健康診断の結果の見方-前年との推移も確認しよう

健康診断の検査の基準値について考えてみよう

自分の検査値が基準値と比べてどうかだけでなく、毎年の検査値の変化を見ることが重要

検査値の異常を示す人が増えているのはなぜか?

 健康診断の中でも人間ドックは検査項目が多く、報告書が手元に届いてすべての項目が問題なしという人は少ないでしょう。しかし、それぞれの検査項目は前回の「賢い健診講座2」で示したように重要度が異なっています。今後それぞれの検査項目についてみていく前に、基準値について考えてみましょう。

 前回は、健康診断の検査項目には十分な科学的根拠があるとされている項目と、まだ科学的根拠が十分でない項目が含まれていることを説明しました。
 欧米および日本でも、これまでの研究で有効性が明らかな項目は、身体計測(特にBMI)、血圧測定、脂質検査などです。また、大腸がんの便潜血検査、子宮頸がんの頸部細胞診、乳がんのマンモグラフィー検査なども科学的根拠があることがはっきりしている項目です。

 毎年8月下旬になると、人間ドック学会がまとめた全国の健康診断の報告が新聞紙上に載ります。生活習慣病に関する項目では、2011年は全受診者のうち検査の異常を示した人は、肥満27.6%、耐糖能異常23.2%、高血圧21.0%、高コレステロール29.8%、高中性脂肪15.3%、肝機能異常33.3%とされています。これらの項目すべてで異常なしだった人はわずかに7.8%で、これらの人を「スーパーノーマル」と呼んでいます。そして毎年これらの人は減少傾向にあるとしています。
 しかし、この報告によると、たとえば肝機能異常は受診者の3人に1人ということになりますが、大部分は肥満に伴う脂肪肝の可能性があり、受診者の4人に1人いる肥満の人と一部重複しています。また、ほかに高中性脂肪血症など複数の異常値を持っている人がいることは明らかです。それぞれの検査値の異常は独立したものではなくお互いに関連している可能性があります。

 また、このように検査値の異常を示す人が多い理由として、確かに昔と比べ運動不足や仕事のストレス、睡眠不足など生活習慣の悪化による要素はありますが、学会などの判定基準が変更された影響もあります。
 たとえば肥満の判定も以前は体格指数(BMI)だけだったのですが、2008年以降特定健診だけでなく一般健診にも腹囲が採用されたことにより、「肥満」の基準に入る人の頻度は増加していると考えられます。血圧・脂質・血糖も、学会等のガイドラインにより従来の基準値より厳しくなっています。

「基準外」には問題のない人も多い

 そもそも血液や尿などの検査の「基準値」の多くは、健康な集団の平均値と偏差値から求められた統計的な数値です。偏差値で処理すると、上下各2.5パーセント(合わせて5パーセント)は基準から外れていると考えますから、たとえ健康な集団でも5パーセントの人は「基準外」となってしまいます。この「基準外」には、問題のない人も多いのです。
 人間ドック学会を始めとして多くの学会の推奨する判定基準は、さらに厳しい基準値になっている場合が多く、より多くの人が判定基準上「異常」となってしまうことになります。

 また人間ドックや健診などで、検査項目の数が増えれば増えるほど「異常あり」が増えることは、表1を見ていただければわかります。検査項目が20になると確率的に「異常なし」は3人に1人だけ、 100になると確率的に「異常なし」の人は1人もいない(0.6人)ということになります。それぞれの項目で「基準外」が5パーセントですから、検査項目数が増えるほど「基準外」の人の数が増え、結果として「すべての項目で異常なし」の人が減ってしまうわけです。

 基準値は、年齢や性差によって大きく異なります。基準値から外れていてもそれがその人の体質で、以前からの数値で長い間変わらなければ病的とはいえない場合がしばしばあります。たとえば血液検査で、貧血の目安となるヘモグロビン(血色素)という数値があります。女性でヘモグロビンが11.1(女性の基準値は丸の内クリニックでは11.2-15.2 g/dl、男性で13.5(男性の基準値は13.6-18.3)くらいでも基準値より低くなりますが、10年以上前から同じくらいの値で推移していて血清鉄なども基準値内にあれば軽度の貧血でも病的とはいえず、特に治療も必要ないことがほとんどです。
 このような点から、基準値内の95%の人が属する数値の範囲は「正常範囲」というより、目安となる数値である「基準値」と呼ぶべきでしょう。

自分の検査値の変化を見よう

 もちろん、だからといって基準値を外れていても無視してよいというわけではありませんが、検査数値を絶対視しない、ほんのちょっと基準を外れた数値に一喜一憂しないことです。自分の検査項目の数値が基準値と比べてどうかだけでなく、一昨年と比べてどう変わったか、去年と比べるとどうかということが重要です。
 たとえば、血糖値やHbA1cが基準値内にあったとしても、毎年少しずつ増加しているなら要注意です。逆に、中性脂肪が基準値を少しオーバーしていても、何年もほぼ同じ値のままであるのなら、それがあなたの健康値といえるでしょう(もちろん肥満があれば生活習慣を見直し減量すべきです)。これまでの自分の例年の数値から大きくずれたら、何か体に変化が起こっていると考えることが妥当です。体重の変化や食生活の変化、運動不足など一度見直してみるべきです。

 また健康診断は毎年、できれば同じ施設で受けることが望まれます。施設によって検査値の基準が異なることがありますし、画像診断である胸部レントゲン検査や腹部超音波検査などは前回の画像と比較することが大事です。

 人の体のさまざまな数値は、健康であってもいつも一定ではありません。前日の行動によって変化しますし、仕事の状態、心理状態で変わることもあります。表2に検査前日の食事(特に夕食)や飲酒、運動などの行動で、健診当日の血液検査に影響する可能性のある項目を列挙しました。
 血圧や体温などは、1日のうちでさまざまに変化します。昨年は中性脂肪が高すぎて「要精査」だったのに、放置していたけれど、今年は下がって「異常なし」となったということの原因が、この変動だったということも考えられます。

 次回以降、検査項目として重要な、BMI、血圧、血糖・HbA1c、脂質検査等について説明していきます。

(編集・制作 (株)法研)


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【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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