病院にいくかどうか迷ったら-早めの受診をすすめる理由

悪くなってからの病院通いは大変。治療に時間もお金もかかる

主治医をもち、定期的に受診することは、結果的にみて医療費削減につながります。

少し調子が悪いと感じた時には、相当に悪くなっている可能性が

 私たちの体は、大きな余力を持っています。たとえば、肝臓。通常の機能の10分の1くらいになって初めて、肝臓が弱った兆候が出るのです。同じようなことは、肺や心臓、腎臓でもいえます。少し調子が悪いと自覚した時には、少し悪くなったのではなく、相当に悪くなっている可能性があるのです。

 また、私たちの体は多少のダメージなら自分の力で回復する(治す)力も持っています。しかし、余力が底をついた状態では、体は、次々と出されるオーダー「酒を分解して!」「脂肪を分解しろ!」「尿をつくって!」「血圧を保て!」……に応えていくのが精いっぱいで、ダメージを受けた臓器の回復にまでは手が回りません。したがって、自分以外の力に頼らざるを得なくなるのです。本格的な治療が必要になり、時間もお金もかかります。単発的に受けたダメージに比べ、継続的に受けたダメージを回復するには倍以上の時間がかかってしまいます。
 しかも、現に調子が悪いのですから、病院通いは大変。ご存知のとおり長い長い待ち時間の上に、あっちこっちと検査に回されてクタクタ……。ぎりぎりまで体を追いつめてしまえばしまうほど、おのずと検査項目も多くなります。そして、病院にかかってよけいに具合が悪くなって……。まさに負のスパイラルへ突入です。

心配がごくごく小さいうちに病院へ! 

 そもそも、人間の体はたくさんの歯車がかみ合って動いているシステムの塊(かたまり)です。そしてその人間一人ひとりも、外の世界の歯車とかみ合っているシステムの一つです。
 ですから、どこか一つの歯車が調子をくずすと、最初はカタカタくらいだったのが、だんだんガタガタになってきます。そして体が壊れ、やがて家族も仕事も……。せめて最初のカタカタで食い止めましょう。

 だいたい、大病かもしれないという大変大きなストレスを感じながら受診するよりも、「先生の顔を見に行く」くらいの気持ちで受診するほうがどんなによいかしれません。
 「どこも悪くないのに病院に行けるか?!」と思いますか? でもよーく耳を澄ますと「最近ちょっと疲れやすいような気がする」とか「なんだかいつもよりお腹がゆるいような気がする」などなど、体のひそやかなつぶやきが聞こえてきませんか。その段階が受診のタイミング。心配がごくごく小さいうちに病院に行きましょう。

 早期に受診するといっても「なんだかわからないけど来ました」では医者もどうしてよいかわからず、互いに向き合って無言の禅問答になってしまいます。コツは、具体的な症状を何か一つでも見つけて行くことです。その症状は、いかにも何かの病気に直接かかわっていそうな症状でなくてもかまいません。「いつもと違う何か」を感じ取ってほしいのです。
 私が勤務している病院で経験した二人の方のエピソードを紹介しましょう。

 一人目は50代の女性です。その方は「ここ数カ月、乳房に違和感がある」と受診されました。違和感は痛みでもつれる感じでもなく、ただ「おかしな感じ」だったそうです。結果は、ごくごく初期の乳がんでした。初期の乳がんは痛みもなくしこりも触れず、無症状であることがほとんどです。でも詳しい検査を受けると、見つかることがあります。
 後日、「なんとなくね、おっぱいが病院に行ってくれって訴えている感じだったのよね。」とおっしゃっていました。科学では証明できない「体のひそやかなつぶやき」が彼女には聞こえたのでしょう。それですぐ病院に来てくれたので、早期治療につなげることができました。

 もう一人は初老の男性で、心配顔の奥さまと一緒に外来にいらっしゃいました。見たところ顔色もよく、お元気そうです。検査前の診察では医師も「たいしたことない」という見立て。その方は「お前が心配しすぎなんだ」と奥さまに対して小言を言っていました。ところが血液検査やレントゲン検査の結果が出ると、場は一転しました。重度の肺炎を起こしていたのです。医師も「外と中(検査結果)がこんなに違うなんて初めてです。即入院してください。これ以上様子を見ていたら危険でした。」と。
 これは、何でもないと言い張るご本人を無理やり受診させた奥さまのお手柄です。でも、どうしてわかったのでしょう? 奥さまにお聞きすると「この1週間、ずいぶんはっきりとした寝言を言っていたのです。こんなこと今まで一度もなかったので、なんだか胸騒ぎがして……。」とのことでした。

相性のよい医師を主治医にもち、体の状態を把握してもらおう

 さらにおすすめしたいのは「主治医を持つ」ことです。何も主治医になってくださいと頭を下げてお願いするわけではありません。こちらが勝手に認定するのです。大きな病院の医師である必要はありません。通いやすい地元の医療機関に定期的になんだかんだと顔を出して、自分の体の状態を把握してもらいましょう。何か異常があれば、いち早く見つけて、専門医を紹介してくれます。ぜひ相性の良い医師を見つけてください。

 私の知人に、長年付き合っている「勝手に認定主治医」を持っている人がいます。最近その方が不整脈を自覚しさっそく受診したところ、その主治医から「私も不整脈だから大丈夫」と言われたそうで、「あの医者大丈夫かね?!」と笑っていました。常日頃から診てくれている医師だからこそできる診断です。初めての病院にかかったら、心電図から何から検査攻めにあっていたところでしょう。もちろん、その方は毎日元気に動き回っています。

 国全体として医療費がふくらんでいる状況で、「たいして体調が悪くもないのに受診とは、医療費の無駄使い」と思われるかもしれません。いえいえ、完全に悪くしてしまってからそれを治すためにかかる治療コストと比較すれば、結果的には医療費の削減に貢献することになります。しかも、あなたが元気で生き生きと生活していれば、ご家族のみなさまも元気になり、仕事もはかどり、「いっちょみんなで外食でもするか! それともいっそ旅行にでも出かけるか!!」と経済効果もうなぎ昇りで日本が元気になります。それでこそ、有効な医療費の使い方というものです。
 ぜひ、本当に具合が悪くなる前の受診をおすすめいたします。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 憂子先生


医療コーディネーター、看護師
専修大学法学部法律学科卒業。法律事務の仕事に従事していたが、思い立って看護師を志願。国立東京病院付属看護学校卒業。国立病院で臨床経験を重ねたのち、看護教員として教壇に立ち看護師育成にも携わった。現在、国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科在学中。乳がんと女性をテーマに、乳房の異常に気付いた女性が医療機関を受診するまでの経過期間に影響する因子などを研究中。看護師、介護支援専門員、心理相談員、医療コーディネーター、「学校でのがん教育を考える会~Cancer Education @ School」代表。

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