女性に多い甲状腺の病気-健康診断で検査項目にいれるべき?

女性に多い!? 血液検査やエコー検査でわかる甲状腺の病気

甲状腺の病気は症状がないことも多い。人間ドックのオプションで甲状腺検査を選ぶのはどんなとき?

甲状腺の病気は頻度が高いが一般的な健康診断の項目ではない

 歌手の絢香さんが治療のため一時活動を止めたことなど話題に上ることが多い甲状腺の病気ですが、この病気にかかる頻度は高く、特に女性に多くみられます。ただし甲状腺の検査は一般的な健康診断の項目ではなく、人間ドックでも多くはオプションです。

 のどぼとけの下にある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を高めて全身の臓器の働きを促進する作用があり、甲状腺の異常は心身にさまざまな影響を及ぼします。
 甲状腺の病気には、甲状腺ホルモンの分泌が多すぎる「甲状腺機能亢進症」、少なすぎる「甲状腺機能低下症」、甲状腺腫瘍などがあります。

甲状腺の検査には視・触診、血液検査、画像検査がある

 甲状腺の検査には、視・触診、血液検査、画像検査(エコー検査)などがあります。健康診断の医師診察では、自覚症状や既往歴などを聞いて視・触診などが行われますが、頚部の診察で若い女性に甲状腺腫大(はれ)が見つかることがときどきあります。

 甲状腺腫大があるとバセドウ病などの甲状腺機能亢進症があるかのような誤解は医師の間にも多いのですが、実際そのほとんどは良性の甲状腺腫瘍や慢性甲状腺炎(橋本病;甲状腺機能低下症の原因となる)で、甲状腺機能亢進症はごく一部です。

 甲状腺機能亢進症の検査は血液検査が中心になります。血液検査では血液中の甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンを調べ、甲状腺機能の亢進や低下の状態を把握します。

 一方、腺腫や腺腫性甲状腺腫などの良性の甲状腺腫瘍や甲状腺がんなどの甲状腺に結節(しこり)をつくる疾患の場合、血液検査ではほとんど異常がみられず、医師診察やエコー(超音波)検査などで発見されます。

自覚症状のない人は、通常甲状腺検査の必要はない

 甲状腺機能亢進症は、健診による診察で発見されることもまれにありますが、ほとんどは基礎代謝の増加に伴う体重減少や頻脈、発汗促進、手の震えなどの症状が出た結果、血液検査をして診断されます。

 「賢い健診講座2 検査項目の科学的妥当性」でも紹介した米国のUSPSTF(米国予防医療専門委員会)は、無症状の成人に対する甲状腺機能の血液検査によるスクリーニング検査について、現在 I 判定(根拠が乏しいか、根拠がない)としています。

 体が疲れやすいとか体調が何かおかしいと感じている人は人間ドックのオプションとして甲状腺機能検査を受けてみてもよいかもしれませんが、自覚症状のない人では通常検査の必要はないといってもよいでしょう。

無症状の人に対する甲状腺エコー検査は過剰診断の可能性も

 米国の統計調査から、潜在性甲状腺機能亢進症・低下症(軽度の甲状腺機能異常)の人は、健康上問題なく経過することがしばしばで、一部の人は自然に回復していることがわかっています。このように、甲状腺疾患はどこまでを甲状腺疾患と捉えるか難しいところがあります。

 また、近年韓国では、大腸がんや胃がん、乳がんなど国が助成するがん検診の際に、甲状腺のエコー検査が安価なオプションで提供されるようになり、その結果甲状腺がんと診断される人が急増しました。
 2011年には約4万人が甲状腺がんと診断され手術を受けましたが、これは韓国での甲状腺がんによる年間死亡者数300~400人の約100倍にあたります。
 そのため、治療が必要でない甲状腺疾患を見つけ出して不必要な手術が行われているのではないかと指摘されています。

 甲状腺がんの大部分は進行の遅いがんであり(一部に悪性度の高いがんもある)、小さながんを早期に発見して治療することは「過剰診断」の危険があることが2014年に米国の雑誌(N Engl J Med 371:1765-1767,2014)で発表されました。

 この報告の共著者ウェルチ教授は、2011年に“Overdiagnosed: making people sick in the pursuit of health”(文献1:本講座5でも紹介、2014年に邦訳発刊)の中で、米国でも1975年から30年間甲状腺がんの死亡数はほとんど変わっていないのに新規診断数が増加しているのは、CTスキャンや甲状腺エコー検査などの診断法の増加に伴う「過剰診断」である可能性を指摘しています(図1)。

連載の終わりに

 健康診断の一つ一つの項目を見直し、その意義と現在の課題をお伝えできればと連載してきたこの講座も、今回が最終回です。各検査項目について、今後は医学的根拠に基づき、有用性だけでなく、時として有害性(harm)についても見直していく必要があります。

 近年はインターネットで医療情報が簡単に検索できますが、本当に信頼できる医療情報は少なく、情報の正しさを見極める必要があります。その中で、検診や予防医療についての情報は、USPSTF(米国予防医療専門委員会)のサイト1)が大変参考になります。

 ほかにも医療提供者が発信する米国の「Choosing Wisely(賢い選択)」2) 、メディアで報道される医療情報を評価する米国のHealth News Review3)などがあります。
 後者はオーストラリアで始まった「メディアドクター: Media Doctor」の活動がさきがけで、日本でもメディアドクター研究会4)という活動につながっています。

【参考サイト】
1) http://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Name/home
2) http://www.choosingwisely.org/
3) http://www.healthnewsreview.org/
4) http://www.mediadoctor.jp/

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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