健康診断の肝機能検査でわかること-B型・C型肝炎検査のすすめ

健康診断で必ず受ける肝機能検査AST、ALT、γ-GTP

健康診断でAST、ALT、γ-GTPの異常値を示す人の大部分は、肥満に伴う脂肪肝で、メタボの人も多い

健康診断の肝機能検査でAST、ALT、γ-GTP検査が一般的なのは日本だけ

 健康診断で一般的な肝機能検査として「AST」、「ALT」、「γ-GTP」という検査項目があります。いずれも労働安全衛生規則の健康診断の項目に入っています(1989年から40歳以上が対象)。
 AST (aspartate aminotransferase)とALT (alanine animotransferase)は、以前GOT(glutamic oxaloacetic transaminase)、GPT (glutamic pyruvic transaminase)と呼ばれていたものと同じものです。これらは呼称が変わっただけで同じ酵素を指しています。

 ASTとALTは肝細胞に含まれているアミノ酸変換酵素で「逸脱酵素」と呼ばれ、血液中での半減期は1~2日以内です。肝細胞が壊れたときに血液中に出てくるため、急性肝炎や慢性肝炎の指標として使われてきました。
 しかし、肝臓に炎症がない脂肪肝でもALTやASTが上昇します。またASTとALTは肝臓以外の臓器にも存在しているため、肝臓疾患以外の原因でも上昇することがあります。特にASTは赤血球や筋肉(骨格筋や心筋)にも含まれているため、健康診断で採血に時間がかかって赤血球が壊れたときや、健康診断の前日にマラソンをしたり、激しい筋肉トレーニングをしたりすると、基準値を超えて上昇することがあります。

 γ-GTPは胆道系酵素とも呼ばれ、胆管が閉塞したりして胆汁の流れが悪くなると上昇することがありますが、多くの場合は脂肪肝やアルコールの多飲によって上昇します。かつては飲酒に伴い上昇する酵素として有名でしたが、実際のところ過体重に伴う脂肪肝で上昇している人が過半数で、飲酒をほとんどしない人でも上昇していることがしばしばあります。

 日本では健康診断で一般的に行われるAST、ALT、γ-GTP検査ですが、米国の「USPSTF」(米国予防医学作業部会)では、肝機能検査は予防医学的な検査項目として取り上げられていません。
 これらの検査の異常で発見できる慢性疾患としては、ウイルス性肝疾患やアルコール性肝障害、脂肪肝などがあります。しかし、それらはB型肝炎やC型肝炎のウイルス検査(HBs抗原、HCV抗体検査)をしたり、飲酒量、過体重(BMI高値)などでスクリーニングすることができると考えられています。

 実際、健康診断でAST、ALT、γ-GTPの異常値を示す人の大部分はBMI 25.0以上の肥満に伴う脂肪肝で、しばしば脂質異常症や糖尿病、高血圧、メタボリックシンドロームなどを伴っています。ちなみに、平成12年の国民栄養調査では、すでに男性は40歳代で28.9%、50歳代で29.9%がBMI 25以上の肥満でした。最近の報告では、30歳代以上の男性でBMI 25%以上の肥満が約3割にみられ、肥満の人の3割以上が脂肪肝を伴っているといわれています。

特定健診の基準値がAST 30以下、ALT 30以下となっているわけ

 一般的な血液検査の基準範囲は、ASTは40以下、ALTは45以下などが使われていますが、これは健康な集団の平均値と偏差値から求められた統計的な数値です。偏差値で処理すると、上下各2.5パーセント(合わせて5パーセント)は基準から外れていると考えます(「賢い健診講座3 健康診断の検査の基準値」参照)。

 特定健診では、腹囲の増加(内臓脂肪の増加)、脂質異常症、高血圧、高血糖などを伴うメタボリックシンドロームでは高率に心血管系の障害が起こるため、これらの原因となっている生活習慣を改善することが目的となっており、そのため診断基準はやや厳しく設定されています。
 ASTが31~40、ALTが31~45の範囲でも、AST<ALT(健康な人は通常AST>ALT)でBMI 25以上の人はしばしば脂肪肝を伴っていることがあります。また脂質異常症、高血圧、高血糖を伴っている人は、それらの改善により肝機能もよくなることが多く、減量や運動が複数の検査項目を同時に改善することがしばしばです。減量により多くはAST、ALTともに30未満に改善し、AST>ALTとなります。

 しかし、減量により改善しない人の一部に、ウイルス性肝炎が見つかることがあります。日本では、成人になって新たにB型肝炎やC型肝炎にかかり持続感染して慢性化することはほとんどなくなってきています。ただし、軽度の肝機能異常を指摘され、これまで一度も肝炎の検査を受けたことがない人は、必ずB型肝炎とC型肝炎の検査をして、これらの感染がないか確認しておくべきでしょう。

 脂肪肝の大部分は、肝細胞に脂肪が沈着するだけの単純性脂肪肝ですが、ときに脂肪沈着とともに炎症や線維化が起こる「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH:non-alcoholic steatohepatitis)があり、肝硬変に至り、肝細胞がんを引き起こす場合があります。NASHは以前は極めてまれな疾患と考えられていましたが、最近、それほどまれな疾患でないことがわかってきています。

最近新聞を賑わせた、日本人間ドック学会の基準範囲について

 最近「日本人間ドック学会と健保連による150万人のメガスタディー」についての報告があり、検査項目の基準範囲について新聞や雑誌を賑わせました。

 そこで取り上げられていた27の検査項目の中に、肝機能検査としてAST、ALT、γ-GTP、総蛋白、アルブミン、総ビリルビン、アルカリホスファターゼ(ALP)の7項目が含まれています。

 しかし法定項目になっているAST、ALT、γ-GTP以外の項目は、検査としての有用性はこれら3項目に比べかなり低いものです。実際、平成14年に作成された日本人間ドック学会の「人間ドック成績判定及び事後指導に関するガイドライン」では、3項目以外を一次スクリーニングとして勧められないとしています(表参照)。
 それなのに、どうしてこれらの項目が27項目に含まれたのか不明であり、その根拠が明確にされていません。

 またこの報告は原著論文としてまだ採用されておらず、第三者の評価を通して医学的根拠が示されなければ、メガスタディーといってもデータとしての価値についてはまだ十分評価できないと考えます。

【参考サイト】
Mindsガイドラインセンター「最新の科学的知見に基づいた保健事業に係わる調査研究」基本的健康診査の健診項目のエビデンスに基づく評価に係わる研究 健診項目評価要約版 Ver.1.5 平成17年度 分担研究報告 分担研究者 福井次矢(http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0051/G0000137/0001

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
 丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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