いざというときに役立つ自分のカルテ「健康手帳」を作ってみよう

自分の健康を守るために作る、「大人版」母子健康手帳

これまで自分の体におこったことや服用している薬を「自分のカルテ」にまとめておきましょう。

現在の体の問題を解決するには、これまでの健康の歴史を知る必要がある

 私は東京の総合病院で働く内科医です。これまで都市、地方、米国などの病院で働いた経験がありますが、どこで働いていたときも、私が病院でお目にかかることができるのは、健康に関してすでに何らかの問題がおきてしまった方々です。

 内科医の仕事は、患者さんの現在の体についての問題点を明らかにして、解決策を考え、患者さんと相談しながら治療を進めていくことです。患者さんお一人お一人の問題は、もちろんどれ一つ同じことはなく、体調の変化、これまでの病気、いつも飲んでいる薬、ご家族の健康状態など、診断にたどりつくために必要な情報をうかがっていく必要があります。残念ながら「黙って座れば、ぴたりと当たる」というわけにはいかないのです。

 お話をうかがっていくなかで、「どうしてこんなことを聞くのですか? そんな昔のことはもう覚えていないのですが」といぶかしくお感じになる方もいらっしゃいますし、また、「どうして、いつも同じことを医師は聞くのでしょうか?」とお尋ねになる方もいらっしゃいます。

 でも、現時点の体についての問題を解決するのには、ご本人のこれまでの健康の歴史を教えていただくことがとても大切です。私たちが、可能性の高い診断を考え、治療を始めるための重要な手がかりとなるからです。
 もちろん、これまで体におこった出来事をすべて覚えておくことはなかなか難しいことです。覚えておくかわりに、記録をつけておけばとても役に立ちます。

自分の健康を守るために、自分のカルテを作ろう

 聖路加国際病院の日野原重明先生は、患者さんがご自身のカルテを自分で作ることの大切さについて、以前から次のようにおっしゃっています。

 「病歴にしても、何かの症状にしても、それを経験している患者さん自身が、いちばん正確な情報を持っているんです。その自分の体の正確な情報を、患者さんが事前にまとめていれば、たとえ3分という短い診療時間でも、充実した時間に使うことができる。自分のカルテをつくることは、自分の健康を守ることにつながるんです。」(「ほぼ日刊イトイ新聞-Dear DoctorS ほぼ日の健康手帳」より)

 「自分のカルテを作るなんて、すごく大変で面倒だ」とお感じになる方も多くいらっしゃるかもしれません。でも、日本には個人の健康の記録に関して、誰もが経験している、とてもすばらしい制度があります。

 それは、母子健康手帳です。母子健康手帳は、母親の妊娠中から出産、その後の発育記録や予防接種の記録など、子どもの成長の過程で何度も振り返る機会のある、大切な記録をまとめた手帳です。日本独自のこの制度は途上国にも紹介され、その国の人々の健康を守るためにも活用されています。

 「自分のカルテ」は、日本人になじみの深い、子どものための母子健康手帳の「大人版」と考えていただければよいかと思います。

体の基本情報や病院でしてもらいたいことを書き込んでいこう

 「自分のカルテ」にまとめておくと役に立つのではないか、と私が考える基本的な項目は以下のようなことです。もちろん、このほかにもいろいろな記録の方法がありますから、ご自分で使いやすく工夫してみていただければ、と思います。

●体の基本情報や病気の記録
(1)これまでにかかった病気の記録(通院中の病気・入院したことのある病気や手術)
(2)今、服用している薬の名前
(3)過去にアレルギーをおこした薬の名前とそのときの症状
(4)これまで受けた予防接種の記録

 また、前述の日野原先生も言及していらっしゃいますが、日本の医療保険制度のもとでは、お一人の患者さんに医師が割くことができる時間が、残念ながらきわめて限られています。短い診療時間のなかでも、ご自分の健康に関する問題点を事前に整理しておくことで、患者さんの貴重な時間を問題の解決のために有効に使うことができます。

 私は、病院に行く前に、体についての7つのポイントをまとめておくことを患者さんにおすすめしています。これらもご自分のカルテにメモしておくと便利です。

●病院に行くときにまとめておきたい7つのポイント
(1)今日はなぜ病院に来ようと思いましたか。
(2)なかでもいちばん困っていることは何ですか。
(3)その症状は、いつから続いていますか。
(4)それは何をすると悪くなるような気がしますか。
(5)それは何をすると良くなるような気がしますか。
(6)これまで同じような症状で別の病院に通ったことがありますか。
(7)今日、これだけはやってほしいと思うことは何ですか。

 「自分を守る」ために、ご自分のカルテをぜひ作ってみてください。きっと役に立ちます。

 しかしそうはいっても、ご自分で白いノートに必要な項目を書き出し、「自分のカルテ」を作っていくのはなかなか面倒かもしれません。気軽に自分のことを記録して、自分を守るために使うことができれば便利だろうなと考え、このたび、このような要素をコンパクトにまとめた手帳を作りました。

 『DearDoctorS ほぼ日の健康手帳』は、私が長年作りたいと思っていた内容を、糸井重里さん、詩人の谷川俊太郎さん、聖路加国際病院の日野原重明先生のお力をお借りして、気軽に使っていただけるように盛り込んだ自主企画の手帳です。ウェブサイトの「ほぼ日刊イトイ新聞」www.1101.com/deardoctors には、その内容を詳しくご紹介しています。

 ウェブサイトでの販売のほか、全国のLOFTの店頭、聖路加国際病院や長野県の佐久総合病院などの医療機関でも手に入れることができます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

 ご自分の健康の歴史を書き込む時間は、ご自分の健康の未来を考える貴重な時間となります。「自分を守る」ための「自分のカルテ」を、ぜひ、お作りになってみてください。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
本田 美和子先生


国立国際医療センター 戸山病院
エイズ治療・研究開発センター専門外来医長
1993年筑波大学医学専門学群卒業後、国立東京第二病院(現・国立病院機構東京医療センター)、亀田総合病院、国立国際医療センターに勤務。1998年より米国フィラデルフィア市のトマス・ジェファソン大学にて内科レジデント、ニューヨーク市のコーネル大学病院老年医学科フェローを経て、2002年現職につく。2008年11月より緩和ケア科併任。内科医。著書に『遥か彼方で働くひとよ』(朝日出版社)、『エイズ感染爆発とSAFE SEXについて話します』(朝日出版社)がある。『Dear DoctorS ほぼ日の健康手帳』を企画・監修。

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