合、たとえ一命を取りとめても、重度の後遺症を残す人も多く、寝たきりなど重度要介護の原因の4割、認知症の原因の3~4割は、脳卒中がきっかけとなっています。疾患別入院期間でも、脳卒中が最長。入院・在宅を問わず、本人だけでなく家族にとっても心身の大きな負担となります。
 脳卒中が増加し続ける今後を見据え、従来にも増して予防と対策の強化が必要な時代になっています。

 脳卒中には、脳の血管が詰まる「脳梗塞」と、脳の細い血管が破れて出血する「脳出血」、脳の表面の太い血管にできたこぶが破裂して出血する「くも膜下出血」があります。かつてわが国の脳卒中といえば、脳出血が中心でしたが、近年では脳梗塞が79%、脳出血が15%、くも膜下出血が6%(脳卒中データバンク 2005)で、欧米と同様の傾向がみられます。

 脳梗塞は、動脈硬化で狭くなった脳の血管に、血栓(血のかたまり)が詰まり、その先に血液が流れなくなることで栄養や酸素が届かずに、神経細胞が壊死してしまう病気です。脳梗塞はさらに、脳内の細い動脈が詰まる「ラクナ梗塞」と頸動脈や脳の太い動脈の動脈硬化に原因のある「アテローム血栓性脳梗塞」、心臓にできた血栓が脳血管に運ばれて詰まる「心原性脳塞栓症」に分けられます。

●アテローム血栓性脳梗塞
 アテロームとは、「細かい粒が集まった粥(かゆ)状のかたまり」という意味。脳の比較的太い血管の壁にアテロームができ(動脈硬化)、これが大きくなって崩れると、異物に対する反応として急速に血栓ができ、狭くなった血管を詰まらせる。高血糖、糖尿病、脂質異常症、高血圧、肥満などが主な原因とされる。ダメージを受ける脳の部分は、比較的広いことが多い。
●ラクナ梗塞
 ラクナとは「小さな空洞」という意味。脳の深部に多い細い動脈(200~300ミクロン)が狭くなり、直径15mm以下の小さな梗塞ができ、古くなるとその部分が空洞化する。日本人、とくに高齢者に多いタイプ。高血圧が主な原因である。ダメージを受ける脳の部分は狭い。
●心原性脳塞栓症
 心房細動や心臓弁膜症による不整脈が誘引となって心臓に血栓ができ、それが脳まで運ばれ、脳の太い血管が詰まる。血液が体内を1周する時間はわずか1分。心臓にできた血栓は、飛ぶように脳に運ばれるため、症状は突然起こる。ダメージを受ける脳の部分は、広いことが多い。

私たちにできることは、まず正しい知識をもつこと

正しい知識をもち、専門的な医療機関へ迅速に搬送
 脳卒中の対策は、まず予防を心がけた生活を送ることが最も重要です。栄養バランスのとれた食事、適度な運動、禁煙は、脳卒中を含めた生活習慣病全般の予防に有効です。
 脳卒中を発症した場合でも正しい知識をもち、専門的な治療を迅速に受けることができれば、近年では後遺症を軽減できるようになってきました。
 発症直後(3時間以内)からt-PA静脈注射療法(後述)を含めた内科的治療、必要に応じた外科的治療、再発予防治療、これらと並行して開始されるリハビリテーションが、回復の決め手となります。
 下記のような症状が見られたら、安静を確保して、すぐに救急車を呼んでください。

 【“突然”こんな症状があったら、脳卒中の発作かも】
・突然、片方の手足や顔半分のまひやしびれが起こる
・突然、ろれつが回らなくなったり、言葉が出なくなったりする
・突然、相手の言うことが理解できなくなる
・突然、片方の目が見えづらく、ものが2つに見えたり、視野が狭くなる
・突然、めまいがしたり、ふらつく (バランスがとれない) など

*くも膜下出血では、今までに経験したことのないような激しい頭痛、首すじのこわばり、意識障害などが起きます。通常、手足のまひは生じません。
*脳梗塞に陥る前段階で、一時的にまひや視力障害、言語障害などの症状が起きることがあります。これを「一過性脳虚血発作」といいます。通常は、症状は発作が起きてから数分以内には改善します。この段階で専門医を受診し、脳梗塞の発作を防ぐ処置を行うことが非常に大切です。

脳卒中の急性期の治療の中心は、内科的治療
 脳梗塞の急性期の治療は、内科的治療が中心で、神経症状を改善することにより、日常生活における動作の障害を最小限にとどめることが目的となります。治療開始が早ければ早いほど後遺症が軽くなります。
 外科的治療としては、くも膜下出血に対する脳動脈瘤クリッピング術(開頭手術)、カテーテルからコイルを入れる血管内治療とがあります。そのほか脳動静脈奇形摘出術、脳内血腫除去術、頭蓋内外バイパス手術などが必要な場合に検討されます。

【脳卒中の急性期に用いられる主な薬物療法】
●血栓溶解療法(t-PA静脈注射療法)
 t-PAという血栓溶解薬を使い、血管に詰まった血栓を溶かし、血流を回復させる。発症3時間以内に投与すれば、大きな効果が期待できる。ただし、施設基準により実施医療機関が少ない、適用できる患者が限定されるなどの理由で、脳梗塞患者の数%しか受けていない現状がある。
●抗血小板療法
 血液を固まらせる作用のある血小板の機能を抑え、動脈内で血栓ができるのを防ぐ。一般的にアスピリンなどを用いる。
●抗凝固療法
 主に心原性脳塞栓症の急性期再発予防が目的。血液をかたまりにくくする薬(ヘパリンなど)を用い、心臓内で血栓ができないようにし、脳梗塞の再発を防ぐ。
●抗浮腫療法
 梗塞や出血のために脳全体がむくむため、むくみを取る薬(グリセロール、マンニトール)を用いる。
●脳保護療法
 脳梗塞が起こったときに発生する有害物質(活性酸素)を取り除き、脳細胞を壊死から守る薬(エダラボンなど)を使う。後遺症を軽減することがわかっている。

脳卒中激増社会に備え、対策強化に向けて!

 脳卒中対策の理想形を端的に表すと、下記の5点です。
(1)まず、予防!
(2)一過性脳虚血発作の段階で対策を講じる
(3)もし発症したら、直ちに医療機関に搬送し、ストロークユニット(脳卒中専門病棟)に入院。即刻検査開始、脳梗塞の場合は発症3時間以内にt-PA治療開始。急性期からベッドサイドでリハビリ開始。
(4)回復期は、専門性と環境を備えた回復期リハビリ病棟でリハビリ継続。
(5)維持期は、かかりつけ医が治療を継続して再発防止に努める。

 社団法人日本脳卒中協会では、まず予防、そして発症した場合の迅速・適切な治療につながるための啓発活動として、これまで脳卒中に関する市民シンポジウムの開催や一般市民の脳卒中に関する意識調査などを実施し、啓発活動に力を注いできました。
 上記5点を実現可能にし、今後激増する脳卒中社会に備えるには、現状のままでは十分対応できません。対策を一層充実させるために、救急搬送体制や医療・社会福祉資源など、地域の実情に合わせた対応を、国を挙げて推進していくことが必要とし、その基盤となる「脳卒中対策基本法」の立法化を提唱し、その推進に向けてさまざまな取り組みを行っています。

 【脳卒中対策基本法の理念】
・予防と発症時の適切な対応に関する市民啓発
・全国どこでも、適切な救急搬送・救急受診によって速やかな治療が開始され、維持期まで継ぎ目なく継続されること
・脳卒中後遺症患者とその家族のQOL(生活の質)を維持・向上させ、社会参加を促す
・専門的、学際的、総合的な教育・研究の推進、成果の普及活用
・情報収集体制を整備し、分析し、活用すること

「がん対策基本法」「肝炎対策基本法」に続き、早期立法化の期待される喫緊の課題として、注目すべきテーマです。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
山口 武典 先生


(社)日本脳卒中協会理事長
国立循環器病センター名誉総長
1960年九州大学医学部卒。65年同大学大学院医学研修科修了(医学博士)。68~70年米国メイヨークリニックにて研修。帰国後72年九州大学医学部講師に就任。77年国立循環器病センター内科・脳血管部門主任医長、79年同部門部長、95年同センター副院長、97年同センター病院長、2000年同センター総長に就任。01年から現職に。(財)循環器病研究振興財団理事長を兼務。日本脳卒中学会名誉会員、日本脳神経超音波学会名誉会長、日本循環器代謝学会名誉会員、日本内科学会、日本老年医学会、日本脈管学会ほか評議員等。国際学会でも世界脳卒中機構(World Stroke Organization)のPast president (現在名誉会員)ほか多数。

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