肥満の基準BMI25以上で肥満は日本だけ-やせすぎも危険

肥満症の基準となる検査項目はBMIそれとも腹囲?

自分の検査値が基準値と比べてどうかだけでなく、毎年の検査値の変化を見ることが重要

簡単に算出できるにもかかわらず、一般健診では必須項目ではないBMI

 「賢い健診講座」では、これまで一般健診や人間ドックで使われている検査項目の科学的根拠や基準値の意味について考えてきました。これからは、各検査項目について一つ一つ具体的にみていきましょう。今回はBMIと腹囲についてです。

 BMI(body mass index:体格指数)は、体重(kg)÷身長(m)2で簡単に求められる値です。一般健診といわれる労働安全衛生規則に則った健診では、「身長、体重、腹囲」が身体計測の項目で(2008年以降)、BMIは必須項目となっていません。しかし、身長と体重がわかれば単純な計算で算出されるため、ほとんどの人間ドックの健康診断報告書には身長、体重と並んでBMIが記載されています。

 一般健診や特定健診でBMIが使われるのは、腹囲の測定の時です。腹囲の測定が除外できるのは「35歳と40歳以上の人の中でBMIが20未満である者」とされています。また「BMIが22未満であれば自ら腹囲を測定し、その値を申告できる」ことになっています。言い換えれば、35歳と40歳以上の人でBMIが22以上の人は、一般健診や特定健診で腹囲を測定しなければならないことになります。

さまざまな問題点が指摘される腹囲だが、心筋梗塞のリスクを知るのに有効との報告

 腹囲は、BMIと異なり身長が全く考慮されていないため、生活習慣の改善が必要でない人までも「異常」に分類される可能性があります。現在メタボリックシンドロームの診断基準となる腹囲は、日本では男性85cm以上、女性は90cm以上が目安となっていますが、米国では男性103cm以上、女性89cm以上です。日本では男性より女性の基準が大きく、米国では男性が女性より大きくなっています。
 そもそもメタボリックシンドロームは病気の診断基準ではなく、運動不足、過食、過度の飲酒などの悪い生活習慣を改善するためのスクリーニングの指標の一つです。
 特定健診でメタボリックシンドロームの基準に入った人は、特定保健指導などにより生活習慣改善のプログラムが提供されています。

 腹囲は測定の仕方により数cmの測定誤差が生じることが報告されており、また身長の高い人も低い人も同じ基準なのはおかしいという意見もあるなど、さまざまな問題点が指摘されています。
 平成22年には、厚生労働科学研究費補助金による研究事業「保健指導への活用を前提としたメタボリック・シンドロームの診断・管理のエビデンス創出のための横断・縦断研究」(研究代表者:門脇孝 東京大学医学部教授)の研究成果について、「メタボ腹囲根拠なし」と誤解されやすい見出しで新聞報道されたことがあります。

 しかしこの研究においては、腹囲基準が科学的根拠がないと言っているわけではなく、腹囲測定は心筋梗塞などにかかりやすい者を選び出すのに有効であることを報告しています。まず、男性は腹囲 85cm 以上、女性は腹囲80cm 以上で高血圧・高血糖などを有する者の割合が特に増えることを改めて疫学的に解析しており、女性については腹囲90cmより80cmから注意が必要なことを報告しています。さらに、腹囲が大きくなるにつれて、心筋梗塞などの疾患にかかるリスクも高くなること、つまり腹囲が85cm、100cm と大きくなるにつれて、心筋梗塞にかかる可能性も上がっていくことを明らかにしています。

 また、特定健診・保健指導における腹囲の基準値の設定に関しては、科学的根拠に加え、費用対効果なども勘案しながら、予防医学的見地から検討・決定すべきものとしています。腹囲基準を小さくとると、保健指導対象者がより多くなり、本来保健指導が必要でない人にまで保健指導を実施することになり、反対に腹囲基準を大きくとると、保健指導を実施する人は少なくなるものの、本来保健指導を受けるべき人が漏れてしまうことを指摘しています。今後この観点から、現在の腹囲基準の見直しが進むことが期待されます。

 腹部CT検査で内臓脂肪を測定するような健診施設もありますが、被曝のことを考慮すると、BMIや腹囲測定以上に特に必要な検査とは思われません。
 また日本独自の検査で、体重計に付いている「体脂肪率」というのがあります。体脂肪率は、体の電気抵抗(インピーダンス)を測定することにより、体の中の脂肪率を推測するものです。しかし、インピーダンスは脂肪以外のさまざまな体の組成によって変化するため、「体脂肪率」は体重を減らすときの一つの目安として留めるべきでしょう。あくまでも前回との比較を行うことが重要で、数値に一気一憂する必要はないと思われます。

BMIについての最近の話題

 BMIは米国(USPSTF)の推奨ランクでも、検査項目としてかなり十分な根拠があるとされています。日本ではこれまで22.0が基準値となっていて、標準体重は身長(m)×身長(m)×22で求められますが、これはあくまでも標準であって、体重は個人差が大きいものです。
 また、肥満症の定義がBMI25以上となっている国は日本だけで、欧米のほとんどの国ではBMI30以上を肥満(Obesity)と定義しています。BMI25~30(未満)の人は過体重(overweight)ということになりますが、この範囲に入る人の病気による死亡率は、標準体重の人と比べ必ずしも高くないことが最近の欧米の研究からわかってきました。

 図1に、2009年にLancetに発表されたBMIと死亡率の関係を示します。これは、57の前向き研究(*)を再分析し、BMI15以上50未満で心血管疾患の既往歴がない約90万人分の欧米人のデータを解析したもので、規模の大きい研究です。
 男女ともに、BMI22.5~25の範囲の人が1000人あたりの死亡数が最も少なく、ここを底辺とするU字曲線を描くことがわかります。BMI30以上の肥満では糖尿病、高血圧などの生活習慣病と呼ばれる疾患だけでなく、大腸がんや乳がんなどがんにかかるリスクも上昇します。BMIの上昇に伴って死亡数も明らかに増加しています。

 BMI25~30の過体重(overweight)の人たちは、BMI22.5~25の人たちよりもやや死亡数が多いものの、著明な増加はみられません。さらに、米国医師会雑誌(JAMA 309:71-82,2013)に掲載された、これまでの文献からの統計学的解析(メタアナリシス)では、BMI25~30の人は正常のBMI(18.5~25.0)の人と比べ病気による死亡が少ない(ハザード比で0.94)とする報告も出ました。

*前向き研究:はじめに健康な人の生活習慣などを調査し、その集団を「前向きに(未来に向かって)」追跡調査をして後から発生した病気などを確認し、評価する方法。

 しかし、これらのデータは欧米の報告であり、日本人にあてはまるのか今後の検討が必要と考えられます。日本人ではBMIが25以上になると糖尿病に進展する可能性のある耐糖能異常(Impaired Glucose Tolerance; IGT)の率が増加することが報告されており、高血圧や脂質異常の頻度も増加します。
 時に、BMIが22.0くらいの標準体重でも腹部超音波検査で脂肪肝が見つかり、血液検査で肝機能異常が指摘される人がいます。そのような人は、以前BMI20.0くらいでやせ型であったのが、体重が増加して標準体重に近づいたために肝臓に脂肪が蓄積した珍しいケースです。このような場合、体重を数キロ減らすだけで脂肪肝が改善し、肝機能異常が軽快することがあります。BMIについてはこのように個人差を考える必要があります。

 一方、図1からは高度の肥満だけでなくやせも同じように死亡数が増えていることに着目すべきです。BMI17前後の人は男女ともBMI30の人より死亡数が多く、やせも病気で早期死亡する大きな誘因となっています。
 実際に欧米だけでなく日本でも、心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの患者さんでは、やせの人のほうが肥満の人より病気による死亡数が多く、重症になる傾向があることが報告されています。
 特に高齢者の骨粗しょう症は、若いときの骨量や運動量が大きな影響を及ぼしています。若い頃の極端なダイエットは、年をとったときの骨粗しょう症による骨折などを引き起こすことがあることを知っておきましょう。

(編集・制作 (株)法研)


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【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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