快適な睡眠がメタボ予防になる-守って欲しい3か条

「睡眠」は食事、運動とともに、生活習慣改善の3本柱の一つ

睡眠障害を放置すると、メタボから命にかかわる病気につながることも。専門医は「眠って生きろ」と訴える!

睡眠不足で血圧上昇、糖尿病リスク上昇、肥満しやすく

 わが国では、成人の5人に1人が不眠など何らかの睡眠の問題を抱えているといわれています。日本では睡眠障害というと精神科で扱われることがほとんどですが、実は、睡眠はメタボリックシンドローム(以下、メタボ)や生活習慣病といった内科的な症状や病気とも深い関係があります。

 これまで多くの研究から、メタボの診断基準に含まれる血圧や血糖値の異常と睡眠時間との関係が明らかになっています。
 例えばある調査では、高血圧症の患者さんを対象に、8時間眠った場合(夜11時~朝7時)と4時間眠った場合(深夜3時~朝7時)の最大血圧(収縮期血圧)を比べたところ、深夜、早朝、午前中のどの時間帯でも、4時間睡眠の場合のほうが明らかに高くなっていました。4時間睡眠の場合には、交感神経を活性化させ血圧を上昇させる神経伝達物質が増加していたことが判明しています。

 また、睡眠時間と糖尿病の発症リスクの関係を調べた調査からは、睡眠時間が7時間の人に比べ、6時間の人のリスクは1.93倍、5時間未満の人は2.60倍も高いことが明らかになりました。この場合は、短時間睡眠による緊張状態で、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなったと考えられました。

 一方、メタボのベースとなるのは肥満ですが、肥満にかかわる体内のさまざまな物質と睡眠不足との関係を調べた研究もあります。それによると、睡眠不足は脳に満腹のサインを送って食欲を抑えるレプチンという物質の分泌を低下させ、逆に、食欲を増進させるグレリンという物質の分泌を増加させることで、食欲が高まり肥満しやすくなることが明らかになっています。

 メタボや生活習慣病の予防・改善に食事と運動が重要であることはよく知られていますが、「睡眠」も大変重要であることがわかります。これからは「食事・運動・睡眠」を生活習慣改善の3本柱とすべきといえるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群は眠れず、心臓の負担を増やし、命にかかわる

 メタボと睡眠障害(不眠、睡眠不足)の関係で見逃してはいけないのは、自殺の危険も伴う「うつ病」です。うつ病と診断される前に4~6割の患者さんに不眠があらわれるとされているからです。睡眠障害から肥満や血圧、血糖値などの異常が起こり、これらが引き金になって眠れない……、という悪循環を続けているうちに、うつ病に進む危険性があるのです。

 睡眠時無呼吸症候群(SAS)のチェックも重要です。SASは眠っている間にのどがふさがれ、いびきとともに何度も呼吸が止まってしまう病気です。十分眠れないため昼間強い眠気に襲われ、居眠りから交通事故や労働災害などを引き起こす可能性もあり、社会問題にもなっています。
 肥満があると、横になったときにのど周りの脂肪によってのどがふさがれやすく、SASを発症しやすくなります。ただし、あごが細い人や、いわゆる小顔の人はのどが細いため、肥満ではなくてもSASになりやすいといえます。

 SASでは無意識のうちに(本能で)呼吸を再開するものの、何度も呼吸が止まってしまうために酸素が十分に取り入れられず、特に心臓をはじめとする循環器系に大きな負担となります。それに加えて、十分な睡眠がとれないために交感神経を刺激し、高血圧や肥満などメタボの誘因となるのです。
 実際に、SASの患者さんの57%が高血圧、SASの男性患者さんの50%、女性患者さんの32%がメタボであり(SASではない人ではそれぞれ22%と7%)、心臓病・脳卒中を起こす危険度は健康な人に比べて男性で2.08倍、女性で2.24倍、SASの患者さんの糖尿病合併率は26%(SASではない人では8%)――といったデータが明らかになっています。

 日本のSAS治療の草分けであり、2008年に大学病院では初めて「睡眠科」を立ち上げた愛知医科大学の塩見利明教授(循環器内科)は、「睡眠障害をそのままにしていると、メタボから心臓病・脳卒中といった命にかかわる病気に進む危険性があります。そのため、薬の服用を含む適切な治療によって、まず本来の眠りを取り戻すことが大切。まさに『眠って治せ・眠って生きろ』ということです」と強調しています。

「起床時間」「1日の最後の食事時間」「必ず眠る時間」を一定に

 では、本来の眠りを取り戻すためにはどうしたらよいのでしょう。人の体は、いったん上がった体温が下がるときに眠くなるようになっています。本来の眠りを取り戻すには、このしくみを利用して、床に就く2~3時間前にぬるめのお風呂や軽い運動で体温を少し上げておくことが効果的です。

 さらに塩見教授が勧めるのは、「朝、起きる時間」「1日の最後に食事する時間」「必ず眠る時間(帯)」という、3つの時間を決めて守るようにすることです。

(1)朝、起きる時間を決める
 人の体は、起きてから16時間後に眠くなるようになっています。朝の光を浴びたり、朝食をしっかりとるとタイマーのスイッチが入るのですが、起床時間を決めてこのスイッチが入る時間を一定にすれば、眠くなる時間も一定になって、規則正しい睡眠に結びつきます。

(2)1日の最後に食事する時間を決める
 人は、脳からの「栄養(糖質)がほしい」というサイン、いわば脳からの空腹サインで目が覚めるのが自然です。ところが夜遅くまで飲食していると、朝になってもおなかに食べ物が残り、このサインが出にくくなって睡眠リズムを崩す引き金になります。「夕食後は食べない」など、1日の最後の食事時間を決めて、さらに夕食の時間を早めにして、朝の空腹感を出やすくしましょう。

(3)必ず眠る時間を決める
 仕事の都合などで、どうしても睡眠のリズムを一定にできない場合、少なくとも「必ず眠る時間」を守りましょう。例えば「午前1~4時の3時間は絶対に眠る」などで、夜更かしの限度を決め、最低限の睡眠時間を確保してください。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
塩見 利明先生 


愛知医科大学睡眠科教授
日本睡眠学会副理事長
愛知医科大学医学部卒業。米国スタンフォード大学に客員研究員として出向。帰国後、愛知医科大学医学部助教授を経て、平成16年同大学医学部教授(大学院医学研究科臨床医学系睡眠医学)に就任し、現在に至る。同病院睡眠科・睡眠医療センター部長を兼任。医学博士、循環器専門医。著書に『眠って生きろ』(デコ)、『スリープ・ハート』(風媒社)ほか。

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