脚も動脈硬化になる-閉塞性動脈硬化症(PAD)とは?

脚の痛みで一時的に歩けなくなる“前ぶれ”を見逃さないで

進行すると脚の切断に至ることがある。より重大なのは、心筋梗塞や脳卒中などによる死亡危険度が高まること

脚に動脈硬化が起こることを知っていたのは4人に1人だけ

 血管が硬くなったり狭くなったりして血流が制限され、多くの生活習慣病を招く動脈硬化。心臓の血管で起これば狭心症や心筋梗塞を、脳の血管で起これば脳卒中を引き起こします。この動脈硬化が腰から下の脚の血管で起こった病態を閉塞性動脈硬化症(PAD=Peripheral Arterial Disease)といいます。
 ある医療機器メーカーが30~60歳代の一般男女800人を対象にPADの認知度調査を行ったところ、心臓や頭に動脈硬化が起こることは4人に3人が知っていましたが、脚に動脈硬化が起こることを知っているのは4人中1人に過ぎませんでした。ちなみに動脈硬化はこのほか、首や腹部、腎臓などでも起こります。

 脚の動脈硬化が進むと、脚の痛み(疼痛)、しびれ、冷たい感じ(冷感)などが起こります。そのままにしていると、足先などの(心臓から離れた)末端部分では、血液が十分に回らないために酸素や栄養が行き渡らず、細胞が死滅してしまう壊疽(えそ)にまで進むことがあります。こうなると、壊疽の拡大を防ぐために脚の切断が必要になるケースも出てきます。
 帝京大学医学部の一色高明教授は「脚の切断を回避するには、PADの早期発見と早期治療が不可欠であり、何より動脈硬化を防ぐ生活習慣が大切です」と強調しています。

※閉塞性動脈硬化症は、かつてASO(Arterio Sclerosis Obliterans)と呼ばれていましたが、最近はPADで統一されています。

PADの患者さんの3分の1が間歇性跛行を経験している

 PADを早期発見するために、見逃してはいけない症状に間歇性跛行(かんけつせいはこう)があります。これは間をあけて(間歇性)、足を引きずる(跛行)という意味で、歩いている途中で、脚の筋肉のだるさ、痛み、こむら返り(脚がつる)などによって歩けなくなるものの、休憩すると数分で回復し、また歩けるようになります。PADの患者さんの3分の1が経験しています。太ももの裏側を中心にお尻からひざ裏までが痛むことが多く、糖尿病の患者さんではひざ下が痛むこともあることが知られています。

 脚の動脈硬化で血流が悪化することが痛みの原因ですが、少し休むと血流が一時的に回復して痛みが治まるわけです。何もなかったように歩けるようになるため、病気とは思わずに「年のせい」「ちょっと疲れただけ」などと思い込み、多くの場合、治療に結びついていないのが現状です。前述の認知度調査でも、間歇性跛行の症状が起こった場合にPADを疑う人は12.5%、「何も疑わない」人や「老化によるもの」「関節・骨の異常」を疑う人が合計で66%という結果でした。

 間歇性跛行は腰部脊柱管狭窄症という腰の障害でも起こりますが、この場合は脚が痛んだときに前かがみになると楽になるのが特徴です。しかし、PADにはとくに楽になるような姿勢はありません。
 痛みがとれてまた歩けるようになっても、動脈硬化が改善したわけではありません。治療を受けなければ、間歇性跛行をくり返し、やがて睡眠中のようなじっとしているときにも脚が痛むようになります(安静時疼痛)。
 PADの重症度は、軽症から順に次の4段階に分類されています。

●PADの重症度
I度 無症状、脚の冷感、しびれ感
II度 間歇性跛行
III度 安静時疼痛
IV度 潰瘍・壊疽

 一色教授は「PAD自体がすでに全身に動脈硬化のあることを表しますが、間歇性跛行をそのままにしておくと、足のしびれや痛みで歩けなくなることで運動量が減少します。体を動かさないでいることでさらに動脈硬化を進める原因となり、心筋梗塞や脳卒中を起こして死亡する危険度も高まるのです」と指摘しています。
 海外のデータでは、PADの患者さんの半数に冠動脈疾患(心臓病)の症状や心電図の異常が見られ、90%に冠動脈(心臓を養う動脈)の造影検査で異常が認められています。また、「間歇性跛行のあるPADの患者さんの5年後の生存率は約7割(3割の人が死亡)」「PADの患者さんの5年後の死亡率は乳がんや大腸がんを上回る」といったデータが明らかになっています。

喫煙でPADの危険度が3~4倍に

 PADの治療では、重症度のすべての段階で生活習慣の改善と薬物療法(血液を固まりにくくする薬など)が必須です。それに、I~II度の軽度のうちなら運動療法(ウオーキング、ジョギングなどの有酸素運動)が加わります。III~IV度に重症化してしまうと、血管内治療や外科治療も考える必要があります。
 血管内治療は、血管の中でバルーン(風船)を膨らませたり、ステントと呼ばれる金網状の小さな筒を血管の中に留置して、血管を押し広げる治療です。一方外科治療は、閉塞してしまった血管を飛び越える(道路のバイパスの)ように新たな血管を縫い付け、新しい血液の流れをつくります。

 PADは動脈硬化が原因ですので、危険因子もほかの動脈硬化性の病気と似ていて、喫煙、糖尿病、高血圧、脂質異常、肥満、加齢、そしてPADまたは虚血性心疾患の家族歴などです。なかでも喫煙によりPADの発症危険度は3~4倍、糖尿病でも3~4倍弱に増加します。また、男性は女性よりも1~2倍危険度が高いこともわかっています。(『下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針II(TASC IIガイドライン)』(日本脈管学会・編)より)

 一色教授は「喫煙や生活習慣病など、自分で改めることができる危険因子はできるだけ減らし、間歇性跛行などの症状(下記)を自覚したら早めに詳しい検査を受けてください」と呼びかけています。

●PADが疑われる主な症状
(1)脚に気になる症状がある(しびれる、冷たく感じる、痛む、つる)。
(2)歩いている途中に脚がしびれたり、痛んだりする(間歇性跛行)。
(3)(2)が立っているときや腰掛けているときに起こる。
(4)(2)の症状は前かがみになっても変わらない。
(5)(2)の症状は休憩して10分もするとなくなる。
(6)足の爪や指先の形や色が変わってきた。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
一色 高明先生


帝京大学医学部附属病院 循環器内科教授
昭和50年東北大学医学部卒業。三井記念病院で研修の後、東京大学第一内科、米国留学、三井記念病院循環器センター科長を経て、平成4年から帝京大学内科助教授、平成11年から同教授、平成21年から循環器センター長を兼任。学外でも複数の関連学会役員を兼務している。医学博士、内科専門医、循環器専門医。得意な分野は虚血性心疾患の診断と治療。

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