血圧は健康管理の大事なバロメーター|高血圧の基準とは?

高血圧は大部分無症状。健診をきっかけに見つかることが多い

高血圧では虚血性心疾患や脳出血などのリスクが増える。家庭で自分の血圧を測定することが重要

血圧は健診項目の中でも最重要項目で、自宅でも簡単に測定できる

 一般健診や人間ドックの各検査項目のなかで、前回はBMIと腹囲について具体的に述べました。今回は血圧測定について見ていきましょう。

 血圧はBMIと並んで健康診断において大変重要な検査項目です。また健康診断を受けなくても、体重と同様に、血圧計さえあれば自宅でも測定できる簡易な検査です。血圧は1日の内でも変動が大きく10~20mmHg(単位は水銀柱の高さ)以上変動します。緊張しやすい人では「白衣高血圧」といって、医療機関などではその人本来の血圧よりも高い数値が出ることがあり、健診時など最初は高めに出て、徐々に下がってくる人もいます。
 標準とされている日本高血圧学会の血圧の基準値では、正常血圧は、収縮期血圧(高い方の血圧:心臓が収縮して血液を動脈に送り出す際の血管にかかる圧力)が130未満、拡張期血圧(低い方の血圧:心臓が拡張して内部に血液を貯めている際の血管にかかる圧力)が85未満とされています。

歴史的にみても、重症高血圧では治療による介入が有効であることが明らか

 血圧は、よほど数値が高くならないと頭痛や肩こりなどの症状が出ないことがほとんどです。今では当たり前のように無症状の人にも治療などの介入によって、心筋梗塞や脳出血などの予防ができていますが、それを可能にしたのは血圧測定が行われるようになったおかげです。血圧測定は、無症状段階から治療を始めるための最初に登場した意義ある検査といえるでしょう。
 米国Dartmouth大学の内科医H.Gilbert Welchたちは、2011年に発行されたOverdiagnosed: making people sick in the pursuit of healthという本(文献1)で、近年の医療の抱える「過剰診断」の問題を取り上げています。その中で、最初に血圧測定の意義と血圧の基準値の変遷について論じています。

 米国では1940年代までは血圧が少々高くても自覚症状がなければ治療の必要はないと考えられていました。米国のフランクリン.D.ルーズベルトは1944年に大統領に再選された頃、血圧が200/100あったそうですが、主治医は特に問題と考えていなかったようです。しかし再選の約6カ月後、高血圧のため激しい頭痛や意識消失をきたし、血圧は300/190を記録したそうです。その直後、脳出血で亡くなってしまいました。
 その後1950年代頃から、無症状でも高血圧を放置すると心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳出血などが高率に起こることが医師の間でも認識されるようになりました。

 1960年代には米国の退役軍人病院(VA hospital)で無症状の高血圧の患者さんを対象に無作為割り付け試験(randomized controlled trial)が実施されました。対象はそれぞれ約70人ずつの2グループで、高血圧の治療を行わなかったグループと治療を行ったグループ(主にサイアザイド系利尿剤)を比較しました。血圧は拡張期血圧を基準として115~129(収縮期血圧ではありません)という重症高血圧の患者さんを対象にしています。現在の臨床試験と比べると対象者の数は少なく、観察期間も1年半と大変短い期間でしたが、両グループ間には驚くほど大きな差が観察されました(表1)。

 非治療グループでは27人に高血圧に伴う合併症がみられ、そのうち4人が死亡したのに対して、治療グループでは、合併症がみられたのは2人だけで、死亡例はみられませんでした。このように、重症高血圧では治療による介入が合併症の予防につながることが、この頃より認識されています。

 その後、拡張期血圧を基準として同様の無作為割り付け試験が行われた結果をまとめたのが表2です。

 拡張期血圧が高いほど、治療により合併症を起こすリスクを下げる効果があることがわかります。拡張期血圧115~129ではNNT**(number needed to treat) は1.4という値で、これは1.4人を治療すれば1人が治療のおかげで合併症を防ぐことができることを示します。一方非常に軽度の高血圧である拡張期血圧90~100では、非治療グループでは5年で9%、治療グループでは5年で3%と、リスク低減効果は6%でした。NNTは18で、18人治療して1人の人がその恩恵にあずかるという計算になります。このように、高血圧の程度により降圧薬治療の効果は大きく異なります。

白衣高血圧と高血圧の基準値、降圧目標の変遷

 健康診断を受ける施設によって基準は異なりますが、たとえば収縮期血圧が160あるいは拡張期血圧が110以上あると、胃の内視鏡検査や胃のバリウム検査など血圧を上げる可能性がある検査は当日受けることができず、後日受け直すことになります。健康診断の初めの血圧測定で高い数値が出ても、半数以上の人は10~20分以上経って測り直すと低下していて当日検査できるのですが、再測定でも下がらない、あるいはさらに上昇してしまう人もいます。この中には白衣高血圧のため、自宅の血圧測定では平均血圧が収縮期血圧140未満、拡張期血圧90未満の人もいます。
 健康診断では原則2回の測定で低い方を採用することになっており、一般的には3回測定することはありませんが、内視鏡検査などの前に念のため3回目を測定することがあります。この場合も、健康診断の報告書では2回の測定の低いほうが採用されます。

 日本高血圧学会では2000年に高血圧治療ガイドラインを作成し、2004年と2009年に改定しています。表3に成人の血圧分類を示します(高血圧治療ガイドライン2009:JSH2009)。
 血圧分類では当初から、収縮期血圧130~139または拡張期血圧85~89を「正常高値血圧」と分類しており、年齢が高くなるほどこの分類に相当する人は多くなります。一方で、高齢者の降圧目標は2004年版からより厳しくなりました。現在2014年に向けて新たにガイドラインを改訂作業中ですが、これによると、75歳以上の場合は降圧目標を150/90mmHg未満に緩和するよう改訂される可能性もあるようです。

 また、糖尿病や虚血性心疾患などがあり動脈硬化のリスクが高い人の降圧目標は、JSH2009では130/80未満としていますが、近年は降圧しすぎる弊害も指摘され、英国や米国では糖尿病合併高血圧の降圧目標を140/80mmHg未満に緩和してきています。正常高値血圧やI度高血圧で肥満、喫煙習慣がある人などでは、むしろ生活習慣の改善が第一です。

 高血圧の基準はI度高血圧の収縮期血圧140、拡張期血圧90以上で、血圧を自己測定してII度高血圧の基準値である収縮期血圧160または拡張期血圧100以上が数カ月続く場合、生活習慣の改善で血圧の低下がみられない場合は降圧薬の内服が考慮されます。
 III度高血圧の収縮期血圧180以上、拡張期血圧110以上は、白衣高血圧でも一過性の上昇を示すことがあります。しかし、自宅でも同じような血圧が続くなら、すぐに受診しなくてはいけません。先に述べた1960年代の米国の臨床試験で、同様の血圧の人が降圧薬内服治療がない場合1年半で高率に合併症を引き起こしたことを考えると、すぐに治療が必要な状態です。

 血圧の基準は明らかに年々低下してきており、健康食品や降圧薬の宣伝にも130/85という数値が使われていますが、あくまでもこの数値はスクリーニングのための一つの目安とすべきですし、年齢を考慮して血圧を考えることが重要です。
 実際2006年国民健康・栄養調査によれば、日本人では40~74歳の人のうち男性は約6割、女性は約4割が高血圧(140/90mmHg以上)ということになっています。一方、このうち降圧薬を飲んでいる人は約2割となっています。65歳以上の高齢者では、高血圧とその結果である病気(高血圧・虚血性心疾患・脳血管疾患など)の治療費が、医療費の32.6%と最も多くを占めています。

 わが国では、今後ますます高齢者の比率が増えていくと予想されていますので、高齢者の医療費を減らすためには、高血圧を定期健診などで早く見つけて血圧をコントロールする二次予防だけでなく、若いうちから日常生活で高血圧のリスクを減らし、高血圧にならないようにすること、つまり一次予防が重要だといえるでしょう。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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