認知症と物忘れのちがいとは? 認知症を見分ける8つのチェック

あまり心配ない忘れ方と、ちょっと心配な忘れ方の違い

年をとれば誰でも進む「もの忘れ」。忘れることを自覚できないなら認知症の可能性。メタボ予防は脳にもよい

忘れっぽいことを自覚できるなら単なる老化

 昔見た洋画の主演俳優の名前が出てこない、重要な書類をどこにしまったか思い出せない――こんな「もの忘れ」の経験はありませんか? 年をとれば誰にでもあること、と気楽に考えることができる一方で、そんなことが時々あると、「もしかして悪い病気?」と心配にもなります。
 そうなのです。もの忘れという現象は実際に、認知症の初期の症状として現れることがあるので、気楽に構えてばかりもいられないのです。老化に伴い誰にでも現れるもの忘れと、認知症の初期症状としてのもの忘れとでは、どういうところが違っているのでしょうか。

 毎日の生活のなかで、私たちはさまざまな情報に接したり体験を重ねたりしています。それらの情報や体験はいったん、「短期記憶」として脳に蓄積されます。そのなかから、繰り返し記憶されたものや重要なものは「長期記憶」として保存され、そうでないものは消えてしまいます。老化によるもの忘れというのは、長期記憶として保存されているもののなかから必要な情報を取り出すのが、加齢とともに遅くなっていく現象です。ほしい情報がなかなか取り出せないだけで、情報そのものがなくなったわけではありません。

 一方、認知症の場合は、情報を初めに短期記憶として保存する神経細胞が壊れているのです。このため、つい今しがた接した情報でも記憶として残っていません。これが外からは、ひどいもの忘れの現象としてみえるのですが、やがて長期記憶として保存されていた昔の情報も消えていきます。

 この2つのもの忘れの違いを、いくつかのシチュエーション例で比べてみると、以下のようになります。

 以上の2つの忘れ方の違いは明らかです。老化に伴うもの忘れは接した情報や体験の一部を忘れるだけですが、認知症では情報や体験それ自体を忘れてしまうのです。そして、前者では忘れっぽくなったという自覚が本人にありますが、後者ではその自覚がないか乏しいため、社会生活に困難を来たす場合が出てきます。

脳の働きを活発にしてもの忘れを減らす

 認知症は一般的には70代、80代になってから発病し、原因の多くはアルツハイマー病、脳血管性認知症、それに最近注目されているレビー小体病です。64歳以下で発病した場合若年性認知症とよばれます。認知症は進行していく病気ですが、それぞれに治療法の研究が進んでおり、少しでも早く発見して早期に治療を始めれば、進行を遅らせることが可能です。若年性アルツハイマー病は進行が速いため、とくに早期発見が重要です。
 病的なもの忘れを見逃さないように注意し、何かおかしいと思うことがあったら、早めに物忘れの診療をしている外来を受診しましょう。地域の保健センターに問い合わせるか、日本老年精神医学会や日本認知症学会のホームページでも情報を得ることができます。

 脳血管性認知症は、脳血管の動脈硬化や不整脈から生じる血栓によって脳の血管が閉塞し、脳梗塞ができることが主な原因です。したがって、脳の血液循環をよくし、脳梗塞を予防することが脳血管性認知症の予防につながります。

 また、動脈硬化を防ぐことはアルツハイマー病の予防にもつながることが最近の研究でわかってきました。動脈硬化に対しては、今関心の高いメタボリックシンドロームが危険因子です。つまりメタボの予防は、動脈硬化を防ぐと同時にもの忘れ予防にもつながります。
 メタボの予防法で一番に挙げられているのは、定期的に運動をすること。ウオーキング、ジョギング、水泳などといった有酸素運動を日常的に続けていると、内臓脂肪型肥満、高血圧、脂質異常、高血糖などメタボを判定する項目の改善につながります。何よりも、よく運動する人はそうでない人より認知症になりにくいという報告もあるのです。

 食事の改善も重要です。動物性脂肪の多い食事は控えめにします。ビタミンA・C・Eやポリフェノールなどの抗酸化物質の多い緑黄色野菜をたくさんとることは、体内にできる活性酸素を減らして脳機能への悪影響を抑えるとされています。魚を毎日食べると、アルツハイマー病になりにくいという報告もあります。

 脳そのものへの刺激として、脳の前頭前野という部分を活性化すると、認知症の発病や進行を抑えることができると考えられています。1ケタの簡単な足し算、漢字の書き取り、文章の音読などが効果的といわれますが、ゲームや趣味などを人との交流を通して楽しみながら続けることも、前頭前野だけでなく脳全体を活性化することがわかっています。
 そして、「最近もの忘れが進んだみたい……」などとしょげるより、気持ちを明るくもって前向きに毎日を過ごそうとするほうが、もの忘れの抑止には役立つのではないでしょうか。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
水上 勝義先生


筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学 准教授
1984年筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院精神神経科、都立松沢病院を経て、1990年筑波大学臨床医学系講師、2002年同臨床医学系助教授、2004年4月同大大学院人間総合科学研究科精神病態医学助教授(現准教授)。専門は臨床精神医学、老年精神医学。アルツハイマー病の病態解明と治療の開発についても研究している。日本老年精神医学会評議員、日本神経精神医学会評議員、日本うつ病学会評議員、日本神経病理学会評議員など。

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