健診と人間ドックの違いは? 一般検診はがんの早期発見は難しい

一般健診と人間ドックの違いを理解し、自分に必要な受診を

多くの検査項目を選ぶほうがよいのではない。検査の有効性とデメリットをよく理解して受けることが重要

一般健診と人間ドックはどこが違う?

 健康に関心が高い人は、毎年何らかの健康診断を受けていると思います。それが人間ドックか一般健診か、個人で受けるか職場や自治体が行う健診を受けるかなどの違いはあっても、毎年受診されている人も多いでしょう。しかし、実際に自分で受けておられる健康診断の内容と医学的な意義について考えてみたことがあるでしょうか?
 本稿では、人間ドックや健康診断をどのように受けたらよいのか改めて考えてみたいと思います。

 健康診断には、法律で毎年受けることが義務づけられているいわゆる「一般健康診断」(一般健診)と、人間ドックのようにより多くの検査項目を詳しく調べる健康診断があります。「労働安全衛生規則」という法律では事業主に対し、一定の項目の健康診断を年に1回実施することを義務づけています。
 また2008年4月から始まった「特定健康診査」(特定健診)はメタボリックシンドロームに特化した健康診断で、医療保険者(健康保険組合、協会けんぽ、共済組合など)に義務づけられました。特定健診はそれまでの被保険者だけでなく被扶養者も対象となります。
 法律で義務づけられた一般健診や特定健診は会社や自治体、保険者である健康保険組合などが費用を負担するため、無料または比較的低額の料金で受けることができます。これらの健診は、多くの人がかかる代表的な病気である高血圧や糖尿病などの生活習慣病が主体で、働く世代に多いがん検診の項目は含まれていません。

 一方、自分の意思で受ける健康診断の代表的なものとして人間ドックがあります。本来「ドック」とは船の修理や建造用の施設「dock(ドック)」のことで、次の航海で事故が起こらないよう、完全な点検・修理をするために入る場所のことです。
 人間ドックは一般健診より検査項目が多く、腹部超音波検査や内視鏡検査、眼底検査などが含まれています。かつては1日ドックや2日ドックも広く行われていましたが、近年は検査法や診断機器の進歩に伴い、日帰りドックや半日ドックも可能になってきました。ゆっくりと入院して検査を受ける人間ドックからコンパクトに短時間で効率的に検査を受ける総合健診へと変わりつつあります。
 また健康保険組合などの財政状況の悪化に伴い、2日ドックをやめて1日ドックに短縮したり、日帰りドックの検査項目を減らすところも増えています。受診者でもゆったりと時間をかけて健診を受けたいと考える人から、短時間で効率的に質の高い健診を受けたいと考える人までさまざまなニーズがあります。
 このような状況の中で、いわゆる人間ドックと呼ばれる健診と一般健診はどこが違うのでしょうか? また自分で選択する場合に、どのような点に注意して選べばよいのでしょうか?

一般健診には早期発見が有効ながん検診の項目がほとんど欠如している

 下の表で示されているように一般健診には胸部レントゲン検査以外、がん検診の項目がほとんどありません。がん検診では、頻度が高く(罹患率が高く死亡率も上位)、早期発見が有効ながんとして胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんの5つのがんがあげられます。
 厚生労働省もこの5つのがんに対して健康診断のガイドラインを作成し、健診の有効性があることを示しています。人間ドックでは女性の場合、乳がん、子宮頸がん検診はオプションとして選ぶことになります。

 厚生労働省が有効な検査法として勧めるがん検診の基本的な検査法は、胃がんについては胃透視検査、大腸がんは便潜血反応、肺がんは胸部レントゲン検査(+喀痰細胞診)、乳がんはマンモグラフィー、子宮頸がんは子宮頸部細胞診です。
 一方厚生労働省のお膝元である国立がんセンターにおけるがん検診では、胃がんには上部内視鏡検査、大腸がんは下部内視鏡検査、乳がんはマンモグラフィーと乳腺超音波検査、子宮がんは子宮頸部細胞診と経腟エコー検査などと、厚生労働省の勧める検診のガイドラインよりも進んだ内容の検査となっています。近年はこれらの検査法をがん検診として導入している健診施設も増加しています。

 しかし検査法によっては費用が多くかかる場合もあり(国立がん研究センターでは1回の健診で約20万円)、どの検査を選択するかは迷うことが多いと思います。これらの検査法の有効性についての医学的エビデンスは不十分なものもありますが、有効性と検査によるデメリットについてよく理解した上で検診を受けていくことが重要です。これらの現状については次回以降紹介していきます。

 また「生活習慣病(予防)健診」(協会けんぽなど)といって、ある年齢以上(多くは40歳以上、ときに35歳などの節目)の人に、一般健診と人間ドックの間をとった検査項目を実施しているところもあります。実施主体により一般健診に近い項目から人間ドックに近い項目までさまざまですから、一般健診以外にどのようながん検診が付加されているか検査項目を検討することが重要です。

検査項目は多ければ多いほどよいか?

 一般健診と人間ドックを比較すると、できるだけ多くの検査項目を選んだほうがよいように思われますが、そうではありません。健診施設によっては多くのオプションを用意して受診者に選んでもらう施設もありますが、オプションは性別や年齢を考慮して選ぶことが重要で、「選ばない選択」のほうが賢明な場合が多くあります。

 たとえば胸部CT検査については、50歳以上の喫煙者では胸部CT検査により肺がんの早期発見による死亡率の減少効果があることが医学的エビデンスとして近年示されましたが、同年代の非喫煙者において同様な効果があるかについてはまだ十分なデータがありません。
 また腫瘍マーカー検診といって血液検査で高額な費用のかかるオプションが設定されている場合がありますが、ほとんどのがんの早期発見には有効性は示されていません。代表的な腫瘍マーカーのCEAにしても、消化器がんや肺がんで上昇しますが、早期がんで上昇する場合は少なく、糖尿病や喫煙などがあるとがんがなくても上昇することがあります。

 このように、オプション検査では性別や年齢を考慮して選ぶ(あるいは選ばない)ことが重要です。どのようなオプションを、どのような間隔で選んでいったらよいかについては、次回以降説明していきます。

どのような健康診断を受けていけばよいか?

 一般健診より、人間ドックのようにがん検診の項目を含んだ健診を受けていくことは、働き盛りに多く見られるがんの早期発見、治療に有効ですが、一般健診に比べ費用がかかることも事実です。
 大きな企業の健康保険組合では、これまで被保険者である本人だけでなく被扶養者である配偶者などの健診も人間ドックとして全額あるいは一部の補助を行ってきています。しかし近年、高齢者医療費への負担の増大に伴って、健康保険料の引き上げや健康診断への補助の減額などが行われています。このような状況の中で、どのような項目の健康診断を個人として、あるいは保険者である健康保険組合として選択していくのか大変重要な時期に来ています。
 一方医療機関の側も、提供する健康診断の項目が医学的にエビデンスに基づいているか、有効性が認められているかを検証しながら、これからの健康診断のあり方を考えて、費用に応じた適正な内容を提供しなければならない時代に来ています。
 次回以降、健康診断のそれぞれの項目について、わが国の現状と米国等の考え方を比較しながら、健康診断の課題と将来について検討していきたいと考えています。

(編集・制作 (株)法研)


【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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