【医者が教える】高齢者の在宅医療‐最期を自宅で過ごした患者さんの例

本人にも家族にも満足のいく最期。家での看取りを支える医療

患者さんと家族がかけがえのない時間を過ごすためにサポートすること。それが在宅医療にかかわる者の務め

やるべきことを再確認させてくれる患者さんのご家族からの手紙

 親御さんの最期(さいご)のとき、家族はどのように過ごしたいと考えるでしょうか。それは、何よりも優先されるべき尊い想いであり、それを叶えるために専門家としてベストを尽くすのが、在宅医療にかかわる医療・介護に携わる私たちの務めです。

 先日、私と同行したスタッフが、訪問した患者さんに言いました。「私たちは患者さんのお役に立つためにいるのです」。それを聞いた患者さんとご家族は、私たちの顔をじっと見つめ、そして涙を流されました。
 私は、人の尊厳を守る専門家としての責任と使命感とともに、誇りと喜び、そしてそう言ってくれたスタッフへの頼もしさと感謝の気持ちを胸に、お宅を後にしたことを覚えています。

 それから数日後、その患者さんは亡くなりました。
 私たちはいつものように、クリニックの全員で患者さんに黙祷を捧げ、生前のエピソードを共有しました。かかわった者としての悼み、そして私たちがやるべきこと、つまり「その人らしい人生を支える」ことができたのか、自分たちを振り返るためです。

 そうしてかかわった患者さんのご家族から、後日お手紙をいただくことがしばしばあります。四十九日が過ぎたころ、あるいは半年が過ぎたころ、その時期の状況はご遺族によってさまざまです。ただ共通するのは、深い悲しみにとらわれていた心が少し落ち着き、改めて故人のこと、自分のことを考えることができるようになったころなのだと思います。

 そのお手紙で、私たちは知ります。患者さんの気持ち、ご家族の気持ち、そして、私たちができたこと、できなかったこと。お手紙は私たちにやるべきことを再確認させてくれます。患者さんは、このようにして、私たちを育て、励ましてくれます。
 今回はそのお手紙を一つ、ご紹介します。

母を囲んで毎晩宴会。家族がかけがえのない時間を過ごすことができた

 この患者さんは、83歳。女性。
 骨盤内悪性腫瘍を罹患し全身に転移、最期を自宅で過ごしたいと、病院を退院されました。退院後、18日という短い期間でしたが、私たちは全力で患者さん、そしてご家族を支え、ともに過ごしました。

【患者さんからのお手紙】
 ※患者さんとご家族のお名前は仮名です。

 謹啓
 亡き母秋山紀子の次女、秋山由紀でございます。
 ご無沙汰いたしまして申し訳ございませんでした。おかげさまで葬儀も無事すみ、ほっとしているところです。

 祐ホームクリニックの皆様には大変お世話になり、家族一同心より感謝いたしております。
 はたして自宅で母を看ることができるのか、不安なスタートでございましたが、病院からの帰宅早々に先生においでいただき、一気にその不安が消えました。
 貴クリニックの実に誠実で確かな往診に、母も家族も全幅の信頼を持って、感謝と安心の日々を送ることができました。

 オキシコンチンを服用してからはウトウトとした日々でしたが、亡くなった日は、テレビを見たあと、姉と私で背中をさすっていたら、「気持ちがいい!」と言い、冷たいお水を一口飲み、大きく息をし、スーッと息を引き取りました。姉と私の腕の中で本当に穏やかに実に安らかな最期でございました。

 母が病院から家に帰ってから、家族が毎日集合し、毎晩母を囲んで宴会をしておりました。
 母の望まないことは一切せず、家族の気持ちを一つにし、皆様に支えていただき、最期まで悔いのない日々を送ることができました。
 自宅に戻った母の笑顔は天下一品でした。

 先生がたの「私たちは秋山さんのお役に立つために来ています。どうぞ何でもおっしゃってくださいね」という言葉に、母も私も本当にうれしくて涙がこぼれました。この言葉を心の支えに、18日間最後まで頑張ることができました。

 ここに生前賜りましたご厚情に深くお礼申し上げます。
 忌中につき参上をご遠慮いたし、略儀ながら書面をもってご挨拶申し上げます。
 本当にありがとうございます。

かしこ


 このお手紙からいただいたものは「誇り」。医療者として、患者さん、ご家族の人生にかかわり、家族がかけがえのない時間を過ごすサポートをすることができたことを、教えていただきました。このように大きな励ましをいただくことは、私たちが一層よい仕事をするための糧となることでしょう。

 皆さんは、何を感じられたでしょうか。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
武藤 真祐先生


在宅医療専門 祐ホームクリニック 院長
NPO法人ヘルスケアリーダーシップ研究会 理事長
1996年東京大学医学部卒業。2002年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D.)。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職学位課程修了(MBA)。東京大学医学部附属病院、三井記念病院にて循環器内科、救急医療に従事。診療所にて在宅医療にも従事する。 2004年より2年半、宮内庁で侍医を務めたのち、戦略系コンサルティングファームマッキンゼー・アンド・カンパニーにて2年間コンサルティングに従事。その後、医療の側面から社会に貢献したいと在宅医療専門クリニック「祐ホームクリニック」を開設、現在に至る。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、米国医師資格試験合格、米国公認会計士、MBA。

この記事を見ているひとはこんな記事も見ています

母の存在が重い…【母娘クライシス】を抜け出す6つのコツ

年末年始に帰省したものの、母親との関係にどっぷり疲れて……。そんな、実母との確執に悩む女性が増えているようです。“母娘クライシス(危機)”はどうすれば乗り越えられるのでしょうか。 良妻賢母だった母が
特に娘を苦しめる! 多くの女性た... 続きを読む

宴会で大皿取り分け、いい女

自分でやれば少なめに盛れる
その日にあれこれオーダーできる宴なら、ダイエッター向きのメニューをリクエストすることができるけれど、忘年会でいちばん頭が痛いのは、それすらかなわないコース料理かもしれません。
... 続きを読む

【医者が教える】高齢者の在宅医療‐被災地で必要な介護とは

3月11日の大震災に対して、日本中、世界中がその不幸を悼み、そして今後の被災地の復旧、復興を願い、応援しています。私も、その一人です。
私が初めて被災地、石巻市を訪れたのは、4月下旬のことでした。避難所では、物資や人的援助はおおむね充... 続きを読む

意外に間違えている人が多い!夜のスキンケアの基本を再確認しよう♪

日本人は過剰なスキンケアをしがちです。フランスでは、メイクを落としてそのまま就寝という地方もあるようですから、美肌を保っているのは洗顔だけではなさそうです。では、どこがどのように間違っているかをチェックしましょう。意外に間違えている人が... 続きを読む

【医者が教える】高齢者の在宅医療‐初めての訪問医療と費用のこと

このシリーズでは、在宅医療について詳しく知っていただくために、毎回具体的な事例(ケース)を紹介しながら解説しています。第1回目は、ご家族が患者さん本人の希望を適えようと、不安を抱えながらも「在宅医療」を選択したケースを紹介しました(「Dr... 続きを読む

【医者が教える】高齢者の在宅医療‐通院がつらくなったとき

はじめまして。在宅医療専門「祐(ゆう)ホームクリニック」の院長の武藤真祐(むとう しんすけ)です。日々、主に高齢の患者さんのご自宅に伺い、必要な医療等の支援を行っています。
現在日本は高齢化率22.7%(平成21年現在)、10人のうち... 続きを読む

地域によって異なる『地域包括ケアシステム』-都会の仕組みは?

たとえ介護が必要になったとしても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けたい。その願いを実現するために、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」が動き出しています。(『高齢者の暮らしを支える「地域包括... 続きを読む

【医者が教える】高齢者の在宅医療‐被災地で感じた心のケアの必要性

今年の4月下旬に東日本大震災の被災地を訪れた私は、在宅医療が必要とされている現状を目の当たりにしました。それから4カ月後の9月、甚大な被害を受けた宮城県石巻市に、在宅医療専門診療所「祐ホームクリニック石巻」を開設、地元で被災した方々をスタ... 続きを読む

【医者が教える】高齢者の在宅医療‐課題は認知度と24時間体制

前回の「Dr.MUTOの在宅医療講座 8」では、少子高齢化が進むわが国で、在宅医療が社会から求められているということをお話しさせていただきました。その理由は、次のようなことでした。 ・都市部で急増する孤立した高齢者と社会とをつなぐ役割とし... 続きを読む

芸術療法とは-本来の自分を取り戻し、自分の価値基準を発見する

猛暑だった今年の夏も過ぎ去り、秋の虫の声を聞く季節となりました。小学校からは、運動会の練習をする子供の声が響いてきます。ビジネスマンの方は、下期が始まり、新たなゴールに向かって動き出す時期となりました。慌しいオンタイムの一方、日没も早くなり... 続きを読む