糖尿病の早期発見に健康診断が有効‐メタボリック症候群も要注意

ほとんど無症状の糖尿病の発見には健康診断の血液検査が重要

糖尿病予備群のなかでも肥満・高血圧・脂質異常などメタボリック症候群の要素を持つ人は要注意

健康診断は糖尿病の早期発見のために重要

 2012年の国民健康・栄養調査によると、わが国の糖尿病患者は有病者だけでも約950万人、予備群は約1100万人で、合計約2050万人と推計されます。これは日本人の人口推計値約1億2700万人からすれば、約6人に1人が糖尿病あるいは糖尿病予備群という計算になります。

 一方、糖尿病治療中の患者総数は、約270万人と推計されています(2011年厚生労働省 患者調査の概況)。これは、糖尿病の人全体の約4分の1強しか通院しておらず、残りの多くの人は医療機関を受診していないことを示しています。
 糖尿病も高血圧や脂質異常症と同様に初期ではほとんど自覚症状がないため、健康診断で発見される機会が多く、早期に発見されれば重症化を防げる病気です。

 健康診断の糖尿病の検査項目としては血液検査で調べる「空腹時血糖」と「HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)」が標準的です。ブドウ糖(グルコース)の血中濃度である「血糖値」は食事の影響を受け、食後急速に上昇するため、食事の影響を受けない朝食前の「空腹時血糖検査」が糖尿病の診断基準項目として長い間使われてきました。
 一方、赤血球のヘモグロビンとブドウ糖が結合したグリコヘモグロビンの割合を示す「HbA1c」は、過去1~2カ月の血液中のブドウ糖の平均的な状態を知ることができます。「HbA1c」は血糖値のように空腹時に測る必要がなく、食事に左右されずいつでも検査ができる点で、糖尿病の早期発見に大変有用な検査です。

2013年からHbA1cの表記が変わり、日本独自の基準から国際標準へ

 2010年7月、日本糖尿病学会は糖尿病の診断基準を改訂し、それまで血糖値の補助的な位置づけだったHbA1cを診断基準項目の一つとして積極的に取り上げました。
 従来は「空腹時血糖値 126mg/dL以上」「75g糖負荷試験2時間値 200mg/dL以上」「随時血糖値 200mg/dL以上」のいずれかに該当する「糖尿病型」の場合、別の日に再検査し、再び糖尿病型の数値が出てはじめて「持続性高血糖」すなわち「糖尿病」と診断していました。これが新しい基準では、初回検査で血糖値とともにHbA1c を測定し、血糖値の「糖尿病型」に加え、HbA1c(NGSP値) 6.5%以上(当時の表記はHbA1c(JDS値) 6.1%以上)であれば、再検査をしなくても「糖尿病」と診断できることになったのです。

 HbA1cは最近表記方法が変更されているので注意が必要です。すでに2012年4月から外来や病棟などの診療では、長い間用いられてきた日本独自のJDS値と国際基準であるNGSP値の両方の値が使用されていました。しかし、特定健診・特定保健指導(いわゆるメタボ健診)では2013年3月までは従来通りJDS値のみの表記でよいことになっており、健診施設ではJDS値のみで報告するところとNGSP値を併記するところの二通りの対応が見られました。
 2013年4月からは原則NGSP値で報告されることになっているので、以前のJDS値と比較するときは注意してください。ほとんどの場合JDS値に0.4を加えるとNGSP値に換算することができます。つまり、HbA1c(JDS) 5.5%は、NGSP値では5.9%になります。この場合数値が0.4増えていても、表記が変わっただけで状態が変化したわけではありません。

糖尿病の病態が解明されるにつれ、診断基準も変遷

 成人の糖尿病の大部分を占める2型糖尿病の病態がわかってくるにつれて、糖尿病の診断基準は変更されてきました。
 空腹時血糖が上昇して典型的な糖尿病になる10年以上前から、末梢組織のブドウ糖(グルコース)の取り込み量が減少する「インスリン抵抗性」が徐々に増大します。初期の数年は膵臓のβ細胞からのインスリン分泌が一時的に高まることで見かけ上の血糖値は安定しているものの、この状態が長く続くと膵臓のβ細胞が疲弊し、β細胞数も減少してインスリンの分泌低下が起こってくることで糖尿病が発症すると考えられています。

 1997年、米国糖尿病協会(ADA)およびWHOの糖尿病の診断基準は、それまでの臨床研究に基づき、「空腹時血糖値 140mg/dL以上」あるいは「75g糖負荷試験2時間値 200mg/dL以上」から、「空腹時血糖値 126mg/dL以上」に変更されました(文献1)。
 同時に、「空腹時血糖値 110~125mg/dL」を糖尿病予備群の中でも前糖尿病状態(prediabetes)あるいはimpaired fasting glucose(IFG:空腹時耐糖能障害)としました。また「75g糖負荷試験2時間値 140~199mg/dL」の人もimpaired glucose tolerance(IGT:耐糖能障害)で、食後高血糖が続く前糖尿病状態にあたるとしています。

 わが国では空腹時血糖および75g糖負荷試験で糖尿病型にも正常型にも属さない血糖値を示すグループを境界型と呼んでいますが、上記のIFGとIGTがこのグループに相当します(文献2)。

糖尿病予備群のなかでもメタボリック症候群の項目が当てはまる人は要注意

 さて2012年の調査で糖尿病予備群とされた1100万人の人は糖尿病の発症のリスクがありますが、すべての人が糖尿病に進展するわけではありません。
 日本で2008年に導入された特定健診の目的の一つは、糖尿病や糖尿病予備群の早期発見と、保健指導に基づく生活習慣の改善です。中でも糖尿病の進行による腎不全患者は増え続け、現在人工透析患者の過半数を占め、医療費増加の大きな要因になっています。このような腎不全患者を減らすことも、特定健診の目的の一つとなっています。

 特定健診での目標値はHbA1c(NGSP値) 5.6% に設定されていますが、この数値はIFGやIGTである糖尿病予備群の人たちを対象に設定されています。
 糖尿病予備群の中には、女性で高血圧や肥満、脂質異常もなく喫煙習慣もない人も入っていて、中には必ずしも生活習慣を大きく変える必要がない人もいます。つまり1100万人の中にはこのような人たちも含まれていることに注意が必要で、これらの人は定期的に血液検査で数値の推移を経過観察するだけでよい場合もあります。

 一方、糖尿病予備群の人たちの中でもメタボリック症候群の要素を持っている人は、糖尿病に到らなくても、高血圧や喫煙、脂質異常などの合併があると、心筋梗塞などの虚血性心疾患や脳卒中などのリスクとなる動脈硬化が早期に起こることもわかっています。

<メタボリックシンドロームの診断基準>
 内臓脂肪型肥満に加え、脂質異常、高血圧、高血糖のうち2つ以上の項目に当てはまる場合、メタボリックシンドロームと診断される
 内臓脂肪型肥満…腹囲(へその高さ) 男性85cm以上、女性90cm以上
 脂質異常…………中性脂肪 150mg/dL以上 かつ/または HDLコレステロール 40mg/dL未満
 高血圧……………収縮期血圧 130mmHg以上 かつ/または 拡張期血圧 85mmHg以上
 高血糖……………空腹時血糖値 110mg/dL以上

 健康診断における「空腹時血糖」と「HbA1c」の数値を経年的に見比べ、メタボリックシンドロームの診断基準に挙げられているリスク(高血圧、脂質代謝異常、肥満)を減らすように食事や運動などの生活習慣を見直すことで、糖尿病予備軍や糖尿病への進行を防ぐことが重要です。

【参考資料】
1)N Engl J Med 367:542-550,2012
2)糖尿病治療ガイド 2012-2013、日本糖尿病学会編、2012年

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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